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【在野研究】非アカデミアでin silico創薬論文執筆までの道のり

に公開
2026/01/05

こんにちは、

「誰もがPCだけで、論文執筆、創薬できる未来を目指す亅

を目標に活動している

しずく(@shizuku50312776)です。
https://x.com/shizuku50312776

Wet研究者がin silico創薬をもっとできるように慣れば、
自分の思い入れのあるタンパク質で、創薬すれば新しい作用機序など画期的な薬がもっと沢山生まれるのではないか
と密かに思っています。

その一例として、この度、在野研究(所属なしの個人研究)として執筆したIn silico創薬の論文が、MDPIの『Molecules』(IF=4.6, 2024年)にアクセプトされ、出版されました!

Identification of KKL-35 as a Novel Carnosine Dipeptidase 2 (CNDP2) Inhibitor by In Silico Screening

https://www.mdpi.com/1420-3049/30/22/4370

内容は論文を見ていただくとして、今回この論文を書いた経緯をお話しします。

「スパコンも大学のラボもない環境で、どうやって創薬研究を?」と驚かれるかもしれません。
この記事では、私がどのようにして自宅のPCで論文投稿に至ったのか、その経緯をまとめたいと思います。

これから

  • In silico創薬を始めたい方
  • 論文博士を目指す方
  • 企業に属しながら「在野研究」を志す方

などの参考になれば幸いです。


1. 元々は「Wet」一筋。そして味わった挫折

まずは自己紹介をさせてください。
私の専門は元々、実験室でピペットを握る「Wet」のペプチド創薬でした。大学は薬学部で天然物の合成を専門とし、大学院は理学系研究科化学専攻に進み、in vitroペプチドスクリーニングによる環状ペプチドの新規化合物取得を研究テーマにしていました。

当時の私の夢は、シンプルに「製薬会社で創薬をすること」。
しかし、現実は甘くありませんでした。博士課程での就職活動では製薬会社にご縁がなく、

「製薬会社で創薬をする」という長年の夢はここで一度、潰えてしまいました。

それでも、創薬への情熱は冷めませんでした。何よりも創薬が好きだったのです。

「ポスドクとして創薬研究を続けようか?」とも考えたとき、次のテーマは
「今までWetでやっていたスクリーニングを、プログラミングを使って、In silico(コンピューター上)でできないか?」
というアイデアでした。(当時もin silico創薬は流行っていたので、気になってはいました)

しかし、ここでも壁にぶつかります。私は過去にプログラミング学習に挫折した経験があり(大学院の授業でPythonを学んだのですが、for文あたりで挫折)、「独学でプログラミングは無理だ」という強いコンプレックスを持っていたのです。

博士やポスドクは誰かに手取り足取り教わる場所ではなく、自走力が求められます。今の自分のスキルではとうてい太刀打ちできないことは明白でした。

2. 人生を賭けて、IT業界へ

そこで私が選んだ道は、「一度IT業界に就職してスキルを身につけ、その後に研究に戻る」というキャリア戦略でした。

具体的に選んだのは、製造業のITベンチャー企業です。

当時、日本でIT活用が最も進んでいるのは「金融」と「製造」だと考えていました。製薬もかなり広い範囲ではモノづくりですので、製造業なら少しは似た部分があるだろうというかなり浅はかな読みがありました。

博士で論理的思考力を磨いたつもりが、こういう将来の選択には全く論理が飛躍している考えをしてしまいました。

また、世間で「創薬DX」「製薬DX」という言葉が流行り始めていたので、「そもそもDXとは何か?」を学ぶためにも、現場で製造業DXを行っている会社に決めました。

今振り返ると、考え方もやり方も全く違う異分野に飛び込むなんて、我ながら無謀なことをしたなと思います。(しかし新卒カードを異分野のスキルを学ぶために使ったのには全く後悔はありません。)

入社後の研修では、自分より遥かにプログラミングができる学部生や修士の学生たちに混ざり、必死に基礎を学び直しました。なんとかコードが書けるようになり、その後の実務で「他人が書いたコードを読み解き、適切な箇所を修正する」という経験を積むうちに、あれほど苦手だったプログラミングに対して「なんとなくイケるかも」という自信が芽生え始めました。

新卒でプログラミングの知識もほとんどなかった私が、基礎から学び、ある程度実務として通用するレベルまで成長できたのは、最初にお世話になった会社での経験のおかげです。心から感謝しております。

在籍期間は数年と短く、十分に会社へ貢献できなかったことは今でも心残りですが、その期間に得た学びや姿勢は、現在の研究・仕事の基盤となっています。
今後、製薬会社をはじめとする研究の現場でさらに力をつけ、何らかの形でご恩をお返しできるようしたいと思っています。

