光ファイバーとUTPケーブルの技術的理解
はじめに
ネットワークスペシャリスト試験の学習中、令和4年春期午前2問題Q02で以下の問題に遭遇しました。
問題
長距離の光通信で用いられるマルチモードとシングルモードの光ファイバの伝送特性に関する記述のうち,適切なものはどれか。選択肢
- ア:シングルモードの方が伝送速度は速く,伝送距離も長い。
- イ:シングルモードの方が伝送速度は速いが,伝送距離は短い。
- ウ:マルチモードの方が伝送速度は速く,伝送距離も長い。
- エ:マルチモードの方が伝送速度は速いが,伝送距離は短い。
正解は「ア」ですが、なぜシングルモードが優れているのか腹落ちして理解できていなかったため、IEEE 802.3の伝送媒体について深掘りすることにしました。
本記事の目的
- 伝送媒体として主流の「UTP」と「光ファイバー」について理解する
- ネットワークスペシャリスト試験の「光ファイバーの特性」について、技術的背景から解説できるようになる
IEEEとは
IEEE(アイ・トリプル・イー) は、電気・電子・情報通信技術分野における世界最大規模の学術研究団体です。2023年時点で190か国に44万人以上の会員を擁する国際的な組織で、IT分野を含む技術の国際標準を策定しています。
名称について
- 正式名称:Institute of Electrical and Electronics Engineers
- 日本での通称:電気電子技術者協会
-
名称の構成:
- Institute(協会)
- Electrical(電気)
- Electronics(電子)
- Engineers(技術者)
歴史的経緯
IEEEは以下の2つの組織が1963年に合併して誕生しました。
-
AIEE(American Institute of Electrical Engineers)
- 1884年設立
- 電力・有線通信(電信、電話)技術分野を担当
-
IRE(Institute of Radio Engineers)
- 1912年設立
- 無線技術分野を担当
両組織の合併により、電気・電子技術を包括的にカバーする国際組織へと発展しました。
IEEE 802.3とは
IEEE 802.3は、有線LANの一種である イーサネット(Ethernet) に関する標準規格群です。
技術的な位置づけ
- OSI参照モデルの第1層(物理層)および第2層データリンク層のMAC副層に相当する規格を定めている
- CSMA/CD方式によるアクセス制御を基本とする(ただし全二重通信では使用しない)
主な伝送媒体
- 同軸ケーブル:初期の規格で使用(10BASE5、10BASE2)、現在はほぼ使用されない
- UTP(Unshielded Twisted Pair):現在の主流の一つ、オフィスや家庭で広く使用
- 光ファイバー:高速・長距離通信に使用、データセンター等で主流
なぜ同軸ケーブルは廃れたのか
1990年のIEEE 802.3i(10BASE-T)として標準化されたUTPによって構築できるスター型トポロジーが、バス型トポロジーおよび同軸ケーブルの欠点を解消したため、主流が移行しました。
「バス型トポロジーの問題」・「同軸ケーブルの物理的な特性」・「経済的要因」より解説します。
バス型トポロジーの問題
同軸ケーブルは「バス型トポロジー」で主に利用されていましたが、以下の欠点がありました。
- 1箇所の障害が全端末の通信に影響
- ノードの追加・削除時にネットワーク全体が一時停止(例:10BASE2)
- トラブルシューティングが困難
バス型トポロジー:1本の同軸ケーブル(バックボーン)に複数の端末が接続され、ケーブルの両端にターミネータ(終端抵抗)が必要な構成
同軸ケーブルの物理的な特性
- ケーブルが太く硬い(10BASE5は直径10mm、10BASE2は5mm)
- 曲げ半径の制限が厳しく、配線の自由度が低い
- タップやBNCコネクタなど専用部品が必要
- タップ:同軸ケーブルの途中から信号を取り出すための接続部品
- BNCコネクタ:10BASE2で使われる同軸ケーブル接続用の差し込み式コネクタ
経済的要因
- UTPは既存の電話配線インフラを流用可能
- ケーブルと施工コストが同軸ケーブルより安価
- RJ-45コネクタで簡単に接続可能
UTPケーブル
UTP(Unshielded Twisted Pair) は、現在のLAN配線で最も広く使用されているツイストペアケーブルの一種です。
基本特性
- 正式名称:Unshielded Twisted Pair(非シールドツイストペア)
-
構造:導線を2本1組で撚り合わせたペアを複数束ねたケーブル
- 撚り合わせることで電磁波の相互干渉を打ち消し、ノイズ耐性を向上
- 通常4対(8本)の導線で構成
- 用途:家庭・オフィスのLAN配線の主流
UTPケーブルの主要な規格
| 規格名 | 伝送速度 | 最大配線長 | ケーブル要件 | 使用ペア数 | 特徴・用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| 10BASE-T | 10Mbps | 100m | Cat3以上 | 2対(4本) | 初期のツイストペア規格。レガシーシステムで現存 |
| 100BASE-TX | 100Mbps | 100m | Cat5以上 | 2対(4本) | Fast Ethernet。長期間主流だった規格 |
| 1000BASE-T | 1Gbps | 100m | Cat5e以上 | 4対(8本) | ギガビットイーサネット。現在の主流 |
| 10GBASE-T | 10Gbps | 55m(Cat6) 100m(Cat6A) |
Cat6/6A以上 | 4対(8本) | データセンター・基幹ネットワーク向け |
技術的特徴
