言葉が組織をコードする - 組織を捉えるメタファーの歴史
はじめに
最近「勝ち筋」という表現をよく目にするな、とふと感じました。
言葉ひとつですが、例えば「戦略」「シナリオ」といった類似の表現ではなくその言葉を選ぶ必然性を考えてみると、組織内で使われる言葉は組織にどう影響を与えるのか、ふと気になりました。
気になって、メタファー論を調べる中で出会ったガレス・モーガン『組織のイメージ (Images of Organization, 1986)』を元に組織で使われるメタファーについて整理してみました。
メタファーとは
モーガンが繰り返し言うのは、私たちが組織について語るとき、自覚しないまま何らかのメタファー(ある対象を本来異なる文脈の言葉で表現する技法)で対象を切り取っている、ということ。
そしてそのメタファーはレンズのように働き、「何が見え、何が見えなくなるか」まで決めてしまう。これがこの本の核です。
例:
- 「組織は機械だ」と語る
- → 「どこが非効率か」「どの歯車が合っていないか」が問題になる
- 「組織は生命体だ」と語る
- → 「どの環境に適応できていないか」が問題になる
同じ組織の現象が、メタファー次第でまったく別の問題として立ち上がってくることがわかります。
選んだメタファー次第で、私たちがどこを見て何を見ないかまで無意識に決まってしまうということです。
具体例として、ビジネスで何気なく使っている言葉の多くは、軍事や戦争に語源を持っています。[1]
- 「戦略(strategy)」: 古代ギリシャ語の strategos(将軍)
- 「キャンペーン」: ラテン語系 campania(開けた土地・野原 → 戦闘の場)
- 「タスクフォース」: 米軍由来で「機動部隊(特殊任務を持つ特別編成)」の意
- 「ロジスティクス」: 元来は軍隊の補給・兵站を指す軍事用語
チームの「目標」、事業の「戦略」、「勝ち筋」など、日常的に口にしている言葉も、メタファーの目で見直すと、組織に持ち込んでいる「見方」が違って見えてきます。
とはいえ自分自身、この補助線で組織を読み解けているわけではありません。
それでも、誰かが「戦略」ではなく「ストーリー」と言ったり、「OKR」を「目標」と置き換えたりした瞬間に、表現の選び方が気になることが少し増えた気がします。
組織メタファーの歴史と分類
では、組織を捉えるメタファーには具体的にどんな種類があるのでしょうか。
組織論の歴史を辿ると、それぞれの時代に支配的なメタファーが交代してきたことが見えてきます。
モーガンはそれらを整理し、4つの視点を加えて計8つに分類しました。まずは歴史の流れに沿って4つを見て、その後にモーガンが加えた4つを見ていきます。
① 機械としての組織 (Organizations as Machines)
組織を、部品が決められた役割を果たすことで全体が稼働する機械として捉える視点。19世紀の産業革命とともに、大量の労働者を一つの目的に協調させる必要から登場し、現代に続くマネジメント理論の原型を生みました。
「どこが非効率か」「どの歯車がかみ合っていないか」が中心の問いになる一方、人間の学習・創造性・環境変化への適応は視野の外に追いやられます。
なお、冒頭で挙げた軍事的な語彙も、モーガンはこの機械的メタファーに分類しています。
- 代表的理論: 科学的管理法、管理原則、官僚制論
- 語彙: オペレーション、プロセス、スループット、フロー、効率、標準化
② 生命体としての組織 (Organizations as Organisms)
組織を、環境と相互作用しながら生存・適応する生命体として捉える視点。戦後(1950〜70年代)、経営環境が複雑化し、同じ組織設計でも業種や環境によって結果が大きく異なるという観察から登場しました。
コンティンジェンシー理論が打ち立てた「最善の組織形態は一つではなく、環境によって異なる」という命題は、機械的メタファーの普遍性を相対化します。一方で、組織内の権力・利害の対立、意味や象徴の役割は、このレンズからは見えにくくなります。
このメタファーで自分の組織を見ると、「適応」は中立的に響くけれど組織の中身まで変える力があるな、という気付きがあります。
- 代表的理論: コンティンジェンシー理論(環境に応じて最適な組織形態は変わる)
- 語彙: エコシステム、ライフサイクル、適応、進化、組織の健康
③ 脳としての組織 (Organizations as Brains)
組織を、情報処理・学習・自己組織化を行う脳として捉える視点。1970〜80年代、情報技術の登場と知識労働の台頭、サイバネティクス(誤差を検知し自己修正するシステム)の発展を背景に、組織が自らの前提を問い直す能力に焦点が当たりました。
ただし、学習を阻む権力構造や「防衛的ルーティン」(都合の悪い情報を集合的に見ないようにする力学)は、このレンズだけでは捉えにくくなります。
個人的には、学習=脳という単一中枢の見方より、思考は身体や環境にも分散しているという方が納得感があり、「思考する組織」のように言い換えた方が腑に落ちる気がします。
