前提
A:与えられた正方行列。
\lambda:固有値(スカラー)。
x:固有ベクトル(非0)。
I:単位行列。
固有ベクトルが非0なのは、0ベクトルが線形変換によって方向を変えないのは当たり前だからです。わざわざ固有ベクトルには含めないのです。
最初の条件
右辺の
\lambda xでは、ベクトル
xをスカラー
\lambda倍しています。
この操作を線形変換として捉え直してみましょう。
スカラー
\lambda倍するということはつまり、原点を中心に線形空間全体が
\lambda倍に拡大・縮小されるということです。
そしてその線形変換は行列
\lambda Iと表現できます。
\lambda Iは対角成分がすべて
\lambdaで、それ以外の成分が
0の対角行列であり、標準基底に含まれるすべての単位ベクトルを
\lambda倍する変換を表すからです。
原点を中心に、各軸方向に
\lambda倍するイメージですね。
ということで、最初の条件は
と表すこともできます。
式を変形します。
スカラー
\lambdaを行列
\lambda Iと捉え直しておいたことで、
A - \lambda Iが行列同士の引き算となり、一つの行列として扱えるようになりました。
ベクトル
xに行列
A - \lambda Iを作用させるという形式になっています。
そして、行列
A - \lambda Iは非
0ベクトルの
xを
0ベクトルに変換するということがわかります。
さて、非0ベクトルを0ベクトルに変換する、とはどういうことでしょう?
まずそれぞれのベクトルの特徴は
非0ベクトル:始点が原点にあり、終点が原点以外の任意の点にある矢印。
0ベクトル:始点も終点も原点にある、動かない点のようなベクトル。
というものです。
つまり非0ベクトルを0ベクトルに変換する操作は、少なくともある特定の非0ベクトルの終点を原点に持ってくるような線形変換である必要があります。
矢印を点に押しつぶすイメージですね。
そして線形変換では、まっすぐな線はどの部分も同じ割合で一様に伸び縮みします。
もし特定の非0ベクトルが0ベクトルに変換される(長さが0倍になる)なら、その非0ベクトルを同じ方向(真逆含む)に定数倍した全てのベクトルも同じ比率で一様に伸縮し、全て0ベクトルに変換されます。
それらのベクトルは全て同じ一本の直線上にありますからね。
これは、その特定のベクトルが作る直線が原点に集約されたということです。
一本の線が情報量を失い、ただの点になってしまったイメージです。
そしてこの現象は、その特定のベクトル(とそれが示す直線)の方向に、線形空間の次元が押しつぶされたと表現できます。
つまり行列A - \lambda Iによる線形変換は、線形空間を低次元に押しつぶすものだと分かります。
ここで行列式の値の意味を思い出すと、「線型変換によって、線形空間内の任意領域の大きさ(体積や面積のこと)が元の何倍になるかを示す数」でした。※1
行列A - \lambda Iによる線形変換が線形空間を低次元に押しつぶすということは、まさにその任意領域の大きさが元の0倍になるということです。
例えば立体を平面に押しつぶしたら体積は0になりますし、平面を直線に押しつぶしても面積は0になりますよね。
ということで、行列A - \lambda Iの行列式\det(A - \lambda I)は0となります。
これが固有方程式
の意味です。
※1:行列式の値がマイナスの場合、任意領域が反転したこと(例えば、平面図形が裏返ったり、空間の立体が鏡像になったりすること)も意味しています。
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