無課金おばさん誕生前夜 ~もうPythonでいいじゃん~
すべてはAIの狂騒から始まった
「AIって面白そうだな。ちょっと本でも読んでおくか」 って思ったのが昨年、2024年の12月。
時はAI時代。 私はChatGPTを使ってちょっとした調べものとか面接対策をするところから始まって、楽天市場のレビューを集めてChatGPTに食わせ、ワードクラウド生成などのレビュー分析のおままごとをやってみたりはしてた。
しかし 「じゃあAIが何なのか。AIのポテンシャルは何なのか」 まで踏み込んで考えたことはなかった。
読んだーー正確には、Audibleで聴いたーーのは、保科学世著『AI時代の超仕事術大全』
AIで本当にいろんなことができることが分かった。AIは何でもできる。
事業部で扱っている宅配サービス利用者のペルソナを作って、バーチャル商圏を構築し、バーチャルにマーケティング施策がしてみたい、というビジョンが芽生えた。使う素材は購買データ。
年は明けて2025年1月
会社でも「AI導入で活路を見出したい」という機運が高まっていた。正確には、どこの会社でも似たり寄ったりだと思うが、上司が「AI活用、AI活用」という呪文詠唱をはじめた。
早速AIツール導入支援会社との顔合わせが持たれた。
この時点でちょっと不安になった読者。鋭い。
AIの/ツール導入を/支援する/会社。AIに届くまでに2レイヤー跨がないといけないってことに、この時は気が付いていなかった。
私はユーザペルソナ生成とバーチャル商圏構築のアイデアを軽く社内提案した後、AIツール導入支援会社(長いのでB社とする)にも提案書を渡し、B社はAIツールのベンダー・C社を紹介してくれた。
「このツールを使えば、やりたいことできるかもね。」というライトなノリで。
ライトなノリを馬鹿にはしていない。それくらいの軽やかさが重要だってこともわかってる。
ツール導入の見積もりはコンサル料込みで年間2,000万円ほどの案件となった。ツール導入が成功してBIツールの開発までこぎつければ、1億円規模の新規事業となる。
大きな事業会社にとって、1億円は大した額ではないかもしれない。でもDXもおぼつかない北海道の一般企業(一応全国規模の会社の傘下ではある)にとっては割と重めのプロジェクトだ。
現場は当然沸き返った。沸き返った勢いで、B社とのアレンジをしてくれたD社の営業担当者が私の提案を乗っ取りに来るという謎ムーブが起こったりもした。プロジェクトの主導権奪取のために、ツールのデモを中止しようとする暴挙に出られたりもしたが、無事にデモ実施までこぎつけることができた。
(作者注:お気づきの方もいると思うが、この案件には弊社であるA社、A社の御用聞き的な立ち位置のD社、AIツール導入支援をするB社、ツール開発会社のC社という、昼ドラも裸足で逃げ出す濃縮還元人間模様が渦巻いているのだ)
AI施策は塩漬けに
結論から言って、デモは失敗に終わった。 決裁者である事業部長に対して、ツールの魅力が十分に伝わらなかったのだ。
その時は確かに残念だったが、今にして思えば、ツールはUIを整えてはいるものの、あくまで汎用GPTのWrapperみたいなイメージだった。
一番の売り文句としては、自前のRAGがあるということだったが、RAGなんて概念、デジタルマーケティングが浸透してさえない会社のオッサン連中に伝わるわけがない。
DXを飛び越えてAIという空中都市に飛び移ろうとしてる時点でフラグは立っている。パズーだってもうちょっと戦略持ってラピュタに乗り込んだはずだ。
それを差し引いても、いまいちだった。 時代のエッジを走ってるはずのAIツール会社にも、私のビジョンが伝わっていないのが見て取れた。
あくまで予想だが、Webマーケティングがわかっていない人たちがAIツールを開発しているのではないだろうか? 機能はたくさんある。DXがよくわかってないオッサンたちへの安全弁的に、RAGというセキュアな環境が用意されている。でも絶妙に痒いところに届いてない。
デモだけでは議論が煮詰まらなかったので、後日、C社にはこちらの要望を改めて出力してもらったけれど、ぼんやりした青い棒グラフが並んで返ってきただけだった。
言葉は悪いが、おそらくAIツール業界が今まさに入れ食い状態なだけに、顧客の要望に全集中しました! みたいな提案を返す必要がないのだろう。提案の熱量くらい、行間でわかるよ。おばさんだもの。
AI施策については、いったん塩漬けにすることにした。
2025年3月
2月末に、個人プロジェクトとして進めていたWebメディアが立ち上がった。今後の運営効率化のためにナレッジベースを構築し、自前のGPTらしきものを作れないかな、という計画のもと、いろいろと調べ始めた。
個人プロジェクトを進める過程で、「ChatGPTってコードにも詳しいんだ」っていう、今振り返ればアホみたいな感想を持った。HTMLとかCSSとかWord Pressのショートコードとか、頼まなくてもコード記述テキストエリアを立ち上げてチラ見せしてくる。かわいいな、こいつ、と微笑む程度だったが。
「AIで開発スピードが爆上がり」という話は知っていた。しかし開発会社は自前のGPTにコードを書かせているもんだと思っていた。
AIツールのデモがうまくいかなかった衝撃、というか、たかだか数千万~1億円見込みのプロジェクトが立ち上がるだけで、狂いだす人種がいるんだ…っていう残念さを癒すために、情熱をいったん個人プロジェクトに向けることにした。