3. 「LabCode」との出会い

IT企業で働く前に、将来のIn silico創薬のために背景知識を学ぼうとしていた時期に出会ったのが、アカデミアの研究を支援するWebメディア「LabCode」でした。

https://labo-code.com/

過去に大学院合格体験記(現在は廃止)などを書いていた経験から、

「ブログ執筆は最高の学習アウトプットになる」こと、

しかし「仕組みがないと継続は難しい」こと

を痛感していた私にとって、LabCodeのシステムは画期的でした。

  • 記事執筆への報酬(フロー型)
  • 記事をまとめた技術書販売への報酬(ストック型)
  • 自分自身が勉強しながら発信できる

まさに一石三鳥。「これだ!」と思い、面談後すぐに入ることを決め、執筆を開始しました。

最初の頃はin silico創薬のWebアプリケーションの紹介記事などが多かったのですが、

ある程度会社でプログラミングに慣れてきて、「自分である程度コーディングする記事」に挑戦しました。

【機械学習】機械学習を用いたin silico screening【AI創薬】

https://labo-code.com/bioinformatics/aidrugdiscovery-chembldata/

https://labo-code.com/bioinformatics/aidrugdiscovery-pdbdata/

https://labo-code.com/bioinformatics/aidrugdiscovery-dataformating/

https://labo-code.com/bioinformatics/create-model/

https://labo-code.com/bioinformatics/aidrugdiscovery-insilicoscreening/

正直に言えば、上記ののAI創薬記事も半分以上が先人のコードの模倣でした。しかし、動かないエラーをChatGPTに投げ、修正しながら完走できた経験は、「自力でここまでできた」という大きな自信になりました。

4. 自宅PCで「MD」が動いた日

記事執筆を通じて、In silico創薬の「探索(スクリーニング)」パートはできるようになりました。次に気になったのが、分子動力学シミュレーション(MD)です。

「MDなんてスパコンがないと無理に決まってる」

そう思い込んでいたのですが、YouTubeやUdemyで情報を集めると、どうやらそうでもないらしい。半信半疑で自分のPCで試してみると――動いたのです。

当時見ていた教材はこちら。

https://zenn.dev/labcode/articles/51186516c1bfe0

自分のPCの中で、分子が動いている。その画面を見たときの感動は忘れられません。
(PCはGPU付きのWindows)

これで、「探索」から「MD評価」まで、創薬研究に必要な一連の手法が自宅で完結することになりました。

ここまでくると、「なんとか論文にできないかな」と思うようになりました。調べてみると、実際にIn silico創薬の分野では、PCだけで完結している論文がいくつも存在していました。

https://zenn.dev/labcode/books/1e05d05bf8f393/viewer/3z4dau-2

今まで取得したin silicoスクリーニングやMDがベースなので、後もう少しで論文の手法をマスターできるのでは?と考えました。

5. In silico創薬論文のフォロー

実際、In silicoスクリーニングとMDだけではなく、他にも様々なツールが必要でした。それらも勉強し、記事や技術書としてまとめました。
論文では各種ツールやパラメータの設定については、似た論文を参考にしながら行いました。
また技術書として、販売している分、商用利用できないツールは商用利用可能なツールに代替するなど工夫を行いました。
(この二つの部分が結構大変でした)

それで2025/1/9に

【完全版】In silico創薬実践書 〜おうち創薬で論文を書こう〜

https://zenn.dev/labcode/books/1e05d05bf8f393

を出版することができました。

きちんとin silico創薬論文の一連の手法が使えるようになったのは、大きな自信となり、また私自身もin silico創薬論文を書きたいと思うようになりました。

6. 停滞からの脱却と「教えてください企画」

しかし、実際に研究を始めてみると、一人での研究活動はなかなか続きませんでした。

モチベーションの維持が正直難しかったです。
博士の時は学位がかかっていたので、なんとかできましたが、やはり一人では研究は難しかったですね。
そこで始めたのが、In silico創薬教えてください企画です。

https://x.com/shizuku50312776/status/1885677365076074867?s=20

In silico創薬に興味はあるけれど、プログラミングのハードルが高く、なかなか一歩を踏み出せない方が多いことを感じていたので、需要はある程度ありそうだと予測はしていました。

また

  • 自分のモチベーションを上げたい。
  • 標的タンパク質は、受講者の一番興味あるタンパク質に設定し、一緒に創薬の面白さを体験していただいて、
  • そしてあわよくば、もし研究設備あるならWetでのアッセイもしてほしい

という若干期待もしながら、この教えてください企画を始めました。

幸運なことに、この企画で、冒頭でご紹介させていただいた信頼できる共同研究者さまと出会い、
in silico screeningとMDを経て、非常に興味深い化合物を見つけることができました。

