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宝くじの購入は本当に不合理? 素人が経済学的(?)に考えてみた

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はじめに

みなさんは宝くじを買いますか?宝くじを買わない人に聞くと、「宝くじを買うことは合理的でない」という人もいます。これには一定の説得力があります。なぜなら、期待値を計算するとマイナスなので、統計的には必ず損すると計算できるからです。

しかし、実際にはたくさん買う人もいます。これはなぜでしょうか?「夢を買っている」「ワクワク感にお金を払っている」と心理的な作用に関する価値として説明がつく部分もあるかもしれませんが、ここでは、ミクロ経済学で最初の方に習う効用の考えを使って、「お金の価値」が少額と大金では異なる(価値が比例しない)ということから説明できるのではないと思い記事を書きました。使う手法は、数学(解析学、確率論)とミクロ経済学(効用)になります。このトピックやこの手法に興味がある方にとっては面白い記事になっているかもしれません。

とはいえ、私は経済学に詳しいわけでもないので、その点の正しさや妥当性に自信はありません。ただ、ある程度あり得そうなレベルでの仮説になっているので、全くのナンセンスというわけではなさそうなので、ここで紹介します。また、逆に私が知らないだけでありふれた議論になっている可能性がもあります。これらの点はご了承ください。

宝くじの期待値:金銭的に見た損得

まず宝くじの結果を金銭的に考えます。日本の一般的な宝くじの還元率は約45%前後です。これは、あなたが100円で宝くじを買うと、期待値として戻ってくる金額が45円になることを意味します。還元率が100%を超えるギャンブルはほぼ存在しません。

金銭的にのみ考えたら、宝くじを買うのが非合理的であることは疑う余地は少なそうです。

経済学の視点:「効用」を考える

しかし、よく考えると「お金儲け」のために宝くじを買う人はいません。また、次のようなケースを考えると、宝くじを買うことも一定の合理性を感じるのではないでしょうか?

極端なケース

通常の医療では治らない病気にかかってしまったが、ブラックジャックなら治せるという。しかし、治療費は1億円だという。手元に10万円ほどあるが、余命を考えると使い切れるわけではない。

極端な例ですが、このとき、1億円が当たるかもしれない宝くじを買うことは合理的だと考える人がいても不思議ではありません。もし、治療ができたら寿命ははるかに伸びて人生を謳歌することができます。そのことを踏まえると、10万円をそのまま握りしめて最期を迎えるよりは低確率でも治療できる方にかけることは自然に思えます。治療したあとの金銭面が気になる人は、上記のケースに追加の情報として、本人は凄腕のエンジニアであって、治療したあとは安定した収入が見込める、というケースとしてもらって構いません。

「効用」の考え方

ではなぜブラックジャックのケースのように、宝くじを買うことが合理的に見えうることがあるのでしょうか?それは、彼(患者)にとって、手元の10万円は少し減ろうが増えようがあまり、彼の満足度は変わらない一方で、1億円が手に入った場合は、治療ができ、人生が長くなり、金額の差(正確には金額の比かもしれません)以上に満足度が高くなるからではないでしょうか。言い方を変えると、10万円の価値と1億円の価値が比例していない、つまり、金銭的には 10万円の1000倍が1億円ですが、その時の彼にとっては、1億円の価値が10万円の価値の1000倍以上(例えば10000倍)になっていたと考えることができそうです。

この 「価値」という概念はミクロ経済学における効用とここでは考えます。効用とは、「消費者が財やサービスを消費することで得られる満足の度合いのこと」と一般に定義されています。今回の場合は、お金がどれだけ手に入るか(所有するか)で得られる満足の度合いのこと、と言えます。

例えば、ビールを消費する場合、ビールの消費量に対して効用が定まる、というように考えます。1杯目の満足度を60として、2杯目は80、3杯目は90くらいとして大体のグラフを書くと以下のようになります。2杯目、3杯目になると徐々に増える満足度は少ない(1杯目が一番美味しい)という状況がグラフからも見て取れます。もちろん人によって異なる効用関数の形(グラフの形)になります。

ビールの効用関数の例

効用関数はよく u(x) と表されます。上記の例では u(1) = 60u(2) = 80u(3) = 90 と書くことができます。

効用の期待値

では、宝くじの場合にこの効用の考えを取り入れて、金銭的な評価そのものでなく、その人にとっての価値を考えていきましょう。宝くじは当たったり外れたりするので、期待値を考えることで妥当性を評価できそうです。先ほどは金銭的な期待値を評価しましたが、ここでは効用の期待値を評価します。

宝くじに当たる確率を p として、購入金額を s として、当たった時の当選金額を w とすると、金銭的な期待値 E_m

E_m = p w - (1 - p)s

です。たとえば、100円で購入して1000万円が 1/200000 の確率があたる宝くじの場合、p=\frac{1}{200000}s=100w=10000000 なので

\begin{aligned} E_m &= \frac{1}{200000} \times 10000000 - (1 - \frac{1}{200000}) \times 100 \\ &= -49.999995 \end{aligned}

