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「営業はAI時代に強い」は本当か?IT営業の壁と、エンジニアとの歩み寄り

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このシリーズでは、AI時代における人間の価値について考えてきました。第1回では「単体スキルより間を取り持つ力が重要になる」という話を、第2回では「間を取り持てる人材になる具体的な方法」を書きました。

そして第3回の今回は、「じゃあその力を最も持っている職種って何だろう」という問いから始まります。考えてみると、それは「営業」なんじゃないかと思ったんですよね。

ただ、話を進めていくうちに気づいたことがあります。営業は確かに強い。でもIT業界の営業には、ちょっと独特の課題がある、と。

https://zenn.dev/nabewata/articles/e8470c366c6a01

https://zenn.dev/nabewata/articles/2aefc308a7c9f2

営業という仕事の「本質」を考える

営業という仕事に対して、どんなイメージを持っているでしょうか。

「商品を売り込む人」「ノルマに追われる人」「コミュ力お化け」──こういったイメージを持っている方も多いかもしれません。でも、営業の本質はちょっと違うところにあると考えています。

営業の本質は「異なる世界をつなぐ翻訳者」です。

顧客という外部世界と、自社という内部世界。この2つの世界は、使う言語も、見ている景色も、優先していることも違います。営業は、その「間」に立って、両者をつなぐ役割を担っている。

これって、前回までに話してきた「間を取り持つ力」そのものなんですよね。

なぜ営業はAIに代替されにくいのか

「営業はAIに代替される」という意見をときどき見かけます。チャットボットが問い合わせ対応をして、AIが最適な提案を作成して、自動で契約まで完了する。そんな未来が来るんじゃないか、と。

確かに、営業の一部の業務はAIで効率化できます。でも、営業の「本質的な部分」はAIに代替されにくいと考えています。

理由は3つあります。

言語化されていない情報を読み取る力。相手の表情の微妙な変化や声のトーン、「検討します」という言葉の裏に隠れた本音。そういった非言語の情報を読み取って、適切に対応する。これは人間にしかできない。

信頼関係という人間だけの資産。「この人が言うなら間違いない」「この会社とは長く付き合いたい」という感情は、人対人のやり取りの中でしか生まれない。

複雑な利害を調整する落としどころの発見。顧客、自社、現場、経営──それぞれの異なる利害を調整して、全員が納得できるポイントを見つける。これは単純な最適化問題ではない。

でも、IT営業には「壁」がある

ここまで営業の強さを語ってきましたが、IT業界の営業には独特の難しさがあります。

それは「製品との乖離」です。

IT製品やサービスは、技術的な知識がないと本当の価値を伝えられないことが多い。APIの仕様、セキュリティ要件、システム連携の可否、パフォーマンス特性。こういった話題が商談の中で普通に出てきます。

営業としてのスキルと技術的な知識。両方を高いレベルで持つのは、正直かなり難しいんですよね。

よくある場面を想像してみてください。

顧客から「このAPIの処理速度ってどのくらい?」と聞かれる。IT営業は「確認して折り返します」と答える。悪いことじゃない。わからないことを確認するのは誠実な対応です。でも、その場で答えられたら、商談の流れが変わることもある。

「御社のシステムと連携できますか?」という質問に、技術的な背景がわからないと、可能性を広げる提案もできないし、逆に無理な約束をしてしまうリスクもある。

これがIT営業特有の「壁」です。

解決策1:エンジニアが営業の視点を持つ

この壁を乗り越える方法の一つは、技術がわかる人が営業の視点を持つことです。

エンジニアが営業スキルを身につけると何が変わるか。

技術的な質問にその場で回答できる。「この構成なら御社の要件に対応できます」とか「その方式だとこういう制約があります」とか、具体的な話ができる。

顧客の課題に対して適切なソリューションを提案できる。技術の引き出しを持っているからこそ、「こういう方法もありますよ」という提案ができる。

「できること」と「できないこと」を正確に伝えられる。これ、実はすごく重要なんです。営業が技術を理解していないと、できないことを約束してしまったり、逆にできることを「できない」と言ってしまったりする。

