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AIはフィレットなし形状の応力をどう評価するか? 特異点と付き合う3つの方法:Codex + CalculiX

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はじめに:フィレットを付けられればよいが・・・

前回は、意図的に特異点が出るようにしたフィレットなしLブロックの線形静解析を行いました。最大von Mises応力はメッシュを細かくするにつれて29.598 MPa → 42.864 MPaまで上昇し、予想通り特異点的な挙動をしていることが確認されました。

CAE的には角にフィレットを付けて再解析するのが良いのですが、図面上はピン角で管理されている、といったような理由でどうしてもフィレットを付けられないことがあります。そのような場合に応力をどう評価するかをAIエージェント(Codex)に案を出してもらい実施してみました。

使用するもの

  • Codex App + GPT5.5 (AIエージェント)
  • CalculiX (CAEソルバー)
  • Gmsh (メッシュ作成用)
  • meshio (メッシュ変換用)
  • build123d (ジオメトリ作成用)
  • FreeCAD (手作業によるジオメトリ作成用)

プロジェクトディレクトリにてAGENTS.mdCAEワークフローも設定しています。

解析条件

解析条件は前回と同じです。

  • 形状:フィレットなしLブロック
  • 材料:SS400
  • 解析種別:3次元ソリッドの線形静解析
  • 固定条件:X=50 mm 面を完全固定
  • 荷重条件:Z=60 mm 面に -X 方向100 N

AIエージェントに相談してみた

フランクに相談してみました。

プロンプト
現時点ではフィレットの有無は不明です。フィレットなし形状のままで最大応力を推定するにはどうすればいい?

返ってきた回答では、フィレットなしでは応力特異点になりうること、ピーク最大応力そのものを一意に推定するのは基本的に不適切であることを指摘しており、抑制が効いた内容でした。こちらは「最大応力を推定したい」とリクエストしているのですが、AIは「その問いの立て方が危ない」と返してきたわけです。変にユーザーに迎合しない回答は好印象です。


その上で、現実的な評価方法として以下のような案を出してきました。

  1. 局所ピークを除外した代表応力で評価する
  2. 内角からの距離に対する応力変化を見て、特異性を確認する
  3. ホットスポット応力や構造応力として評価する
  4. 小さな仮想フィレット半径を入れて感度を見る

今回はこのうち、1、2、3を試してもらいました。

4の仮想フィレットも実務上はかなり有効だと思いますが、今回は「フィレットなし形状のままどう扱うか」に絞ります。

解析レポート

Codexが書いてくれたレポートを見てみます。

レポートの要約

レポートの要約は以下の通り。

(中略)

局所メッシュを細かくするほど、ピーク最大応力は上がっていることから、フィレットなし鋭角部のピーク最大応力を「有限の最大応力」として扱うのはかなり難しいことを指摘しています。

そこで、ここからはCodexが提案した3つの方法を見ていきます。

方法1:局所ピークを除外した代表応力

1つ目は、内角点のごく近傍を除外し、残りの領域の最大応力を代表応力として見る方法です。今回は、内角点 C=(20, -10, 10) mm から一定距離以内の要素を除外し、残った要素の最大von Mises応力を代表値として評価しています。

結果の一部を示します。

局所メッシュ 除外半径 代表最大応力
1.0 mm 1.0 mm 29.765 MPa
1.0 mm 2.0 mm 29.183 MPa
1.0 mm 3.0 mm 27.950 MPa
0.75 mm 1.0 mm 36.269 MPa
0.75 mm 2.0 mm 33.797 MPa
0.75 mm 5.0 mm 23.604 MPa

内角点に近いほど応力が高いので、その近傍を除外すれば代表最大応力は下がるのは当然ですが、どこまでを「局所ピーク」として除外するのかを決めないと、判定が定まりません。

方法1はわかりやすいですが、除外距離の根拠がないまま使うと、都合のよい判定になってしまう危険があります。レポートにも評価距離の明文化が必要であると明記されており、ユーザーが盲目的に結果を利用してしまわないように、抑制のきいた内容になっています。

レポート内容は以下の通り。

方法1は単純ですが手作業で行うのは大変で、AIエージェントが作業をしてくれるのはメリットが大きいです。

方法2:距離方向の応力増加を見て、特異性を確認する

2つ目は、内角点からの距離と応力の関係を見る方法です。内角点からの距離ごとに要素をグルーピングし、距離シェルごとの95パーセンタイル応力を使って、距離方向の応力変化を確認しています。

フィットには、以下の形を使っています。

sigma = A r^-lambda

結果は以下です。

グラフを見ると、内角点に近づくほど応力が上がっていく傾向がはっきりしています。レポートでもフィレットなし鋭角部のピーク最大応力を有限値として推定するより、特異応力として扱うのが自然であると記載されており、抑制のきいた内容になっています。