- 代表的理論: ダブルループ学習、『学習する組織』(1990)
- 語彙: ラーニング・オーガニゼーション、ダブルループ、フィードバック、自己組織化
④ 文化としての組織 (Organizations as Cultures)
組織を、共有された意味・価値・儀礼・物語の体系として捉える視点。1980年代の日本企業の急成長を受けて「なぜ同じ組織設計や技術を持っていても、国・企業ごとに違う結果が出るのか」という問いから前景化しました。
暗黙の前提や儀礼の力が見えるようになる一方、文化が権力によって意図的に管理・形成されている側面は、このレンズからは見えにくくなります。
普段使う「ビジョン」「バリュー」がこのメタファーの系譜だと意識していなかったので、語彙の出自が見える瞬間として面白かったです。
- 代表的理論: 組織文化論、『エクセレント・カンパニー』(1982)
- 語彙: カルチャー、バリュー、パーパス、シェアードバリュー、儀礼、ナラティブ
モーガンによる統合(1986)と追加された4つのメタファー
上記4つの歴史的潮流に加え、モーガンは哲学や心理学、社会学を援用して4つのメタファーを追加しました。これらは組織を別の角度から見るための補完的な視点です。
⑤ 政治システムとしての組織 (Organizations as Political Systems)
組織を、利害・権力・連合・対立が常に作動する政治体として捉える視点。意思決定はしばしば合理性ではなく交渉やパワーゲームの結果になります。
「なぜ公式の議論の外で物事が決まるのか」「誰が誰のために意思決定しているのか」を問えるようになる一方、すべてを政治化して捉えると、信頼・協働や誠実な動機が過小評価されます。
組織を率直に見ようとするほど避けて通れない視点です。「合理性だけで決まっているわけではない」という前提を置くと、観察の解像度が変わる気がします。
- 語彙: ステークホルダー、コアリション、パワーバランス、ロビイング、派閥
⑥ 心的牢獄としての組織 (Organizations as Psychic Prisons)
組織を、メンバー自身が作り出した思考パターンに囚われた心的牢獄として捉える視点です。
「これまでうまくいった見方」に縛られて、本当はおかしいと感じている人がいても変えられなくなる、という現象を説明するレンズです。
この「変わらなさ」を、モーガンは単なる惰性や非合理ではなく、「変わること=自分が崩れること」というアイデンティティへの脅威に対して無意識的に防衛してしまうからだ、と説明しています。
個人的には、構造や権力の問題まで個人の心理に還元してしまうと矮小化されかねない点には注意したいなと思いました。他の視点と併用するとバランスが取れそうです。
- 語彙: グループシンク、認知トラップ、ブラインドスポット、コンフォートゾーン
⑦ 流動態としての組織 (Organizations as Flux and Transformation)
組織を、固定した実体ではなく絶えず生成・変化するプロセスとして捉える視点です(ヘラクレイトスの万物流転の哲学が出発点)
変化を「降りかかる外力」ではなく「システムが自己産出する運動」と転回して捉え直すことで、変化に対処するのではなく変化の先手を打つ視点が生まれます。
個人的には、組織の流動的な側面をポジティブに捉え直すのに有効そうだと感じます。
- 語彙: 自己組織化、創発、アトラクター、ダイナミクス、エッジ・オブ・カオス
⑧ 支配装置としての組織 (Organizations as Instruments of Domination)
⑤が組織内部の権力関係を扱うのに対し、⑧は組織が外側(労働者・地域・自然)に何をしているかを批判的に見るレンズです。
一見合理的な経営判断が、別の立場から見ると搾取になってしまう、ということが起こります。例えば利益率を上げるための判断が従業員の健康をすり減らしたり、リスク分散のための事業売却が地域の暮らしを立ち行かなくさせたり。
モーガンはこれを「合理性の二重性」と呼んで、組織が無自覚に支配の装置として作動してしまう構造を批判的に描き出します。
- 語彙: 搾取、疎外、労働の商品化
モーガンが変えた問い
モーガンの『組織のイメージ』がブレイクスルーだったのはメタファーは「一つが正しい」のではなく「それぞれが洞察を与え、それぞれが盲点を生む」という枠組みを示したことです。
これによって、組織マネジメント論が従来の「どのメタファーが正しいか?」から「今どのメタファーで見ているか、それによって何が見えなくなっているか?」へと開かれました。
軍事的メタファーの強さと、対抗メタファーの系譜
ここまで8つを並べてきましたが、現実の組織言説では、軍事的・機械的メタファーは他に比べて圧倒的な存在感を持っています。
近代的な大規模組織は軍隊を雛形に発展してきた側面もありますし、さらに勝ち/負け・味方/敵といった構図を一瞬で立ち上げる強さもあって、複雑な状況を単純化したい場面にフィットしやすい、と整理できそうです。
