個人宅録クリエイターが語る:AI Masteringで変わった「完成」の基準

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はじめに:「完成」が見えない日々

宅録で楽曲制作をしている者です。ジャンルはローファイヒップホップとアンビエント系が中心で、月に2〜3曲のペースでリリースしています。

制作で一番悩んでいたのが、ミックスダウンの後の「マスタリング」でした。

自分でEQやコンプは理解しているつもりでしたが、マスタリングになると話が別です。何度も書き出しては聴き直し、リミッターをいじっては音が潰れ、結局「これでいいのか?」という疑問を抱えたままアップロードすることもありました。

そんな時、AI Masteringという選択肢を知りました。

最初は半信半疑だった

正直、最初は「AIに音楽の最終調整ができるわけない」と思っていました。

マスタリングって、エンジニアの耳と経験がものを言う領域じゃないですか。それを自動化するなんて、どうせプリセットを当てはめるだけでしょ、と。

でも、ある日ミックスで行き詰まった時、ふと「試すだけならタダだし」と思い、いくつかのサービスを調べ始めました。

LANDRやeMastered、それから日本発のサービスもいくつか。その中で、インターフェースがシンプルだったMusicAIを使ってみることにしました。

実際に使ってみた結果

最初にアップロードしたのは、自分なりに「これ以上どうすればいいかわからない」状態まで仕上げたローファイトラックでした。

書き出して、イヤホンで聴いて、スマホのスピーカーで聴いて。

驚いたのは、音が「潰れていない」ことでした。

自分で limiter をかけた時は、どうしてもキックの抜けが悪くなったり、高域がキンキンしたりしていたんです。でも、AI Masteringを通した音源は、ちゃんと空気感が残っていて、それでいて音圧も確保されていました。

Spotify の推奨ラウドネス基準である -14 LUFS 前後に自然に収まっていたのも好印象でした。
参考:https://artists.spotify.com/help/article/loudness-normalization

失敗例もあった

もちろん、すべてが完璧だったわけではありません。

ある時、意図的にディストーションを強くかけた実験的なトラックをアップロードしたら、妙に高域が抑えられて、狙っていた「攻撃的な質感」が失われてしまいました。

また、アンビエント系の曲で、静かな部分と音が膨らむ部分のダイナミクスを大事にしたかったのに、全体的に均されてしまったこともあります。

つまり、AI Masteringは万能ではない。
でも、それは「使い方を理解すれば避けられる失敗」だとわかりました。

使う中で気づいた「ミックスの重要性」

AI Masteringを何度か使ううちに、あることに気づきました。

マスタリングの結果が良い時は、ミックスの段階で既に整っている時だ、と。

逆に、ミックスで低域が暴れていたり、ピークが出すぎていたりすると、AI がそれを「修正」しようとして、不自然な結果になることがありました。

これは、iZotope の公式ガイドでも触れられている通り、マスタリングはミックスの延長線上にあるもので、問題を「治す」ものではないんですよね。
参考:https://www.izotope.com/en/learn/what-is-audio-mastering.html

AI Mastering を使い始めてから、自分のミックススキルも上がった気がします。

今のワークフロー

今では、こんな流れで作業しています:

  1. ミックスを仕上げる(マスターバスには何もかけない、-6dB 程度の余裕を残す)
  2. 一晩寝かせて、翌日もう一度チェック
  3. WAV で書き出し
  4. AI Mastering にアップロード
  5. 結果を聴いて、リファレンストラックと比較
  6. 問題があればミックスに戻る、なければ完成

このフローにしてから、「完成」の判断が早くなりました。

以前は「もっといじれば良くなるかも」と無限ループに陥っていましたが、今は AI の結果を一つの客観的な基準として使えています。

コストと時間の話

プロのマスタリングエンジニアに依頼すると、1曲あたり5,000円〜15,000円くらいが相場です。

月に3曲リリースするとなると、年間で18万円〜54万円。宅録クリエイターには正直厳しい金額です。

AI Mastering の多くは、月額制で使い放題だったり、1曲数百円程度だったりします。

もちろん、アルバムの最終調整や、重要なシングルリリースの時は、プロに依頼する価値は十分あります。でも、日常的な制作やデモのリリースには、AI という選択肢が現実的だと感じています。

まとめ:道具として使いこなす

AI Mastering は「魔法の杖」ではありません。

でも、客観的なフィードバックをくれる、頼れるアシスタントだと思っています。

自分の耳だけで判断するのは限界があります。特に宅録環境では、モニター環境が完璧ではないことも多い。そんな時、AI の判断を参考にすることで、より多くの環境で「ちゃんと聴こえる」音源を作れるようになりました。

もしあなたが、マスタリングで悩んでいるなら、一度試してみる価値はあると思います。

ただし、ミックスはちゃんと仕上げてから、ですよ。

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