なお、これに近い考え方として、特異点から少し離れた位置に評価パスを引き、そのパス上の応力を線形または二次で外挿することもあります。もしそのような処理をする場合は、評価パスの方向、採用する距離範囲、外挿方法を先に決めておく必要があります。

方法3:ホットスポット風の構造応力

3つ目は、ホットスポット応力のような考え方で構造応力を試算する方法です。指定した距離の応力から、判定用の構造応力らしき値を作る試みです。

今回は作業定義として、距離シェルの95パーセンタイル応力を使い、以下を計算しています。

  • 線形外挿:2*sigma(1 mm) - sigma(2 mm)
  • 二次外挿:r=1,2,3 mm の二次近似を r=0 に外挿

結果は以下です。

ただし、これは今回の作業定義です。レポートでも特定規格に基づく疲労ホットスポット応力ではないことが明記されています。

ホットスポット応力や構造応力の考え方は、局所ピークを直接使わないという意味で有効です。しかし、どの距離の応力を使うのか、線形外挿にするのか、二次外挿にするのか、何の基準に従うのかを決めないと、評価値は定まりません。

方法3は、評価ルールがある場合には筋がよい方法です。一方で、ルールがない状態でそれっぽく外挿すると、かえって説明が難しくなります。

AIエージェントの結論

工学的解釈も書いてくれました。最初に最大応力を単一値で推定するのは不適切と断ったうえで、今回の評価で言えることをまとめています。

興味深いのは、最初に「フィレットなし形状の最大応力を推定する」とリクエストしたものの、そのリクエストには迎合せずに、「どの評価ルールで応力を判定するか」という問題として定義しなおしていたことです。

これはCAE実務でもよくある話だと思います。モデル化や評価位置によって結果が変わる場合、本当に決めるべきなのは応力値そのものではなく、評価方法です。ここを曖昧にしたまま最大応力だけを見ると、メッシュサイズや評価方法によって合否が変わってしまいます。
AIの回答も、それに警鐘を鳴らすような内容だといえます。

まとめ

今回は、意図的に特異点が出るようにしたフィレットなしLブロックの鋭角部について、Codexが提案した3つの方法で応力評価を行いました。ピーク最大応力は、局所メッシュを細かくするほど上昇し、代表応力やホットスポット風構造応力は評価距離や定義によって結果が変わりました。つまり、応力が30 MPa以下なのか判定を行うには、定量的な「最大応力値」ではなく、「どの評価ルールで判定するか」を先に決める必要があるという結論でした。

今回、個人的に好印象だったのは、AIがこちらの「フィレットなし形状のまま最大応力を推定したい」という要求にそのまま迎合しなかったことです。AIの怖さは、ユーザーの要求に合わせて、それっぽい答えを出してしまうところにあります。今回で言えば「最大応力は何MPaです」と結論を出してしまうのが一番危ないです。

しかし、今回のCodexは、フィレットなし鋭角部ではピーク最大応力が収束しない可能性があるため、最大応力そのものを一意に推定するのは不適切だと返してきました。そのうえで、代表応力、距離方向の特異性確認、構造応力といった代替案を出しています。

このような抑制のきいた対応になったのは、事前にCAEワークフローを定義していたことも効いていると思います。以前の記事で書いたように、AIエージェントにCAEツールを動かさせる際に想定外の動作を防ぐために AGENTS.md などで動作の型を設定しています。

今回の環境でも、解析計画、CalculiXコーディング、結果レビュー、レポート作成の各段階でCAEワークフローガイドを参照するように指示しています。特に結果レビューでは、ソルバーが正常終了したかだけでなく、解析結果が目的、仮定、工学的判断に対して妥当かを確認するようにしています。

AIエージェントにCAEを任せるうえで重要なのは、解析を自動実行させることだけではなく、こうした工学的なブレーキをワークフローに組み込んでおくことだと思います。


CAEに詳しくない人向けにはどう説明するか

今回のレポートは、CAEに詳しくない人にこのまま説明するとわかりにくいかもしれません。
設計者が知りたいのは、おそらく次のようなことです。

  • 結局、この形状は使えるのか(所定の応力以下なのか)
  • フィレットなしのまま判断できるのか
  • どこを変更すればよいのか
  • 追加で何を決めればよいのか

その意味では、設計者向けレポートでは「最大応力は48.180 MPaです」とだけ書いても不十分です。

むしろ、

鋭角部のピーク応力はメッシュ依存なので、そのまま合否判定には使えません。30 MPa判定を行うには、評価距離または構造応力の定義が必要です。

という説明が必要になります。このような説明を含めたレポート作成は、AIエージェント活用として面白いところなので、次の記事で取り上げたいと思います。

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