そしてPythonに出会う
私の唯一まともな壁打ち相手、ChatGPTと話し込むうちに、一歩上のレベルに行くためには、どうやらPythonを身につけなければいけないと気が付き始めた。
「初心者ほど上級者ぶる」 という箴言で己を律し、2018年にアカウントを作ってたProgateの王国に帰ってみた。
学習記録を見ると、HTML、CSS、JSのほか、あれれ? Pythonも3分の2くらいは進めてる。まるで記憶にないけれど。おそらくは当時、ITパスポート取得の流れで一度はやる気を起こしていたのだろう。
ただし、当時の私は文字(コード)と向き合って、成果物がなかなか目の前に立ち上がってこないスクリプトの行列を面白いと思えず、「やっぱ私はAdobe星団に生きる運命なんだ」と思っていた。
今回の目的は明確だ。Progateに一カ月だけ登録。とにかくPythonさえ動かせればいい。Pythonをやらせろ。話はそれからだ。
覚悟はあってもやっぱりおばさん視点ではクソつまらない初歩的な作法を学ぶ。にんじゃわんこがかわいいってことはわかる。でもりんごとかじゃんけんとか、ほんとどうでもいい。
コースの中盤からはひたすら「答えを見る」で写経。
ただし今回のマラソンは孤独じゃない。ChatGPTがいる。
弱音を吐いたり、Progateで「?」って思ったところはChatGPTに解説してもらったりしながら、Progate Python完走(2週間) 。
副産物として、ChatGPTはPython大好きってことに気が付く。
子犬のように「Pythonでコード書こうか?🐶」「サンプルコード書くよ。回してみる??🐶」って聞いてくる。
書いてくれるんだから、仕方ない。
Pythonの実行環境はColabというツールがあれば何とかなる、ということもChatGPTが教えてくれた。Google Cloud連携さえChatGPTレクチャー。
私はまだfor文の使い方もおぼつかず、JSONて何? ジェイソン怖い。くらいの認識しかないうちからGoogle Driveに置いた1G・・・1ファイルに200万レコードは入ってる購買データ ×8ファイル の操作スクリプトをChatGPTに書いてもらうようになった。
200万レコードを操作できる。 そう、これができることの意味は、Excelで開くと「えw 140万行以上のレコードなんて読み込めませんけどww 鬼畜www」と 「そんなデータ開くお前が悪い」 みたいに鼻で笑われるデータ量だ。
それがPythonだとスプレッドシートを開くこともなく処理ができる。
政治家は選挙カー走らせる前に、\Pythonで200万レコード処理できます/って、叫びながら練り歩いてほしい。札幌市内を。
ある日、ChatGPTが「ライブラリもちょっとは覗いてみるといいかもよ?🐶」と唆すものだから、試しにMatplotlibのサイトを覗きに行ってみる。
すると、
「・・・ん? なんか、サンプルのこの青い棒グラフ、既視感あんな…?」
何を隠そう、デモ後にC社が打ち返してきた資料に載ってた棒グラフじゃねーか。
え? もしかして、AIって、限りなくPython?
4月
核心に迫っていく手ごたえを感じながら、ColabでPoCは進む。
コンセプトには自信があった。「購買データをもとに、ユーザのペルソナを生成し、バーチャルにテストマーケティングを実施する。」
強固でありつつシンプルなコンセプトを作り上げ、コンセプトに誰よりもこだわる のがプロデューサーの矜持だ。
AIでやりたいと思っていた、購買データからユーザの購買傾向をもとにクラスターを生成し、ペルソナを生成する、というところまで走りぬくことができたーーPythonで。
おや? おかしいな。AIツール導入支援会社は、私がやりたいことがPythonでできるなんて、一言も言わなかったぞ?
「コンセプトは理解しました。購買データもお預かりしました。来週までに、ちょっくらおばさん10人作ってきます」
なんて、誰も言ってくれなかった。
おかしいな。おかしいな。目の前には、購買データとカテゴリマスタをColabでがっちゃんこさせて、デバック地獄に耐え抜いた、10人のおばさんが並んでいる(ただしデータで。いわば内臓と血管と骨が丸見えの人体模型状態で)
しかも、Colabの無課金枠で。
ユリイカが起こる
「AIって、Pythonじゃん。AIっていうより、Pythonじゃん。AIがなんでもできるなら、Pythonで何でもできるじゃん」
無課金おばさん爆誕
Colabをクラッシュさせることなく、8G(おそらく2000万レコード近く)の購買データから宅配サービスの離脱者ペルソナを生成し、WebサイトのおすすめURLとマッチングさせるPoCに成功。
厳密には、Colabをクラッシュさせながらデバックを繰り返し、無課金枠でもColabがクラッシュしないコード設計へと、ChatGPTと育てた。
エピローグ
目の前は遥かな地平線。
「行けるところまで行きたいーー無課金でーーChatGPTと共に…」
昨年12月からAIを学び、Pythonに行き着き、コード学び、ColabでPoCを回すまで、4カ月…。
ここに、AI時代に爆速でデータPoCを身に着けた無課金おばさんが爆誕 したのであったーーたーーたーー(エコー)
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