【プロジェクト】何かを決めていそうで何も決まっていないツモリ会議だと気づくためのとっかかり
はじめに
対象
- システム開発に関わる全ての人向け。
- 開発者・運用・マネージャー・製品責任者など。
- 会議をしているのにプロジェクトの進捗が遅いと感じているメンバー向け。
- 自分たちの会議がツモリ会議だと気づいていない組織の方向け。
ツモリ会議の正体を見抜く
旅行計画で理解するツモリ会議
例えば友人グループで海外旅行を計画しているとします。
まず行き先の提案が飛び出します。アメリカ・イギリス・ロシア・シリアといった国名が上がります。どこも面白そうという反応です。一通り確認したら次は優先順位を決めます。粗方出揃ったところで順位を付け始めます。1位ロシア・2位コロンビア、3位イギリスといった具合です。
各国の美味しいものや名物といったグルメ談義でも盛り上がります。あるいは各国の名所、旅行に行くことで出会える素晴らしい景色などの話も弾むことでしょう。
そうやって2時間ほど会話を交わして、会議は終了しました。議事録には優先順位付きの国リストや、各国の魅力などが大量に並んでいます。しかし具体的に「いつまでに・誰が・何を・どう進めるのか」は何も決まっていません。
渡航危険レベルという概念すら知らないまま、現実には観光困難な国は残ったままです。予算や所要日数、言語の壁といった制約条件も考慮していません。また航空券の予約、宿泊先の手配、現地での移動手段など、実際に旅行を実現するために必要な手続について何も分かっていません。
結果として会議は盛り上がっているように見えるにも関わらず、いつまで経っても旅行に行くことはできない状況に陥ります。これがツモリ会議です。
ツモリ会議の事例
「何をそんな当たり前のことを」と思ったかもしれません。しかしこれが旅行計画ではなく、プロジェクトの開発計画ならどうでしょうか。
これはいくつかの現場で見られた現象ですが、10人以上の大人数が集まって3時間はかけて行われた会議で、比較的大きな機能の要望チケットを棚卸ししようとしたものの、結局何も決まらずに終了してしまったということがあります。
そもそもピザ2枚ルールに反しているという点には目を瞑るとして。参加者は皆、何かを議論した気になっています。確かに活発に意見交換は行われました。しかし蓋を開けてみると、具体的な決定事項は何一つありません。次回の会議でまた同じ議題を取り上げて、その繰り返しです。
このような「決めている風を装って何も決まっていない会議」こそが、ツモリ会議の典型例です。参加者全員が達成感を味わえるという点で、実は居心地の良い空間ではあります。しかし、それではプロジェクトは一向に前に進みません。
決定権者不在の恐怖
そもそも決める人が誰もいないという状況が本質的な問題です。プロジェクトには開発者・運用部隊・マネージャーなど、様々な立場のメンバーが集まります。完全に意見が一致することなど、まずありません。最終的には1つの提案に倒す必要があります。
しかし最終的な意思決定権を持つ製品責任者が実質的に機能していませんでした。この責任者は 月一の定例会議も頻繁にドタキャンし、社長からの呼び出しがあるとそちらを優先していました。
結局「◯◯さんに確認を取らないと分からないですね」で議論がストップしてしまいます。前回の議事を引き継いで話し合う場面でも、その責任者は欠席していたため文脈を理解できていません。こうして会議は空転を続けます。
この状況が組織に与える影響は深刻です。生産性の低下は避けられません。期日もやるべきことも決まらないため、放っておけばどんどん遅れが蓄積していくのが人間の性です。
権限と責任の乖離も問題を複雑にします。開発者に多少の権限移譲があれば改善の余地はあったかもしれません。しかし開発者の視座では、社内政治や営業方針などを考慮した総合的な判断は困難です。
本来であれば責任者間で他案件との調整などを行い、その上で確保できた期間と人員で作業を進めるべきなのですが、先述の通り現場の状況を把握していません。このため情報が不正確なまま上層部に伝わり、唐突にメテオフォール型開発が始まったりします。
ツモリ会議を見抜く具体的な方法
議事録担当者が最初に気づく
ツモリ会議が行われていると真っ先に違和感を抱きやすいのは、議事録を書いている書記の方です。何も決めないツモリ会議では、議事録はとても取りづらい筈です。各々好き勝手に意見を出しているだけなので、何をどう記録すればよいか分からない状況に陥ります。
何かを決める会議なら、その何かを決めるための材料や道具を効率的に並べている段階なので、評論文のようにハッキリ筋が通っています。
「書記の方はツモリ会議の傾向に気付いたら、議題の中心人物に声をかける」というのを参加メンバー全員の共通認識として持っておくのが良いでしょう。次の議題に移る前に「いつまでに・誰が・何を・どうする」を明確にするのもおすすめです。
この仕組は会議の品質管理システムとして機能します。書記が「この議論は何も決まっていない」と気付いた時点で会議を一旦止め、軌道修正を図りましょう。組織の共通ルールとして定着させることで、ツモリ会議の発生を大幅に削減できます。
準備不足の会議は失敗の温床