となり、大体還元率が50%弱の場合にあたります。期待値的には50円ほど失うという意味になります。

効用の期待値 E_u は、

E_u = p u(w) - (1 - p)u(s)

となります。具体的な計算は個人ごとに違うであろう効用関数の形次第で変わります。たとえば、さきほどのブラックジャックのケースのように特殊なケースだとして、 u(100) = 1 (100円とかあってもあまり意味がない)、 u(1000万) = 1億 (1000万あると大きく人生が変わる)なので、

\begin{aligned} E_u &= \frac{1}{200000} \times 1億 - (1 - \frac{1}{200000}) \times 1 \\ &= 4999.00005 \end{aligned}

となります。注意が必要なのはこれは E_m とは直接比べられません。 E_m はお金の単位だが、E_u は効用の単位になっています。つまり比べるべきは、u(E_{um}) = E_u となる E_{um}E_m になります。例えば、u(500) = 4999.00005 とすると、 E_{um} = 500 であり、これは金銭的な換算を行うと期待値としては500円程度の価値があるとみなせ、還元率500%のように見えることになります。還元率が100%を超えているなら、宝くじを買うことは合理的に見えます。

宝くじの購入が合理的になる効用関数

さて、今回は u(x) の値を都度都度設定していましたが、これはどのような効用関数になるのかを考えていきたいと思います。結論としては以下のような形の効用関数になります。値が大きかったので対数スケールにしています。先ほどのビールの効用関数とは違いますね。一番の違いは、ビールの効用関数では上に膨らむような形(数学ではこれを 上に凸 と呼びます)で、こちらの効用関数は下に膨らむような形(数学ではこれを 下に凸 と呼びます)になっているところです。一方で、両方とも単調増加(ビール、金銭が増えると効用が増える)という性質は同じです。ちなみに、単調増加性はほとんどの場合で満たすはずです。

宝くじの購入が合理的になる効用関数

経済学を学習したことのある方は、限界効用逓減の法則というのものを聞いたことがあるかもしれません。この法則は、効用関数が上に凸である、ということを仮定する法則です。実際、1杯目のビールが一番美味しいという例から、多くの財・サービスに関しては、これが成り立ちますし、普通のケースでは金銭成り立ちそうです。お金持ちにとっての1万円と貧乏人にとっての1万円の価値を考えればわかります。

実は効用関数が上に凸の場合は、宝くじの購入を効用の期待値で計算したとしても、期待値は負になり、購入が合理的にはなりません。また、上記の具体的なケースだけでなく、効用関数が下に凸の場合は、宝くじの購入を効用の期待値は正になり、購入の合理性を支持する結果となります。これは Jensen の不等式 を直接使うことで数学的に証明ができます。

下に凸な効用関数は一般的ではないものの、上のブラックジャックの例のように、「一定の金額がないとあまり意味がない」ようなケースではある程度正当化できそうです。ちなみに、手元にあった証券理論の教科書にもリスク追求型/ギャンブラー型として下に凸な効用関数も概念として紹介されていました[1]。ただ、限界効用逓減の法則は「満たすはずである性質」として紹介されていました。手元にある経済学の教科書[2]でも仮定として同等の凸性を導入していました。

過去の研究の調査

ChatGPT の DeepResearch を使って過去の研究について調査しました。その結果の抜粋をいかにまとめます。

過去には、Friedman & Savage (1948) [3]は所得水準によって効用関数の形状が変化しうると主張しました​。具体的には、ある範囲の富裕層では効用関数が下に凸型(限界効用逓増)となりリスク愛好的になる一方で、他の範囲では上に凸型(限界効用逓減)となりリスク回避的になるというものです。後のハリー・マルコウィッツ(1952)も類似の指摘を行い、人々は自分の「現在の所得水準」を基準にそれより上ではリスク回避的、下ではリスク選好的に振る舞う可能性があると述べました。これらは伝統的な効用理論の範囲内で限界効用逓減の例外を説明しようとする試みです。 この仮説は長らく直接検証が難しいとされてきましたが、一部の研究は支持証拠を提示しています。例えばEisenhauer (2005)の調査では、全体の18~20%程度の人々がフリードマン=サベージ型の効用関数に一致するリスク態度を示したと報告されています​。つまり、多くの人はおおむね一貫したリスク回避傾向を持つものの、約2割の人は財産の水準によってリスク選好と回避を切り替えるような行動パターンを持つということです。

これまでにも下に凸な効用関数に関して議論はされていたようです。

まとめ

  • 宝くじの購入の合理性を効用関数を用いて考察した
  • 効用関数が下に凸な領域(リスク愛好型の領域)では、効用の期待値に基づくと宝くじの購入は合理的といえる
脚注
  1. 新・証券投資論〈1〉理論篇 p.9 ↩︎

  2. ミクロ経済学 I 10章 ↩︎

  3. The Utility Analysis of Choices Involving Risk. Milton Friedman and L. J. Savage. Journal of Political Economy, 1948, vol. 56, issue 4, 279. ↩︎

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