物理Q&A:質量欠損とはなんですか

2025/03/02に公開

一般の方を対象に質量欠損についてざっくり簡単に説明します。

実験

質量欠損とは2つの物体を結合すると軽くなる現象です。

それではさっそく机の上にあるものを使って質量欠損の実験をしましょう。 用意するものは磁石と鉄(ダブルクリップ)です。

磁石を鉄にゆっくり近づけます。磁石は近づくにつれて勢いよく鉄に引き寄せられます。磁石が鉄にぶつかって「かちゃ」と音がして磁石と鉄が合体します。磁石がいきおいよくぶつかるとその衝撃で磁石と鉄の温度が少しだけあがります。

ぶつかると温度があがるのですか

あがる温度は微々たるものなので実際に、はかって確かめたわけではありません。ですがたとえば鉄の釘をトンカチで何度もたたいてみてください。一生懸命叩くとだんだん鉄の釘はあたたかくなってきます。

AIに聞いてみるとこう答えました。

釘を鉄鎚で何回叩くと熱くなるかは、叩く力によりますが、普通の力なら30~50回、強く叩けば10回程度でも温かくなる可能性があります。

磁石と鉄が1回だけぶつかっても少しだけ温度があがるのです。

起きたことをまとめてみましょう

実験をよく観察してください。なにが起きたのでしょうか。

反応が起きる前にあったのは2つです。ひとつは鉄。もうひとつは磁石です。この2つは離れておかれていました。 反応が起きた後にできたものは3つです。ひとつは合体した鉄と磁石です。もうひとつは「かちゃ」という音です。最後のひとつは熱です。

音はエネルギーを持っています。熱もエネルギーを持っています。

音と熱にエネルギーがありますか

マイクロフォンは音を拾って電気信号にかえます。マイクロフォンは音のエネルギーで発電しているのです。

熱にはエネルギーがあります。火力発電所も原子力発電所も燃料を燃やして水を沸かして(熱エネルギーを使って)発電しています。

反応前後のエネルギーを考える

エネルギーが外に逃げなければエネルギーの量は反応前後でかわりません。エネルギーの姿かたちはかわることがあってもエネルギーの総量はかわらないのです(エネルギー保存の法則)。

反応前のエネルギーは2つです。

  • 鉄が持っていたエネルギー
  • 磁石が持っていたエネルギー

反応後のエネルギーは3つです。

  • 合体した鉄と磁石が持っているエネルギー
  • 発生した音のエネルギー
  • 発生した熱のエネルギー

反応前の2つのエネルギーの和と反応後の3つのエネルギーの和がひとしくなります。

反応前後の質量を考える

相対性理論によるとエネルギーと質量は同じものです。 ですので反応前の2つの質量の和は反応後の3つの質量の和とひとしくなります。

わかりやすく天秤のイラストを描いたので見てください。反応に使ったものと反応でできたものをもれなく天秤の左右にのせると重さ(質量)がつりあいます。

しかし時間がたつと音と熱は拡散してどこかに逃げて行ってしまいます。反応後の音・熱をとりのぞくと反応でできたものの方が軽くなります。

つまり合体前後で鉄と磁石の質量をくらべると、合体した鉄と磁石の方が軽いのです。これが質量欠損です。

※ 磁石と鉄の結合エネルギーがへった分だけ質量がへるのです。
※ 質量の変化は微々たるものなので実際にはかってたしかめることはできません。理論上そうなるという話です。

そのほかの反応

今回の実験は磁力で2つの物を合体させました。ほかの反応でも同じように合体したものが軽くなります。

  • 燃焼:炭素と酸素分子が合体してできた二酸化炭素のほうが軽い
  • 核融合:陽子と中性子が合体してできた重水素核のほうが軽い

※ 核融合では実際に軽くなることが実験で確かめられています。

結局質量欠損とはなんですか

磁石と鉄がくっついたり、化学反応(燃焼)、核反応(核融合)がおきると音、光、熱などのエネルギーが発生します。反応直後は光り輝いて熱くなるのですが、時間がたつとエネルギーが逃げていって光らなくなり冷めてしまいます。その状態で質量をはかると逃げて行ったエネルギーのぶんだけ軽くなるという現象です。

※ 一般的に逃げて行ったエネルギーは結合エネルギーに等しいです。つまり反応前後の質量変化から結合エネルギーが計算できます。

燃焼と質量をめぐる解釈

炭が燃えると灰が残ります。日常においては物が燃えると軽くなるとおもわれています。

◆ 炭 ≧ 灰

しかしこれでは気体が無視されています。化学的に考えると炭素が空気中の酸素と結合して二酸化炭素になるのです。気体もあわせると化学的には燃焼前後で質量は変わらないとされています。

◆ 炭(固体) + 酸素(気体) = 灰(固体) + 二酸化炭素(気体)

しかし物理的には質量欠損がおきているので精密にはかると、できたものは軽くなっているはずです。

◆ 炭 + 酸素 ≧ 灰 + 二酸化炭素

しかしこれではエネルギーが無視されています。相対性理論ではエネルギーには質量があります。光と熱エネルギーなどもあわせると質量は保存します。

◆ 炭 + 酸素 = 灰 + 二酸化炭素 + 光(エネルギー) + 熱(エネルギー)など

光・熱などを含めて反応前後のすべてを考えると質量は変化しないのです。

まとめ

  • 反応前後で質量は変わらない(質量保存則)
  • そこから熱などを取りのぞく(冷ます)と軽くなる(質量欠損)
  • なぜなら熱エネルギーなどには質量があるから

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