【入社エントリ】ベルギー移住を辞めて松尾研究所に入社した話
株式会社松尾研究所の太田幹です。2025年の4月に松尾研究所にジョインし現在はデータサイエンスチームでシニアデータサイエンティストとして大規模言語モデルの事後学習プロジェクトを主に担当しています。
気づけば入社から早8ヶ月、、いまだに入社エントリを書いていなかったのでアドベントカレンダーを期に重い筆を上げて挽回しようと思います。少し長いかもしれませんが、お付き合いいただけますと幸いです。
この記事は松尾研究所 Advent Calendar 2025の記事です!
自己紹介
学業
ぼくは元々AI、ましてやITの出身ではなく、大学では物理学を専攻していました。出身がベルギーであり学部ではEcole Polytechniqueと呼ばれる日本でいう工学部に属していたのですが、応用より理論の方が好きであることに途中で気づき修士は物理学研究科に進みました。その後イタリアの太陽の下数年過ごしたい思いから当時研究していた分野における著名な先生がいるという理由からイタリアの大学院の博士課程に進みました。
自分の研究について
少し専門的&長いので興味がある方だけ読んでもらえればと思います。
博士では冷却原子気体と呼ばれる系の研究をしており、絶対零度近くまで冷やし量子現象が顕著に現れる気体において音波がどのように伝播するかを理論研究していました。音波は基本的には媒体の粒子間の衝突によって伝播する圧力波なのですが、冷却原子気体では粒子間の距離がとても離れているため全く異なるメカニズムを使って音が伝わります。系によっては複数の音波(一度振動したら二つの音が伝わる)が存在したり無衝突音波が存在するのですが、僕は比較的シンプルな平均場理論を使ってそれらを研究していました。
新卒
大学で10年ほど過ごしたのち、そろそろアカデミックの外の世界も探検してみたい、と思い就職することを決めたのが5年前でした。物理学を続けるのであれば大学以上の環境はないと思い、せっかくだから全く違う領域に進んでみようと当時流行っていたデータサイエンスの道に進むことに決め、新卒でARISE analyticsという会社に入りました。ARISEではポテンシャル採用という枠組みで院卒のデータサイエンス未経験者を積極的に採用・社内で育成する方針をとっており、とても多くのことを学ばせていただきました。
松尾研究所との出会い
JSAI 2024
松尾研究所との最初の接点は今から一年半前。浜松での人工知能学会での出来事です。有志との研究内容をまとめたポスターを大会中に発表していたところ、長身で爽やかなお兄さんが聴きに来てくれたのですが、彼の質問やコメントが温和だけども鋭くとても印象に残りました。話を聞いてみると発表していた内容(「学術論文の影響評価について」)と近しい研究をしているとのことで、議論が大変盛り上がりました。さて、勘のいい読者はもうお気付きでしょうが、この方こそが僕と松尾研との最初の接点、シニアデータサイエンティストの長谷さんでした。
その数ヶ月後色々あって転職を決意するのですが、転職活動中にエージェントから松尾研究所とのカジュアル面談を持ちかけられた時はすぐさまJSAIでの出会いを思い出しました。そうして選考を進めているうちにー今や面接官として強く大きく立ちはだかるー長谷さんと再会したのでした。
Why 松尾研究所?
自分がなぜ松尾研究所に惹かれたか、という話をすると長くなるのですが、要点としては「技術の強さ」「プロジェクトの多様性」「大学との近さ」、そして「人の良さ」があります。「技術」と「プロジェクト」については他の入社エントリでも話されているのでここでは詳細は割愛しようと思います。
「大学との近さ」についてです。大学に10年以上在籍した自分にとって、ビジネスと関わりのないところで基礎研究と向き合っている人が近しいところにいる、というのはとても心地のよく親しみのある環境だと感じました。(最近入社されたスーパー音声マンこと栗原さんも同じようなことを語っています)
また僕自身教育に興味があり、自分が大学時代先輩や講師に貰ったものを何かしらの形で学生に還元する、というのはこれまでずっと意識してきたことでした。僕が属する松尾研究所の共同研究チームではほとんどのプロジェクトにおいて学生インターンが複数人参画しており、彼らと共に仕事ができるというのは非常に魅力的に感じました。実際に働き始めて読みが甘かったなと思うところがあるとすれば、、研究所のインターン生はどなたも志が高く技術的にも人間的にも成熟しており、知を還元するどころかこちらが色々と学ばされる、ということかもしれません。頑張らねば!
