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Transformerベースの大規模言語モデルにおける入力系列長の拡張方法

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近年、GPT-4 や Claude などの大規模言語モデル(LLM)の発展により、長い文脈を保持できることが求められています。本記事では、Transformer ベースのモデルにおいて 入力系列長(Context Length)を伸ばす方法 について詳しく解説します。

1. 位置埋め込み (Position Embedding) の最適化

Transformer は、系列の順序を学習するために位置情報をエンコーディングします。この位置埋め込みの工夫により、長い系列を扱うことが可能になります。

(1) RoPE (Rotary Position Embedding)

RoPE は、トークン間の相対位置情報を回転行列を用いて符号化する手法です。GPT-4 Turbo では RoPE Scaling を適用し、系列長を 128K トークン まで拡張しています。

  • 特徴: 相対位置情報を保持しやすく、長いコンテキストでも適応可能。
  • 適用例: LLaMA-2, GPT-4 Turbo など。

(2) ALiBi (Attention Linear Biases)

ALiBi は、距離に応じたバイアスを追加することで長距離依存を効果的に学習する手法です。

  • 特徴: 追加の学習なしで長い系列を扱いやすくなる。
  • 適用例: Meta AI の LLaMA や Mistral など。

2. Sparse Attention の導入

Transformer の自己注意機構(Self-Attention)は、系列長が長くなるほど O(N^2) の計算コストがかかります。これを解決するために、Sparse Attention(疎なアテンション)を利用します。

(1) Sliding Window Attention

Longformer に採用されている Sliding Window Attention は、

  • 各トークンが「ウィンドウ内の特定の範囲のトークンのみとやり取り」する仕組み。
  • 計算量を削減しつつ、長いコンテキストを保持可能。

(2) FlashAttention

FlashAttention は、

  • メモリ最適化された自己注意計算手法
  • GPU メモリ使用量を削減しつつ、高速に処理可能。
  • 長いコンテキストの処理時に特に有効。

3. Memory Augmented Transformers (MAMs)

長い文脈を処理するために、モデルが過去の情報をリカレント的に保持 する方法もあります。

(1) RMT (Residual Memory Transformer)

  • Transformer に「メモリセル」を追加し、長い系列の情報を段階的に蓄積。
  • コンテキストが長くなっても情報が失われにくい。

(2) Attention Sink Token

  • あるトークンに情報を集約させ、長い系列の情報を効果的に管理。
  • 長いドキュメントを処理する際に役立つ。

4. 分散処理の活用

長い系列を扱うためには メモリ管理 も重要です。そのため、分散処理技術を活用することで、大規模なモデルを効率的に動作させることが可能になります。

(1) FSDP (Fully Sharded Data Parallel)

  • モデルの各層を複数の GPU に分割し、メモリを効率的に活用。
  • これにより、大規模なモデルでも長い入力系列を処理しやすくなる。

(2) MoE (Mixture of Experts)

  • モデルを複数の「専門家(Experts)」に分け、必要な計算のみを実行。
  • GPT-4 などの大規模モデルで使用されており、計算コストを抑えながら長いコンテキストを処理可能。

まとめ

Transformer ベースの大規模言語モデルの 入力系列長(Context Length)を伸ばす方法 として、以下のアプローチが有効です。

  1. 位置埋め込みの最適化(RoPE, ALiBi)
  2. Sparse Attention の導入(Sliding Window, FlashAttention)
  3. Memory Augmented Transformers の活用(RMT, Attention Sink Token)
  4. 分散処理の活用(FSDP, MoE)

これらの技術を組み合わせることで、より長いコンテキストを効果的に処理できるモデルを構築できます。今後の LLM の進化にも注目していきましょう!

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