- 全規格で最大100mのため、長距離通信には中継機器(スイッチ)や光ファイバーとの併用が必要
- ペア使用について、後期に開発された規格ほど通信が高速化している。
- 10/100BASE-T:送信用1対+受信用1対(計2対)
- 1000BASE-T以降:双方向同時通信で4対全使用
- カテゴリ :数値が大きいほど高品質
光ファイバーケーブル
光ファイバーケーブル は、光信号を伝送するケーブルで、主に「コア」と「クラッド」から構成されます。
構造の詳細
- コア:ケーブルの中心部、高い屈折率を持つガラス材
- クラッド:コアを包み込む層、低い屈折率を持つガラス材
- 屈折率の差により全反射が発生し、光信号がコア内に閉じ込められる
- コアを通る光信号をモードと呼ぶ。詳細は下記参照
マルチモードとシングルモード
モードとは
光がコア内を伝搬する経路のこと。複数の経路が存在するか、単一かで分類されます。
| 種類 | コア径 | 主な用途 |
|---|---|---|
| マルチモード | 50μm/62.5μm | 建物内・施設内 |
| シングルモード | 8~10μm | 通信事業者・長距離通信 |
なぜシングルモードが長距離通信に適しているのか
モード分散の問題
-
マルチモード:複数の光路により到達時間差が生じる(モード分散)
- 同時に入射した光が異なる時間に到達
- パルス信号が広がって隣接信号と重なる(符号間干渉)
-
シングルモード:単一経路のため、信号の歪みが少ない
- モード分散が発生しない
- 長距離・高速通信が可能
光ファイバーの特徴
利点
- 大容量通信:電気信号と比べて広帯域
- 長距離伝送:信号減衰が少ない
- 電磁波の影響を受けない:ノイズ耐性が高い
注意点
-
最小曲げ半径の制限
- 規定以上に曲げると、クラッドから光が漏れる(曲げ損失)
- 接続の専門性:融着接続には専用機器と技術が必要
- コスト:UTPと比較して高価
WDM(波長分割多重)技術
異なる波長の光は相互干渉しない特性を利用した多重化技術です。
WDMの仕組み
- 複数の電気信号をそれぞれ異なる波長の光信号に変換
- 光ファイバーケーブルで複数波長を同時伝送
- 光スイッチ (光信号のまま経路切り替える機器)を利用して中継する
- 受信側で波長ごとに分離して電気信号に再変換
光ファイバーの主要な規格
- 1000BASE-SX:マルチモード、短距離(〜550m)
- 1000BASE-LX:シングルモード、中距離(〜5km)
- 10GBASE-SR:マルチモード、10Gbps(〜300m)
- 10GBASE-LR:シングルモード、10Gbps(〜10km)
使い分け
UTPケーブルが適している場合
- 距離:100m以内の配線
- 環境:一般的なオフィス・家庭
- コスト:初期投資を抑えたい
- 施工:頻繁な配線変更が予想される
光ファイバーが適している場合
- 距離:100mを超える配線、建物間接続
- 速度:10Gbps以上の高速通信
- 環境:電磁ノイズが多い工場など
- 将来性:長期的な帯域拡張を見込む
典型的な構成例
オフィスビルのネットワーク設計
-
フロア内配線:UTP(1000BASE-T)
- 理由:100m以内、コスト効率、配線変更の容易さ
-
階層間配線(縦系配線):光ファイバー(10GBASE-SR)
- 理由:高速バックボーン、ノイズ耐性、将来の拡張性
まとめ
ネットワークスペシャリスト試験の過去問を発端にして、この学習メモを作成しました。
IEEE802.3で規定される主要な伝送媒体である「UTP」と「光ファイバーケーブル」を理解し、両者のメリット・デメリットを把握することで、現在のそれぞれの使用用途について学習しました。
ポイントは「物理的な取り扱い」と「コスト」です。
安価で取り扱いが容易なUTPは家庭内やオフィスなどの身近な場所で利用され、反面コストが高く、曲げに対する制約はありますが、長距離・大容量通信に優れた光ファイバーケーブルは通信事業者や基幹ネットワークで使用されています。
両者の特性を理解することで、適材適所で組み合わせて使用することの合理性について認識を深め、腹落ちして理解できました。
ネットワークスペシャリスト試験の過去問についても、光ファイバーのシングルモードは単一の光路(モード)で光が伝搬するため、複数の光路で伝搬するマルチモードと比較してモード分散が発生せず、長距離・高速通信に向いているという技術的な背景まで、自分なりに理解して解説をまとめることができました。
主要なポイント
- 歴史的経緯:同軸ケーブル(バス型)から、UTP(スター型)への移行は、管理性・経済性・拡張性の観点から必然的な流れだった
- UTPの特性:安価で取り扱いが容易、100m以内の配線に最適
- 光ファイバーの特性:高コストだが、長距離・大容量通信に優れる
- シングルモードの優位性:モード分散が発生しないため、長距離・高速通信が可能
復習ポイント
学習内容の定着度を確認するための主要な復習ポイント
- IEEE 802.3が規定しているOSI参照モデルの層は?
- 現在主流の伝送媒体2つは?
- 光ファイバーケーブルの基本構造(2つの要素)は?
- 主要な4つの規格におけるUTPケーブルの最大配線長は?
- マルチモードとシングルモードのコア径の違いは?
- なぜシングルモードが長距離通信に適しているか?
- WDM技術が可能な理由は?
参考資料
書籍
-
ネットワーク技術の教科書 第2版
- 著者:長谷和幸
- 出版社:アイテック
- 出版年:2022年
-
マスタリングTCP/IP 入門編(第6版)
- 著者:井上直也・村山公保・竹下隆史・荒井透・苅田幸雄
- 出版社:オーム社
- 出版年:2019年
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