Un appel de la Belgique
なんだかんだと内定をいただき、「松尾研究所最高やん!入社したろ!!」とすぐになったかと言うと、、実はそうではなく、僕には当時一つの葛藤がありました。自己紹介に立ち戻りますが僕は人生のちょうど半分を欧州、もう半分を日本で過ごしており、今までもそしてきっとこれからも、「日本に4〜5年いると欧州が恋しくなり、欧州に4〜5年いると日本が恋しくなる」めんどくさいグローバルで繊細な性格を持っています(ああ不憫かな)。
周期的には前職を辞めた時がまさしく欧州に帰りたいと思う時期で、国内で転職活動を始めたはいいものの、母国であるベルギーに帰ることを真剣に考えていました。日本に長く滞在することによって霞みつつある自分の半身に今一度再会したい、と言う思いはしかしホームシックに近しい感覚であり、ベルギーに行く必然性や、成し遂げたいことが明確にあったわけではありません。だからこそ、母国に焦がれるこの想いが本物か、現地に行って確かめる必要がありました。
内定をいただいたタイミングで松尾研究所の皆様に上記の想いを伝えたところ、心が決まるまで内定の返信は待っている、との暖かい返事を貰い、ベルギーに一時帰国する決意をしました。あの時内定承諾を急かされていれば自分は今ここにいなかったかと思います。
これが先ほど述べた「松尾研究所に惹かれた理由」の最後の一つ「人の良さ」です。
帰国のエピソード以外にも、入社前に会話した職員の方はどなたも素敵で、データサイエンス力が非常に高いにもかかわらず鼻持ちすることはなく、「どうすれば自分が、そして周りのメンバーが、社内でやりたいことに打ち込めるか・最大限のパフォーマンスを発揮できるか」を考えている方ばかりでした。
松尾研究所の社内文化
入社エントリーとは本来、入社直後に書かれているものであり希望と期待に満ちたものです。しかし冒頭にも述べた通り、僕は入社から一定期間が経っています。僕としても松尾研究所で働くにあたって気に入ったポイントについて述べようと思うものの、少し視点を変えて「今松尾研究所に足りないもの」についても語りたいと思います。これは悲観的な立場での糾弾ではなく、自分がこの会社と共にどのように成長したいか、という思考のまとめになっています。
文化に染まる
松尾研究所に入ってきて一番驚いたのは裁量の大きさです。中途で入ってきた自分はものの数日後には二つの案件のPM(プロジェクトマネージャー)としてクライアントの前に立っており、十数人のインターン生を束ねる形でプロジェクトを進行していました。当初は突然与えられた権力の大きさに、「どのようにプロジェクトを進めるのが正解なんだ、、」と恐れ多く感じていたのを覚えています。周りの職員にヒアリングをしても各自が自分自身のやり方でプロジェクトを進めており、何をどう参考にすればいいのかわからない程でした。
しかしこれこそが松尾研究所の強みだと今は感じています。圧倒的なパフォーマンスのPMやDSが集まり、個々が高い技術力とマネジメント力を持ってプロジェクトをぶん回す。方法論を確立して全員が同じ進め方をするのではなく、特定の領域(技術でもコンサルでも)に尖った個人が自分にマッチした領域で圧倒的なバリューを出す。
実態として松尾研究所の職員は担当しているプロジェクトに限らず、能動的に東大の研究室と研究をしたり、教育活動に勤しんだり、といい意味でのワンマンプレイをしています。
また誤解のないように補足すると、これは「責任が投げやりである」というわけではありません。助けを求めれば周りの職員から常に手は差し伸べられますし、どちらかというと(プロジェクトが許す限り)「好きなだけトライできる」環境に近しいです。
余白