開発チームと顧客の間の認識齟齬を防げる。営業が技術を理解していれば、顧客の要望を正確に開発チームに伝えられるし、開発チームの制約を顧客に適切に説明できる。

じゃあエンジニアが身につけるべき営業的な力って何か。

ヒアリング力。顧客が言っていることの背後にある「本当の課題」を引き出す力です。「〇〇がほしい」という要望の裏には、本当に解決したい問題がある。それを見つける。

提案力。技術を「価値」として伝える力。「この技術はこうです」じゃなくて「この技術を使うと御社のこの課題が解決できます」という形で伝える。

交渉力。落としどころを見つける力。顧客の要望、自社の制約、技術的な可能性。これらのバランスを取って、みんなが納得できるポイントを探る。

関係構築力。一回きりの取引じゃなくて、長期的な関係を築く力。信頼の積み重ねが、最終的には大きな違いを生む。

解決策2:IT営業がAIを活用して技術を学ぶ

逆方向のアプローチもあります。IT営業がAIを活用して、扱う製品・技術の理解を深めるという方法です。

以前なら「技術書を読む」「エンジニアに聞く」「研修を受ける」くらいしか選択肢がなかった。でも今は、AIに聞けばかなりのことがわかります。

「このAPIのレスポンス形式をわかりやすく説明して」
「うちの製品と競合Aの技術的な違いを整理して」
「〇〇業界でよくあるセキュリティ要件を教えて」
「Kubernetesって何?顧客に説明できるレベルで教えて」

こういった質問に、AIは丁寧に答えてくれる。しかも、自分のレベルに合わせて説明してくれるし、わからなければ何度でも聞き直せる。

もちろん限界はあります。深い技術判断が必要な場面では、やっぱりエンジニアの力が必要。でも、「基本的な会話ができるレベル」まで持っていくのは、AIの活用でかなり現実的になった。

商談の前に、話題になりそうな技術について予習しておく。顧客から技術的な質問を受けたら、その場では「確認します」と言いつつ、AIで調べて理解を深めてから折り返す。新しい技術トレンドをキャッチアップして、顧客との会話の引き出しを増やす。

こういうことが、誰でもできるようになった。これはAI時代の恩恵だと思います。

両者が歩み寄ることで生まれる価値

結局のところ、最強なのは「両方向からの歩み寄り」だと考えています。

エンジニアは営業の視点を持つことで、技術を「価値」として伝えられるようになる。自分の技術力を、顧客の課題解決に直接つなげられるようになる。

IT営業はAIを活用して技術の理解を深めることで、より本質的な提案ができるようになる。「技術のことはエンジニアに」じゃなくて、自分でもある程度の会話ができるようになる。

どちらかが一方的に頑張るんじゃなくて、お互いが歩み寄る。その中間地点で出会った人が、「製品の本質を伝えられる人」になれる。

これがAI時代のIT業界で求められる姿なんじゃないかと思っています。

得られた学び

このシリーズを通じて考えてきたことを整理すると、こうなります。

AI時代における人間の価値は「間を取り持つ力」にある。そして、その力を最も純粋な形で体現している職種が「営業」である。だからこそ、営業という仕事はなくならないし、むしろ強くなる。

ただし、IT営業には「製品との乖離」という特有の課題がある。この課題を解決するには、エンジニアと営業の両方向からの歩み寄りが必要になる。

あなたがエンジニアなら、営業的な視点を意識してみてください。技術を「価値」として伝えることを意識するだけで、仕事の幅が広がるはずです。

あなたがIT営業なら、AIを使って技術の理解を深めてみてください。完璧に理解する必要はない。「会話ができるレベル」を目指すだけで、顧客との関係が変わってくるはずです。

どちらの立場からでも、「間を取り持てる人」になることはできる。その道筋が見えてきたのが、このシリーズの収穫でした。

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