データエンジニア―データ活用力を高める組織のキーパーソン―
2025年2月28日(金)に発売した「データエンジニア―データ活用力を高める組織のキーパーソン―」を読んだ感想をまとめました。
🎈書籍の概要
本書は、企業におけるデータ活用の課題を解決するための「データエンジニア」の役割と実践について解説した書籍です。
データ活用が進まない組織の課題として、「分析の専門家はいるのに期待した効果が出ない」「部門間の連携がうまくいかない」「データ活用の具体的な進め方がわからない」といった問題があります。著者らは、これらの課題を解決するキーパーソンとして「データエンジニア」の重要性を提言しています。
🔍データ利活用の基本概念
ビジネスシーンにおけるデータ利活用の意味
データ利活用という言葉を文字通りに考えると、古くからデータ利活用は行われています。
コンピュータがない時代でも、「この山では何が採れる」「この海域では何が獲れる」といった情報を蓄積し、次の行動に活かす。これも「データ利活用」と言えるでしょう。
では、企業や組織における「データ利活用」とは何でしょうか。
本書では、データ利活用を次の2つの状況が存在する際に行われる活動として説明している。
1. 活用されていないデータがある
2. 目的があるのにデータがない
🏢企業におけるデータ利活用の課題
企業の成長と機能の分化
1. 創業期
- 組織規模が小さく、意思決定からオペレーションまでが一体化
- データの収集・分析・活用が同じ人物や少人数のチームで完結
2. 意思決定機能とオペレーション機能の分離
- 企業規模の拡大に伴い、経営層と現場の距離が拡大
- 経営判断を行う層と実際の業務を遂行する層の分離が進行
3. 情報処理機能の独立
- 取扱情報量が一定水準を超えると、情報システム部門が独立
- 企業機能が「経営部門」「オペレーション部門」「情報システム部門」の三方向に分化
このような組織の分化により、部門間のデータ連携やコミュニケーションが複雑化し、効果的なデータ利活用が阻害されます。
データ利活用をめぐる具体的な課題
企業がデータ利活用を進める際に直面する主な課題は以下の3つです:
1. データ利活用に関する部門間の認識のずれ
- 各部門がデータに対して異なる期待や理解を持っている
- 部門ごとのビジネスミッションの遂行が最優先⇒データ活用に関するコミュニケーションに時間に十分に時間が割けない
- 一度共有した認識であっても、ビジネスやデータの変化に応じてその都度認識の修正が必要な場合がある。
2. スピードと正確性の両方を満たすことへの固執
- 意思決定の迅速さとデータの正確性はトレードオフの関係にある
- 完璧なデータを求めるあまり、意思決定のタイミングを逃してしまう
- 状況に応じた適切なバランスの見極めが必要
具体例:新商品開発における分析の遅延
競合他社の動向に対応するため、新商品の早期投入が求められていたが、「より正確な市場予測のために」と分析を繰り返すうちに発売時期が遅れ、市場シェアの獲得機会を逃してしまった。
3. 責任範囲が曖昧な業務への不十分な対応
- データ関連業務の責任所在が不明確になりがち
- 「誰の仕事か」が曖昧な領域は対応が後回しになる
- 部門間の狭間に落ちる業務が発生する
具体例:データ品質管理の責任の所在
顧客データの品質に問題があることが判明しましたが、「データ入力はオペレーション部門、システム管理は情報システム部門、データ分析は経営企画部門」と責任が分散しており、誰も主体的に改善に取り組まない状況が続きました。
🔧データエンジニアリング組織による解決
データエンジニアリング組織の役割と意義
本書においてデータ利活用に関する課題の解決策として、データエンジニアリング組織の導入を提案している。
- データ利活用における共通認識を構築すること
- スピードと正確性の均衡を保つこと
- データ利活用の役割を補完すること
企業の機能が分化した環境において、データエンジニアリング組織は部門間の橋渡しとなり、データ利活用における機能不全を解決する重要なキーパーソンとなる。
データの生成機序を理解する重要性
データエンジニアリング組織が課題解決に取り組む上で、最も重要な視点の一つが「データの生成機序」の理解です。データの生成機序とは、データそのものではなく、そのデータがどのように作られたのか、どのような背景や条件のもとで生成されたのかを説明する詳細なメタ情報です。
