4-02 AIで仕事が「奪われる」「奪われない」はその人の取り組み成果で決まる
AIが人間の仕事を奪う——AIの未来を語る上で必ず出てくるテーマです。
デジタル化において、「仕事を奪う」という話と「仕事を楽にする」という話は表裏一体であり、本質的には同じです。今回はあえて「AIで仕事を奪われるのか」という視点を主軸に書いていきます。
「仕事がブルーかホワイトか」からもう一歩踏み込んで考えよう
AIによって仕事が奪われるという予想は以前から盛んに議論されていました。10年ほど前は、仕事を「ブルーカラー」「ホワイトカラー」と分けたとき、ブルーカラー的仕事が奪われるといわれていました。当時はディープラーニングが注目されていた頃でした。ディープラーニングはロボットの多関節運動や物品の輸送経路の最適化への活用が期待され、おもに物流や組立作業など、現場に近い作業が自動化されると予測されていたのです。
しかし、ChatGPTをはじめとする生成AIの登場により状況は大きく変わりました。文書やテキストの作成が自動化できるようになり、報告書や手続き文書の作成、事業の分析や計画立案、あるいはマネジメント業務まで、AIができる範囲は急速に広がっています。10年前の予想に反して、ホワイトカラー的仕事の方が、むしろAIによって代替される可能性が高まったのです。では、ホワイトカラーの仕事が全て奪われてしまうのかというと、そうとも限りません。
例として、ある企業がメールマガジンを運用しているケースを考えてみましょう。原稿はマーケティング部が作成し、業界の最新の動向やキャンペーン情報、担当者による自由なコンテンツを週に1回、登録者に送付しています。内容は登録者にもおおむね好評であるものの、マーケティング部では担当者の負担を軽減のため、AIを使って文章を生成できないか検討することにしました。
メールマガジンの文面だけなら、今のAIでも高い品質の文章を作成することはできます。コンテンツを考えさせることも可能でしょう。しかし、もし担当者が毎週考えていた「自由なコンテンツ」の中に、「担当者自身の近況報告」のような雑談や、「プライベートのできごと」のような日記的な要素が含まれている場合、この部分をAIに置き換えることはなかなかできません。AIが作成した文章に問題がなくても、手書き文で構成されていたこれまでの内容との違いを完全に埋めることは不可能です。そして、そのような変化にがっかりしない読者がいないとも限りません。Xでの企業の公式アカウントのフォロー数などをみても、そのような性質のコンテンツには一定の需要はあります。つまり、AIによって業務は効率化されても、メールマガジンの本来の目的である「顧客との関係強化」という点ではAIへの移行に失敗する可能性があるのです。
もちろん、作業負担を軽減する余地はあります。日記のアイデアをAIに出させたり、情報収集の部分だけを自動化したりするなど選択肢は複数考えられますが、最終的な判断を行うには、効果測定が必要になります。この場合、メールの開封率、メールマガジンの登録/解除率、あるいはメール送信直後の問い合わせ数などが考えられます。デジタル化によって大事なのは、単にデジタル化によって担当者の作業負担が軽減したという事実だけではなく、業務全体への影響、顧客に与える影響といった、本人以外に与える影響をできる限り考えることです。いずれにせよ、人間らしさや個性が求められる仕事は、「ホワイトカラー」であっても、AIになかなか奪われにくいといえます。
まとめ
繰り返しになりますが、仕事を奪われるか奪われないか、という問題は、最終的にはどうすれば効果的なデジタル化が実現するか? という問題に帰結します。今後このままAIが普及すると、メールマガジンのような顧客との関係強化の作業は自動化が当たり前になり、メールマガジンそのものがなくなってしまうかもしれません。しかし、いずれその時がきたとしても、過去に人力でメールマガジンを運用していたノウハウ、またデジタル化への移行検証のなかで自社の強みを把握できていれば、たとえ別媒体を使用することになっても存在感を維持し続けられるのと思います。このような考え方は、マーケティングに限らず、デザインや設計、各種製造工程、検査業務をはじめ、既存の業務にAIを導入するあらゆる場面で効果的だと思います。皆さんも、自分の仕事あるいは自分のビジネスの強みを見直してみてはいかがでしょうか。
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