前述の通り裁量権を与えられる松尾研究所ですが、これには一つの限界があります。それは知見が蓄積しないことです。メンバーが十人以下でお互いがお互いに詳細に何をしているか把握している状況であればまだしも、十人を超えると細かな実施内容を追うのが困難になります。己のやり方で進めてトライエラーを通じて得たせっかくの知見が、共有されず、ベストプラクティスが浸透しない、車輪の再開発が発生する、負荷が増える、というのはなるべく避けたいことです。
特に松尾研究所のデータサイエンスチームは2025年の3月以前はメンバーが10名以下だったのが、今では倍以上に成長しており、「知見の共有」の必須性は未だかつてなく重みを増しています。
また「裁量を持つ」とは「自走するだけの一定の力を持っている」ことを意味します。経験のある中途入社者はこの「自走するだけの力」が具体的に何を示しているのか、自分に足りないのは何か、なんとなくわかることもありますが、例えば新卒で入ってきた業務経験の乏しい若手はイメージが湧きづらいかと思います。さらに前述の「特定の領域に尖る」ですが、これもまたその尖り方が自社でしか通用しないのか、あるいは他社でも通用するのか、見極める必要があります。また松尾研究所では今年の4月から新卒をとっており(こちらやこちらを参考)、彼らが他に類をみないスーパー新卒とはいえ、「育成の座ぐみを整える」ことも必要性を増していました。
文化を染める
このように組織が大きく変革していく中で新たな仕組み、ないし文化の醸成が必要になるのは往々にしてあることだと思います。松尾研究所のデータサイエンスチームの本当に素晴らしいところは、そんな仕組みづくりがトップダウンではなくボトムアップから来ていることです。
僕が入社してから自発的に生まれた動きのほんの数例として、「知見の共有」に関するところでは社内開発PJの発足(開発が強い人のもとで社内ソリューションを作り形式的な知識だけでなく、体系的な開発PJの進め方について共有する)、「育成の座ぐみ」ではスキルアセスメントの整備(他社にも通用するコアスキルを見える化することで成長の現在地並びに目的地を明確にする)が挙げられます。また直近ではPMが集まってマネジメントの課題と本音を打ち明ける「困りごと相談会」なども開催されました。
僕自身は前職での経験から入社後にスキルアセスメントを提案したところ、マネージャー・周りのメンバーともに後押しをしてくださり、自分の思い描く「あるべき」に近しい形で進めることができました。
優秀なデータサイエンティストが集まるからこそ、技術的な課題解決に留まらず、このような組織的な課題についても自発的に「これはおかしいんじゃないか」「こうすればいいんじゃないか」という議論とアクションが生まれているのだと感じています。また、松尾研究所の文化のもう一つの特徴として圧倒的スピード感のPoCも挙げられます。POCは業務だけでなく、組織課題にまで浸透しており、思い立ったが吉とりあえず試してみてうまく行かなかったらバラす、という一種の軽さが根付いているからこそ新しい施策をガンガン試していけるのかなと。
まとめ
今回初めて中途採用として転職するにあたって、企業文化のことを考える良い機会となりました。新卒では真っ白な状態で入社し会社の社風や文化に染まる側面が強い一方で、中途は入社時点ですでに何かしらの「色」に染まっています。重要なのは「新しい会社の色に自分も染まる」だけではなく「自分の持っている色で会社を染める」相互性を意識することであると感じました。
自分が今まで培ってきたやり方の何を捨て何を持ち込むか、この取捨選択により自分にとっても組織にとっても良い方向に進んでいくと信じています。
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