それに対して、20世紀後半から国際的に対抗メタファーを意識的に提案する系譜が形成されてきました。
ジャズ・即興演奏メタファー[2]、会話メタファー[3]、演劇メタファー[4]など。いずれも、指揮統制ではなく相互応答、設計と最適化ではなく育成、という構図でモーガンの8分類を補完しようとする試みです。モーガン自身も本書のなかで「この一覧はまだ続く」と書いており、8つは完結した分類ではなく開いた枠組みとして提示されています。
並行して、1990〜2010年代には学習する組織 (1990)、心理的安全性 (1999/2018)、ティール組織 (2014) など、より実務寄りの理論も広まりました。出自は脳メタファーや生命体メタファーで異なりますが、いずれもモーガンの8分類の延長線上にある現代的な展開として読めます。
こうした国際的な系譜のなかに、近年の日本語圏の動きも位置づけられるかもしれません。
安斎勇樹の「冒険的世界観」、宇田川元一の対話・ナラティヴ論、政策レベルで進む人的資本経営など、軍事的・統制型から離れる試みが2020年代に複数の系統で同時多発しています[5]。
「使われる」から「意識して使う」へ
今、自分の組織ではどの世界観のメタファーがよく使われているでしょうか。
「戦略」「KPI」「必達」「ターゲット」を口にするたびに「あ、いま軍事的世界観だな」と自覚している人は、たぶん多くないと思います。
意識しないかぎり、使っている言葉のメタファーがそのまま組織のデフォルトOSとして作動してしまう。
逆に、今のメタファーを言語化できれば、見えていない死角を指摘できるようになります。
使い分けの場面
たとえば「Q4は追い込みだ。戦略を実行する」と宣言するのは、機械的メタファーの有効な使い方といえます。目標・期限・役割分担が明確な実行フェーズには、集中力と整合性をもたらします。
一方、「来期の方向性を探ろう」という場面で同じ語彙を使ったらどうでしょうか。議論の進み方が変わってくるかもと思います。
「KPIを達成する」フレームでは「いつまでに、誰が、どの数字を達成するか」という実行モードの問いが自然と立ち上がり、本来は仮説を広げて試したい段階のはずが、結論を出す方向に引き寄せられていく。
「戦略会議」の冒頭でこうした語彙が並ぶと、本来探索したい問いが「今期の作戦」に押し込まれてしまう可能性があります。
意識して使い分けるとは、「今週は実行モード、来月は探索モード」と明示的に切り替えること。
同じ「戦略会議」でも、参加者が「結論を出す」モードで臨むか「問いを立てる」モードで臨むかは、冒頭の一言で変わってきます。
組織のOSにする
ただ、個人が意識するだけでは組織の語彙は変わりません。問題はメタファーの混在そのものではなく、「どのメタファーに重みを置くか」が暗黙のままになっていることです。
組織のアイデンティティとしては生命体・流動態系のメタファーを採用し、軍事的語彙も場面に応じて意識的に使う。その線引きを言語化して、組織として合意していく。
「誰が選ぶか」自体が権力の問題なので、リーダーの宣言だけでなくメンバーと合意の手続きを踏むことが重要になります。
そしてそれは、語彙を入れ替えるだけでは効果がありません。
例えば「人的資源」から「人的資本」への転換を掲げるのであれば、実際の会議の進め方・評価制度・意思決定のプロセスまで一貫性を持って連動させていく必要があります。
言葉と実態を泥臭く一致させていくプロセスがあって初めて、メタファーの切り替えが組織のOSとして機能し始めます。
まずは、今どのメタファーに重みが置かれているか気付くこと。
そこで何が見えなくなっているかが分かれば、組織に新しい選択肢が一つ増やせるのではと思います。
おわりに
最初に挙げた「勝ち筋」も、よく考えれば将棋・囲碁由来のゲームメタファーですが、ビジネスに転用されると「勝ち」→軍事的世界観のニュアンスが付いてくるようにも感じます。
誰かが会議で「勝ち筋を決める」と口にしたとき、組織は今どのモードに入っているのか。
次の一手を読んでいるのか、敵を制しようとしているのか。
そんな小さな観察から、組織の見え方は少し変わってくるかもしれません。
-
カール・ワイク "Improvisation as a Mindset for Organizational Analysis" (1998)、フランク・バレット『Yes to the Mess』(2012) など。 ↩︎
-
パトリシア・ショー『Changing Conversations in Organizations』(2002)。 ↩︎
-
ゴッフマン、チャルニアウスカらの系譜。 ↩︎
-
安斎勇樹『冒険する組織のつくりかた』(2024)、宇田川元一『他者と働く』(2019)・『企業変革のジレンマ』(2024)、経済産業省「人材版伊藤レポート」(2020/2022)。一方で OKR・データドリブン人事のような測定強化型の動きも並走している。 ↩︎
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