7. 懐疑心から確信へ。そして論文へ

共同研究の中で、In silicoスクリーニングで見つけた化合物の活性評価を行っていただきました。

Wet出身の私としては、正直なところ
「PCで見つけたものが本当に効くのか?、所詮in silicoでの予測でしょ」
とかなり懐疑的でした。

しかし、結果は「活性あり」との報告でした。

実際の結果を見て、本当に驚いたのことを今でも覚えています。
In silico創薬の実用性、ポテンシャルの高さに感動しました。

その後、ArXivへの投稿を経て、今回の査読付き論文への投稿に至りました。

本研究の論文投稿は、基本的には既存の論文と同様の流れに沿って進めました。近年発達している解析・可視化・コーディング支援などの各種ツールを活用することで、結果として約1か月程度で初稿をまとめることができました。
査読プロセスでは、追加実験や図の修正など多くの対応が必要でしたが、特に解析やコーディングに関する部分では、これまでに培ってきたスキルやツールの助けもあり、無事にPublishまで辿り着くことができました。

  • 企画開始:今年3月

  • 論文化:開始から約半年後

  • In silico 分野の学習開始から:約2年半

このスピード感で研究成果を形にできたのは、研究ツールの進化だけでなく、共同研究者の先生方による的確な助言、実験・議論へのご貢献があってこそだと感じています。

改めて心より感謝申し上げます。

8. モチベーション維持=マネタイズ

この2年半、特に意識したのが「モチベーションの管理」です。
在野研究は趣味の延長とはいえ、PCや生成AIのサブスクなど、確実にかなりのお金がかかります。

この点でも、LabCodeさんの手助けは大きかったです。記事執筆の報酬と技術書購入により「定期的にお金が入ってくる」という状況は精神衛生上非常によく、継続的に勉強して記事を書く意欲につながりました。また、一年に一度オフライン技術書典

https://techbookfest.org/

での交流や、技術書を買ってくださった方々の励ましの言葉も大きな支えになりました。

9. 最後に

先日、徳島で開催されたメディシナルケミストリー学会に参加しました。
そこで改めて、

  • 製薬企業が有する膨大な化合物ライブラリ
  • 自在な構造変換を可能にする圧倒的な合成力
  • 化合物の結合様式を正確に捉えるための結晶化の重要性

を強く実感しました。在野研究との間にある現実的な差を、強く突きつけられる体験でした。

論文化までのスピードを考えると、in silico で見出した化合物を迅速に評価するためには、商用入手可能な化合物に依存せざるを得ません。しかし、スクリーニングで活性を示す化合物が得られたとしても、さらなる活性向上が期待される誘導体が必ずしも市販されているとは限らず、また分子ドッキングの予測精度にも限界があると感じています。

最終的に活性を高め、創薬として前進させるためには、柔軟な構造最適化を実現できる高度な合成力と、それを支える優秀なメディシナルケミストおよび実験基盤、さらに結晶構造を確実に取得し、分子間相互作用を正しく理解した上で研究を進めることが不可欠であると、改めて認識しました。

「もっとin silico創薬技術を身に付けて、人生のどこかで製薬会社に入れたらな」

と改めて思いました。

かと言って、在野研究が決して無意味だとは思っていません。
誰も注目していない標的に対して、制約なく自由にアプローチできることこそが、在野研究の大きな魅力だと感じています。

冒頭の話に立ち返ると、
Wet研究者が長年向き合ってきたタンパク質には、その研究者だけが体感的に理解している作用機序や挙動があり、それを起点にすることで、非常に独創的で面白い研究へと発展する可能性がある
と考えています。

この自由度は標的選択に限らず、モダリティの選択にも及びます。in silicoでは低分子創薬が主流である一方で、
まだ十分に開拓されていない新しいモダリティに挑戦できるのも、在野研究(アカデミアも)
ならではの強みだと思います。

今回の論文では低分子を扱いましたが、私は来年から、以前から取り組みたいと考えていたペプチドの in silico 創薬にようやく本格的に挑戦する予定です。in silico でのペプチドスクリーニングからアッセイ設計までを一貫して扱った研究例はまだ多くなく、手探りの部分も多いと思います。それでも、この未開拓領域に挑戦できること自体が在野研究の醍醐味であり、試行錯誤を重ねながら前に進んでいきたいと考えています。

最後まで読んでくださり、誠にありがとうございました。
同じような境遇の皆様の少しでも参考になれると幸いです。

また在野研究の弱々な研究者ですので、製薬企業や素晴らしいアカデミアの強々な研究者の皆様、火力強めのコメントはご容赦くださいね。

10. 宣伝など

私の所属しているLabCodeではライターを募集しております。

もし勉強しながら、ブログや技術書執筆してみたい方はお気軽にご連絡ください。

実際に研究の現場で使える技術を発信してくださるライターを募集しています。

特に粒子・流体シミュレーション、CAE / FEM 解析など、

興味ある方は以下からご応募ください。

https://shimmer-book-f30.notion.site/196825541a4d800fbe82ec70cbcb170a

また

  • In silico創薬に興味がある方
  • これから在野研究をしたい方
  • In silico創薬を身につけたい方
  • 共同研究したい方
  • In silico創薬記事を書きたい方

など

もし興味がありましたら、X(@shizuku50312776)
https://x.com/shizuku50312776
までお気軽にご連絡ください。時間が限られますが、なんとかお助けできたらと思います。

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