Claude Code に David Allen を演じさせて、GTDの高度50,000ftまで登ってみた話
GTDに「上」があるのを知らなかった
GTDというタスク管理手法を 2006年から使っている。やることを全部書き出して、次の行動を決めて、信頼できるシステムに預ける。頭を空にして、目の前のことに集中するための仕組みだ。
自分はこの手法の「地上」の運用はずっと回してきた。todo.txt、週次レビュー、そういう日々のタスクを捌く部分。
GTDには Horizons of Focus (高度の概念) という階層がある。David Allen 自身が提唱する、人生の抽象度を飛行高度になぞらえた枠組みだ。
- 20,000ft: Areas of Focus (責任領域)
- 30,000ft: 1-2年の Goals
- 40,000ft: 3-5年の Vision
- 50,000ft: Purpose & Principles (人生の目的と原則)
この上層部分の存在を、自分は長年認知していなかった。Someday/Maybe もちゃんと運用できていたわけじゃなく、地上のタスク処理だけで十分に回っているつもりだった。
一人だと上層に登れない
上層を意識してみても、一人で登るのは難しい。Allen 流は基本的に Socratic (問答式) なスタイルで、問いを投げて対話で引き出していくものだ。一人で紙に向かって「自分の人生の目的は何か?」と書き出しても、言葉が硬くなる。あるいは何も出てこない。
対人コーチを雇う手もあるが、そこまでするほどか、と二の足を踏む。結果、地上の運用だけで満足してきた。
Claude に David Allen を演じさせた
先日、Claude Code にこう投げた。
(自分) GTDの高度の概念あるじゃん? あれトップダウンでやる派閥とボトムアップでやる派閥ありそうね。やってみたいんだけど何から手を付けようかなって。
雑談から始めた。対話しながら「自分はボトムアップ派」「できれば最上階 (Purpose) まで行きたい」という方向が見えてきた。そのうち、こう言ってみた。
(自分) David Allenになりきってキミが僕に質問しながら整理していくといいのかなって。どうだろうね?
これで Allen ロールが起動した。単一のきれいなプロンプトで始めたわけじゃなく、数ターン対話する中で少しずつ形が決まっていった。
想定所要時間は 1.5〜2時間。各高度に timebox を切って、「第一稿を作る」前提で進めた。結果、1セッションで 4つの高度を一周できた。昼休憩を挟んで実質 90分ほど。
ちなみに以下で紹介する Allen の技法や言い回しは、原著 (Getting Things Done など) で裏取りしたわけじゃなく、セッション中に Claude が Allen として振る舞った内容をそのまま拾っている。本物の Allen のスタイルとはズレているところがあるかもしれない。
使えた Allen のコーチ技法
登ってみて、Allen のコーチング手法が高度ごとに違うことが分かった。4つある。
維持する責任か、願望か (20,000ft)
最初の高度。既存の Areas of Focus を一緒に見返すところから入った。「抜けてる領域はないか?」と問われて、思いついたものを並べていく途中で、自分がこう聞いた。
(自分) 維持したい状態を書くんだっけ?
(Allen) その認識で合っています。Areas of Focus は「達成するもの」ではなく「維持する責任領域」です。
これで Area と Goal の違いが頭に入った。Area は「今ホールドしている責任」で、現在の状態を維持する。Goal は「到達したい新たな状態」で、今はまだ無い何かを目指す。区別が曖昧だと、Area に「これからやりたいこと」が混入して肥大化する。
Allen は領域の追加を問う時も毎回「これは現在ホールドしている責任? それとも今後そうしたいという願望?」と聞いてきた。願望は 30,000ft 以上に送る。Area には「既に責任として抱えているもの」だけを入れる。
この区別の問いだけで、既存の領域リストに抜けがあると分かった。意識していなかった責任領域がいくつか追加された。
一段上がった状態を問う (30,000ft)
1-2年後の達成したい成果を聞かれて、こう答えた。
(自分) 全然出てこないなー。1,2年先とか普段あんまり考えてない。
ここで Allen は聞き方を切り替えてきた。
(Allen) Area ごとに「一段上げる」を聞きます。「この領域で今より一段上の状態ってどんな感じ?」と。
抽象的な「目標」は出てこなくても、具体的な領域を切り口にすると言葉が出始める。これで一気に進んだ。