ツモリ会議に陥りやすい特定の状況として、準備不足の会議があります。「会議は準備が8割」とはよく言いますが、この準備を怠ると確実にツモリ会議になります。事前準備なしに集まったメンバーが、その場で一から情報を整理しようとした結果、時間だけが過ぎていくことになります。
建設的な意見というものは考えてくるのに時間がかかるので、レジュメが事前に提出されていない場合や、参加者の前提知識が揃っていない場合は上手く進みません。特に複雑なビジネスロジックや技術仕様に関わる議題では、事前の情報共有が欠かせません。
事前の調査や検証結果の共有がないまま会議に臨むと、憶測や推測だけで議論が進み、結局何も決まらないまま終わることになります。「このライブラリでいけると思う」「多分パフォーマンスの問題はない」といった憶測で議論が終始し、決定打に欠けるためダラダラと議論が続きます。
さらに最悪なのは会議中に初めて知った情報や前提条件が飛び出してくるケースです。「この機能は来月までにリリースしないといけません」といった重要な制約が、会議の終盤になって初めて明かされることがあります。それまでの議論が全て水の泡です。
こうした事態を防ぐためには、主催者が事前にアジェンダや資料を用意し、参加者に十分な時間を与えて検討してもらうことが重要です。ただし全ての会議で完璧な準備を行うのは困難なため、最低限の基準を組織で策定し、これを下回る場合は会議を延期する判断も必要でしょう。
ツモリ会議を脱却する実践的アプローチ
ボール管理とスプリントによる確実な前進
ツモリ会議を脱却するためには、誰がボールを持っているかを明確にし、確実に次の人にパスする必要があります。
例えば開発者の技術調査が必要なケースでは、次回調査結果を報告することを約束します。その報告を受けて、今度はプロダクトマネージャーがいつまでに仕様決定するかを決めます。このようにボールを順番にパスしていけば、プロジェクトは着実に進んでいきます。
プロジェクトマネジメントシステム(PMS)を適切に取り扱うことです。担当者=ボールを持っている人ですから、必ず指定しましょう。チケットやIssueの期日・担当者が空のプロジェクトは警戒すべき状況です。
担当者未設定のまま放置されたチケットを見たことがありませんか。個人的にはあの運用方法はおすすめしません。どんなチケットであれボールを握っている人がいなければタスクが前進することはないでしょう。誰かにパスを投げるまで、最初にボールを持っているのは起票者です。
有意義な会議にするために、調査や設計も含めた全ての作業をチケット化しましょう。明確な期日を設定し、その期間で達成可能なチケットを逆算して目標を決め、淡々と消化していきます。
絶対に避けるべきは、誰もボールを持たずに宙に浮いてしまうパターンです。会議の最後に必ず期限・担当者・次の作業を確認してから解散する習慣を作りましょう。
必ず決断する
ツモリ会議の最大の特徴は、決断の先送りです。先の棚卸しの事例では「作るか作らないか分からないから、とりあえず取っておこう」という曖昧な理由で判断を保留していました。そもそも保留のステータスが頻繁に使用されるプロジェクトはマネジメント不全に陥っていることが多いです。
やらないと決めた理由を明記してクローズする、あるいはやると決めたものは計画に組み込んで予算とリソースを確保する。「検討します」や「とりあえず保留で」は禁止ワードにしましょう。
決断を促すための具体的なテクニックは、子どもの遊びでお馴染みの「いつ・どこで・誰が・何を・どうした」です。格好いい言い方なら5W1Hです。「いつまでに・誰が・何を・どうする」。ツモリ会議では必ずこのどれかが抜けています。
特に「誰が」が抜けると責任の所在が曖昧になります。また日本語で特に抜けがちなのは「いつまでに・誰が」の部分です。そこをしっかり確認するだけでも大分変わってきます。
議論の基礎を身につける重要性
単純な方法論やノウハウを並べるのは簡単ですが、本質を理解せずにそれらを使うことは危険です。まずは一人ひとりが議論の基礎を身につけることが重要です。
そもそも論点を集中することができていれば、話があちこちに飛ぶことはありませんし、導き出すべき結論も明確になりやすいです。海外旅行の例では確かに海外旅行について話し合いをしていましたが、
- どの国に旅行に行くべきか?
- 誰が幹事を行うのか?
などの論点は明確ではありませんでした。議論を学んだ方同士であれば、最初からあのようなグダグダな展開にはならないのです。
おわりに
ツモリ会議は組織の生産性を静かに蝕んでいく存在です。表面的には活発な議論が行われているため問題として認識されにくく、気付いた時には手遅れになっているケースも少なくありません。しかし適切な仕組みと意識があれば、確実に防ぐことができる問題でもあります。
次回の会議では、ぜひこの記事の内容を思い出してください。ボールの所在を明確にし、必ず決断し、小さく始めることから勧めてみてはいかがでしょうか。「この会議、ツモリ会議になってない?」と自問自答することが、プロジェクトを前に進める第一歩となるでしょう。
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