生成機序が不明確な場合、同じデータでも部門によって異なる解釈がなされ、意思決定の混乱や部門間の対立を招きます。また、データの信頼性評価ができず、誤った分析結果に基づいた判断につながる危険性もあります。
一方、生成機序を明確にすることで、データの文脈や限界を正しく理解でき、適切な活用が可能になります。部門間のコミュニケーションもスムーズになり、データに基づく建設的な議論が促進されます。
データエンジニアリング組織は、このデータの生成機序を整理・文書化し、組織全体で共有することで、データ利活用の質を高める重要な役割を担います。
データエンジニアリング組織の行動指針
データエンジニアリング組織が効果的に機能するためには、以下の3つの行動指針が重要です:
1. 三部門と信頼関係を築く
- 経営部門、オペレーション部門、情報システム部門との間に強固な信頼関係を構築する
- データ利活用における社内コンサルタントのような立ち位置を目指す
- 各部門の課題や要望を理解し、中立的な立場で解決策を提案する
信頼関係構築に関して💡
データ利活用に関して他部門が困っている場合はデータエンジニアに声をかけてもらえる関係を三部門と築いていくことが理想だが、信頼関係構築には時間がかかり、コミュニケーションと相手への貢献が繰り返されるうちに築かれるものである。
2. 機動力を発揮する
- 状況に応じて迅速に行動し、変化に柔軟に対応する
- 時に失敗することもあることを経営層にも理解してもらう
- 正確性とスピードのトレードオフを適切に判断し、バランスを取る
機動力発揮のポイント
データエンジニアリング組織は、確実なものと不確実なものの境界線で待機しつつ、経営部門が「機動力で得られるリターンを優先するためにリスクを負う」と判断したときに、先陣を切って動き出せる準備をしておく。
3. 当事者意識を持つ
- 各部門の業務内容を深く理解し、自分事として捉える
- データに関する最新情報や技術動向のキャッチアップを怠らない
- 組織全体のデータ活用の成果に責任を持つ姿勢を示す
当事者意識を高める方法
定期的に各部門の現場に足を運び、実際の業務プロセスを観察したり、担当者と対話したりすることで、リアルな課題感を把握する。
これらの行動指針を実践することで、データエンジニアリング組織は部門間の壁を越えて、組織全体のデータ利活用を促進する触媒としての役割を果たすことができる。
データエンジニアと情報システム部門の協業
データを取り扱う部門であることから、データ利活用も情報システム部門が主体となるべきだと考えられがちです。確かにその側面はありますが、情報システム部門のビジネス上のミッションは「正確な情報処理」であり、不確実性の高いデータ利活用の方向性とは必ずしも合致しません。
データ利活用においては、意思決定のために正確性が多少低くても、大枠の傾向を捉えてスピーディーに判断することが求められるケースが多くあります。一方、情報システム部門の評価軸は正確性にあるため、このようなアプローチを取ることが難しい状況があります。
効果的な協業のアプローチ
このギャップを埋めるために、以下のような協業体制が効果的です:
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データエンジニアの役割:経営部門との橋渡し役となり、仕様があいまいな状態や継続的で高い正確性が必要とされない段階での作業を主導します。
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段階的な協業プロセス:
- あいまいでアドホックなデータ利活用の段階では、データエンジニアが経営部門とのコミュニケーションと関連作業を実施
- システム化の方向性が明確になった段階で、情報システム部門と本格的な協働を開始
このように、アドホックなデータ利活用の探索段階から、継続的で正確な情報処理への移行を段階的に進めることが重要。意思決定のための分析アプローチがある程度パターン化された場合は、それをデータ分析基盤に取り込んでいくことも視野に入れて行動する。
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