ここで副次効果もあった。「こうなっていたい」と口にした瞬間に「違う、これは自分が本当に欲しいものじゃない」と気づいた Goal がいくつかあった。言語化しないと、その Goal が偽物だということ自体に気づけない。
Day in the life で描く (40,000ft)
3-5年後のありたい姿。ここでも直接「ビジョンは?」と聞かれても固まる。
Allen が切り替えてきたのは "Day in the life" エクササイズだった。
(Allen) 5年後のある平日、どんな1日を過ごしていると最高か? 朝起きてから寝るまでを、情景として描写してみてください。
抽象度を一段下げて「具体的な1日の情景」にすると、スラスラ書けた。何時に起きて、午前中は何をして、午後に何をして、夜は何をしているか。抽象的な目標じゃなく、具体的な情景として出てくる。
描いた情景の中に、本当に大事にしているものが混じっていた。目標じゃなく、もっと深い軸の断片。あとから振り返って、これは 50,000ft の伏線だったと分かる。
Principles から掘る (50,000ft)
最後の高度。Allen のコツは「Purpose を直接聞かない」だった。先に選択肢を提示してきた。
(Allen) 進め方、2案どっちか選んでください。A. Principles から入る (推奨) / B. Purpose から攻める。
A の理由は、Principles が「どう在りたいかの譲れない軸」で具体的に言葉にしやすいから。Principles が並ぶと、その奥にある Purpose が浮かび上がる、ということだった。
これに従って Principles から掘り始めた。
掘る過程で曲がり角もあった。40,000ft で「穏やかに過ごしている」と書いたのを受けて、Allen が「機嫌が悪くなる時、何が原因?」と聞いてきた時、自分はこう答えた。
(自分) 機嫌のことを聞かれたから書いた気がするけど、そもそも普段そんなに機嫌悪くなることないと思う。
これで Allen が pivot した。「穏やか」は目指す状態じゃなく baseline で、自分が本当に反応しているキーワードは別にあった、と気づいた。言葉を当てようとする過程で、最初に書いたものが仮置きだったと分かる、という動きが何度か起きた。
Principles をいくつか並べた上で、Allen がその奥にある Purpose のドラフトを作ってきた。最終的に 1行にまとまった。
登ってみてあとから感じたこと
4高度を書き出したあと、じわじわ効いてくる感覚が2つあった。
言語化は発見に近い
Principle を書き出した瞬間、過去の自分の選択が遡って意味を持ち始めた。
普段の人との接し方、仕事の受け方、誰かと組むときの距離感、過去の大きな意思決定。意識していなかった複数の反射が、実はどれも同じ Principle に従っていた。「なぜそうしてきたのか」を自分でも合理的に説明できずにいた選択が、Principle を言語化した後で辻褄が通った。
やったのは、ないものを発明する作業じゃなく、既にあったものを言葉にする作業だった。ずっとそこに居たものを、ようやく見つけたのかもしれない。しれないが、あくまで僅かな時間で導きだしたものだし、本当にそうか?は今後も度々問い続けなきゃいけない。
Principle は身体で先に反応する
もう一つの気づき。Principle は頭の理解じゃなく身体の反応だということ。
「譲れない軸」と言語化したが、もっと正確に言うと「そこが曲がると気持ち悪い」感覚。違反すると、理屈より先に違和感が来る。言語化はその後に追いつく。
過去に遡って辻褄が通った選択も、当時は反射で決めていた。理由の言語化は後から辻褄合わせで作っていた。一貫した反射があるから、そこに軸がある。逆に言えば、一貫した反射を説明しきれない時、その下に未言語化の Principle が眠っている。
この気づきは実用的でもある。違和感を Principle 違反のアラートとして読むスキルが身につくと、判断がブレない。「なんか気持ち悪い」という信号が来たら、自分の軸に何かが当たっているサインだと言われて、まぁ確かにそうかと思ったりなどした。
AI を自分の言語化の相手に使う
対人コーチは時間調整も費用もかかる。自分で書き出そうとしても硬くなる。その間にあった「やりたいけど手が出ない領域」に、ちょうど良い粒度の道具が見つかった。ただ、こうしてAI相手にやってみたことで対人コーチも試してみたくなってきたかも。
1年スパンくらいで同じことをもう一度やって、言葉の輪郭がどう変わるか見ていくのがよさそうだなと思った。全然違う結論出たりすることもあるんだろうか。いずれにせよ自分一人で悶々と考えても無駄に時間だけかかりそうなところでAIがこんなに役立つようになるとは凄い時代になったなと改めて再認識した。
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