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人間の好みに基づくモデル最適化手法の比較と解説

2025/03/19に公開

近年、大規模言語モデル(LLM)の品質を向上させるために、人間のフィードバックを活用する手法が多く研究されています。本記事では、特に以下の4つの手法について詳しく解説します。

  1. InstructGPT (OpenAI) - 強化学習を用いた事前学習モデルの微調整
  2. Constitutional AI (Anthropic) - 人間の価値観に沿った応答を学習するフレームワーク
  3. Direct Preference Optimization (Stanford) - 報酬モデルを経由せずに直接最適化する手法
  4. KL-constrained Preference Optimization - 事前学習モデルからの逸脱を制限しつつ選好を学習

1. InstructGPT (OpenAI)

概要:
InstructGPTは、OpenAIが開発した手法で、強化学習を用いて事前学習済みモデルを人間の指示(プロンプト)に対してより適切に応答できるように最適化する方法です。

技術的アプローチ:

  • 事前学習済みのGPT-3を基に、まず人間のラベル付けによるデータセットを作成。
  • これを用いて「報酬モデル(Reward Model)」を訓練し、応答の良し悪しをスコアリング。
  • その報酬モデルを強化学習(Reinforcement Learning with Human Feedback: RLHF)で活用し、ポリシー(生成モデル)を最適化。

メリット:

  • 人間のフィードバックを直接活用できるため、品質の向上が期待できる。
  • 既存のGPTモデルをベースにできるため、学習コストを抑えつつ精度を向上。

デメリット:

  • 報酬モデルのバイアスが学習結果に影響を与える可能性。
  • RLHFの学習プロセスが計算コストと時間を要する。

2. Constitutional AI (Anthropic)

概要:
Constitutional AI(憲法的AI)は、Anthropicが提案したフレームワークで、人間の倫理観や価値観を明示的に組み込みながらAIを学習させる手法です。

技術的アプローチ:

  • モデルが応答を生成する際に「憲法(Constitution)」として定めた一連の原則を考慮。
  • RLHFに頼ることなく、AIが自ら望ましい応答を学習できるように誘導。
  • AIが生成した応答を自己評価し、価値観に基づいたフィードバックを行うことで、より倫理的な出力を促す。

メリット:

  • 人間によるフィードバックのコストを削減。
  • 一貫性のある倫理的ルールを持たせることで、望ましくない出力の発生を抑制。

デメリット:

  • 「憲法」の設計が難しく、社会的な価値観の変化に対応しづらい。
  • モデルが憲法のルールをどの程度理解・遵守できるかが課題。

3. Direct Preference Optimization (DPO) (Stanford)

概要:
Direct Preference Optimization(DPO)は、スタンフォード大学が提案した新しい手法で、従来のRLHFのように報酬モデルを介さず、ユーザーの選好(Preference)に直接最適化を行うアプローチです。

技術的アプローチ:

  • 人間が選んだ好ましい応答(Preferred)と好ましくない応答(Dispreferred)をデータセットとして収集。
  • これらのデータを使い、ポリシーのパラメータを直接最適化。
  • 計算コストのかかる強化学習ではなく、よりシンプルな最適化アルゴリズムを活用。

メリット:

  • RLHFよりも学習コストが低く、効率的。
  • 報酬モデルのバイアス問題を回避できる。

デメリット:

  • 明示的な報酬モデルがないため、選好データの質に依存。
  • より複雑なタスクではRLHFほどの精度を出しづらい可能性。

4. KL-constrained Preference Optimization

概要:
KL-constrained Preference Optimizationは、事前学習済みのLLMが持つ知識や性質を保持しつつ、選好データを用いて最適化を行う手法です。

技術的アプローチ:

  • 事前学習済みモデルからの逸脱を抑えるために、KLダイバージェンス(Kullback-Leibler divergence)を制約として導入。
  • 学習中の新しいデータと事前学習済みのデータのバランスを調整。
  • 過学習を防ぎつつ、人間の選好に適したモデルへと最適化。

メリット:

  • 事前学習モデルの知識を保持しながら最適化可能。
  • 過学習のリスクを軽減できる。

デメリット:

  • KL制約の設定が適切でないと、最適な学習ができない可能性。
  • 従来のRLHFと同様に、選好データのバイアスが影響する可能性。

まとめと展望

手法 特徴 メリット デメリット
InstructGPT RLHFを活用 品質向上が見込める 計算コストが高い
Constitutional AI 倫理的なルールを明示 人間の介入を減らせる ルール設計が難しい
Direct Preference Optimization 直接最適化 計算コストが低い データの質に依存
KL-constrained Preference Optimization 逸脱を抑制 事前学習の知識を活用 KL制約の調整が難しい

これらの手法はそれぞれ異なる特性を持ち、利用シナリオに応じて適切な手法を選択することが重要です。今後の研究では、これらの手法の統合や改良が進み、より高度なモデル最適化が実現されることが期待されます。

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