🌊
RAGを扱うプロがハマりがちな落とし穴とその対策大全
~精度が出ない?遅い?幻覚が減らない?全部RAGの罠かも~
こんにちは。RAG設計・実装を業務で多数手がけてきたAIエンジニアの中野哲平です。
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、LLMの応用として非常に有望な手法です。
社内文書QA、FAQボット、要約、法務・医療ドメインなど、実務活用の中心にある技術とも言えます。
しかし、RAGをプロフェッショナルとして扱うとき、必ずぶつかるのが「設計・実装上の落とし穴」です。
本記事では、RAGのプロがつまずきやすい実戦的な罠10選と、それぞれに対する具体的な対策や回避法を網羅的に解説します。
🔻 落とし穴①:Retrieverの検索精度が低く、関連文書を拾えていない
● 症状
- 「関連性のない文書が拾われて回答の質が下がる」
- 「必要な情報が検索できておらず、幻覚が増える」
● 原因
- 埋め込みモデルの選定ミス(例:英語モデルで日本語を処理)
- 文書のChunk設計が不適切(文脈が欠落)
- Top-kが少なすぎて情報が漏れる
✅ 対策
- ドメイン特化の埋め込みモデルを選定(例:BioBERT、LegalBERT、日本語BERT)
- Chunkサイズを調整(長すぎると検索精度低下/短すぎると文脈損失)
- Top-k+Re-ranking:まず広めに取得し、関連度で絞る(→ColBERTなど)
🔻 落とし穴②:生成が幻覚まみれになる
● 症状
- 検索した文書があるのに、モデルが全く違う回答を生成
- 出典と矛盾した情報が出る
● 原因
- LLMの生成力が強すぎて“無視”する
- 検索文書の文体・フォーマットが不適
- プロンプトで「信じろ」と明示していない
✅ 対策
- プロンプトで「次の文書に基づいて回答してください」と明記
- 根拠付き回答のプロンプトテンプレート化
- LLMの生成温度を低め(0.2以下)に設定して暴走を抑制
- 明示的な禁則事項(例:「上記以外の情報を含めない」)を入れる
🔻 落とし穴③:全体が遅い・応答が2〜3秒以上かかる
● 症状
- Retrieverが遅い/Generatorが遅い
- 大量の文書検索でレスポンスが数秒以上に
● 原因
- FaissやWeaviateなどベクトルDBの設計が最適化されていない
- LLMがAPIベースでI/Oに時間がかかる(例:OpenAI)
✅ 対策
- Indexの最適化:HNSW + quantization、RAM常駐設定
- LLMを**ローカル実行(vLLM, Ollama)**に切り替え
- トークン数制御(文書を要約 or 重要部分抽出)
- 前処理段階でキャッシュ&メモリ活用
🔻 落とし穴④:関連性と多様性のバランスが取れない
● 症状
- 同じような文書ばかりが複数ヒット
- 回答に冗長性が多くなり、精度も落ちる
● 原因
- ベクトル検索は類似性を優先するため、似た文書ばかり選ばれる
- Diversityへの考慮が不足
✅ 対策
- MMR(Maximal Marginal Relevance)による再ランク処理を導入
- Chunk作成時に「セクションごと」や「ドキュメント間の距離」を活用
- Faissであれば「HNSWのパラメータ調整」でクラスタリング強化
🔻 落とし穴⑤:Chunkのサイズと意味構造が合ってない
● 症状
- 文書の途中で話題が切れてしまい、意味が伝わらない
- 検索しても文脈がバラバラ
● 原因
- Fixed-size Chunk(固定長トークン)で無理やり分割している
- HTMLや構造情報を活かしていない
✅ 対策
- セマンティックチャンク(意味単位で分割):LangChainやLlamaIndexに対応
- 「見出し+本文」や「FAQ構造」を保持するChunkingルールを設計
- 段落+スライディングウィンドウのハイブリッドも有効
🔻 落とし穴⑥:プロンプトが冗長 or 不安定で、回答に一貫性がない
● 症状
- 回答のフォーマットがバラバラ
- 文体が毎回違う/曖昧なトーンで出力される
● 原因
- 動的にプロンプトが生成されるが、統一性がない
- LLMがスタイルを決めきれていない
✅ 対策
- プロンプトテンプレートを明確化し、管理する(例:LangChain PromptTemplate)
- 出力フォーマットを定型化(例:「見出し+箇条書きで出力」)
- システムプロンプトとして明文化(例:「医療レポートとして回答してください」)
🔻 落とし穴⑦:評価指標が曖昧で改善が進まない
● 症状
- 「なんとなく良くなった」「体感で良さそう」
- どこがボトルネックか分からない
● 原因
- RetrieverとGeneratorを分離して評価していない
- 人手評価しかなく、再現性がない
✅ 対策
- Retriever単体の評価:Recall@k、Precision@k、MRR
- Generator単体の評価:BLEU/ROUGEだけでなく、Factual Consistency評価(GPT Judgeなど)
- LangChainのtracing + evaluatorを活用すると自動評価が可能
🔻 落とし穴⑧:ユーザーの再質問に対応できない(非会話型)
● 症状
- 「さっきの件だけど?」に対応できない
- コンテキストの継続性がない
● 原因
- Session Contextが管理されていない
- 前回の履歴をプロンプトに渡していない
✅ 対策
- Conversational RAG構成:チャット履歴をプロンプトに反映
- 「履歴+検索結果」の構造を作る(→ LangGraphなどが得意)
🔻 落とし穴⑨:自社データに特化しているのに「現場が使わない」
● 症状
- 精度は高いが、UIも使い勝手も悪く定着しない
● 原因
- 開発者目線で作られ、業務フローに組み込まれていない
- インプット形式・出力形式が現場と合っていない
✅ 対策
- 現場ヒアリング+MVPで早期検証
- 出力をPDF、Excel、Wordなど現場の形式に変換
- UIに「引用元の表示」「再検索」「フィードバック」機能を実装
✅ まとめ:RAGの真価は“設計と検証”に宿る
RAGは「やれば動く」技術ですが、プロフェッショナルとしては「なぜ動くか」「なぜうまくいかないか」を理解する力が必要です。
設計 → 実装 → 評価 →改善
このPDCAを高い粒度で回せるチーム・エンジニアこそが、RAGを武器に現場課題を本質的に解決できます。
次回は、「LangGraphを用いた会話型RAGの設計と実装」についてお届けします!
X(旧Twitter)やコメント欄での感想・質問も歓迎です。
この内容はPDF・スライド資料化も可能です。研修資料などにも活用したい方は、お気軽にお声がけください!
Discussion