主要AIモデル比較: Gemini 2.x系とGPT-4.1/o3/o4-miniのコスト・性能・ユースケース分析
主要AIモデル比較: Gemini 2.x系とGPT-4.1/o3/o4-miniの実用ガイド
昨今、急速に進化するAI技術のランドスケープにおいて、大規模言語モデル(LLM)の選定は、アプリケーションの成功を左右する重要な意思決定となっています。本記事では、GoogleのGemini 2.0/2.5シリーズとOpenAIのGPT-4.1、o3、o4-miniという主要なLLM群について、APIコスト、技術的性能、および多様なユースケースを詳細に比較分析します。この比較を通じて、各モデルの強みと弱みを明確にし、読者がプロジェクトに最適なLLMを選択するための判断材料を提供します。
モデル別API料金体系 (USD/1Mトークン)
以下に、各プロバイダーの主要モデルのAPI料金をまとめます。価格は100万トークンあたりのUSDで表示されており、特に記載がない限りテキスト入出力の料金です。
モデル名 | プロバイダー | 入力トークン価格 (USD/1M) | キャッシュ入力 (USD/1M) | 出力トークン価格 (USD/1M) | 画像入力 (USD/1Mトークンまたは画像あたり) | 音声入力 (USD/1Mトークンまたは分あたり) | 特記事項 | 最終更新日/情報源 |
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Gemini 2.5 Pro Preview | $1.25 (<=200k), $2.50 (>200k) | N/A | $10.00 (<=200k), $15.00 (>200k) | $1.25 (テキスト/画像/ビデオ) | $1.00 | 思考トークン込み、コンテキストキャッシュ別料金 | 2025-05-14 | |
Gemini 2.5 Flash Preview | $0.15 (テキスト/画像/ビデオ) | N/A | $0.60 (非思考), $3.50 (思考) | $0.15 (テキスト/画像/ビデオ) | $1.00 | 思考モードの有無で出力価格変動 | 2025-05-14 | |
Gemini 2.0 Flash | $0.10 (テキスト/画像/ビデオ) | N/A | $0.40 | $0.10 (テキスト/画像/ビデオ), $0.039/画像 (生成) | $0.70 | 画像生成料金あり | 2025-05-14 | |
Gemini 1.5 Pro | $1.25 (<=128k), $2.50 (>128k) | N/A | $5.00 (<=128k), $10.00 (>128k) | $1.25 (テキスト/画像/ビデオ) | $1.00 | コンテキストキャッシュ別料金 | 2025-05-14 | |
Gemini 1.5 Flash | $0.075 (<=128k), $0.15 (>128k) | N/A | $0.30 (<=128k), $0.60 (>128k) | $0.075 (テキスト/画像/ビデオ) | N/A | コンテキストキャッシュ別料金 | 2025-05-14 | |
Gemini 1.5 Flash-8B | $0.0375 (<=128k), $0.075 (>128k) | N/A | $0.15 (<=128k), $0.30 (>128k) | N/A | N/A | Geminiで最も安価なモデル | 2025-05-14 | |
GPT-4.1 | OpenAI | $2.00 | $0.50 | $8.00 | テキスト料金に準拠 | N/A | 知識カットオフ: 2024年6月 | 2025-04-14 |
GPT-4.1 mini | OpenAI | $0.40 | $0.10 | $1.60 | テキスト料金に準拠 | N/A | 知識カットオフ: 2024年6月 | 2025-04-14 |
GPT-4.1 nano | OpenAI | $0.100 | $0.025 | $0.400 | テキスト料金に準拠 | N/A | OpenAIで最も安価なモデル | 2025-04-14 |
GPT-4o | OpenAI | $5.00 | $2.50 | $20.00 | $5.00 (テキスト/画像), $0.01-0.17/画像 (生成) | $40.00 | 知識カットオフ: 2023年10月 | 2025-04-14 |
GPT-4o mini | OpenAI | $0.60 | $0.30 | $2.40 | $0.60 (テキスト/画像) | $10.00 | 知識カットオフ: 2023年10月 | 2025-04-14 |
o3 | OpenAI | $10.00 | $2.50 | $40.00 | テキスト料金に準拠 | N/A | コンテキストウィンドウ: 200kトークン | 2025-04-14 |
o4-mini | OpenAI | $1.100 | $0.275 | $4.400 | テキスト料金に準拠 | N/A | コンテキストウィンドウ: 200kトークン | 2025-04-14 |
注: OpenAIの価格情報については、複数の情報源で異なる数値が提示されているため、OpenAIの公式APIドキュメント 28 の情報を最優先し、その最終更新日を記載しています。
ユースケース別最適モデル選定ガイド
各AIモデルは、その独自の特性に応じて特定のユースケースで優れたパフォーマンスを発揮します。以下では、主要なユースケースカテゴリと、各シナリオに最適なモデルを整理しています。
長文・大規模データ処理
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長大な文書の要約とQ&A
- 推奨: Gemini 1.5/2.5 Pro, GPT-4.1
- 特長: 200万トークン(Geminiは実験的に1000万トークン)のコンテキストウィンドウにより、法律文書、研究論文、書籍全体など、膨大な量のテキストを一度に処理可能
- ユースケース例: 複数の法律文書からの条項分析、長大な技術仕様書の要点抽出、書籍全体からの知識マイニング
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長時間の動画/音声の分析
- 推奨: Gemini 1.5/2.5 Pro
- 特長: 動画やポッドキャストの文字起こしを行い、特定のシーンやトピックに関する質問に回答
- ユースケース例: 長時間会議の要約生成、映像コンテンツからの特定シーン検索、講義動画からの学習ポイント抽出
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大規模なコードベースの分析
- 推奨: Gemini 1.5/2.5 Pro, GPT-4.1
- 特長: 数十万行に及ぶコードベース全体をコンテキストとして処理可能
- ユースケース例: レガシーコードの理解と改善提案、複雑なシステムのアーキテクチャ分析、技術負債の特定
リアルタイム・高速処理
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低レイテンシー・高ボリュームのタスク
- 推奨: Gemini 1.5/2.0/2.5 Flash, GPT-4.1 nano, GPT-4o mini
- 特長: 高速な応答とコスト効率の良さ
- ユースケース例: 大規模チャットアプリケーション、リアルタイム顧客サポート、データストリーム分析
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リアルタイム音声対話・翻訳
- 推奨: GPT-4o
- 特長: 320msという人間の会話に匹敵する応答時間
- ユースケース例: 音声アシスタント、リアルタイム翻訳アプリ、音声ベースのカスタマーサービス
複雑な推論と問題解決
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高度な数学・科学的推論
- 推奨: OpenAI o3, o4-mini
- 特長: AIME 2024/2025で90%以上の高スコア、複雑な数学的問題解決能力
- ユースケース例: 数学教育アプリ、科学的データ分析、複雑な最適化問題
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高度なコーディングと開発支援
- 推奨: GPT-4.1, GPT-4o, o3
- 特長: SWE-benchやHumanEvalで高スコア、コードの差分生成、複雑なアルゴリズム設計
- ユースケース例: コードレビュー自動化、プログラミング教育、複雑なシステム設計支援
マルチモーダル応用
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図表・文書解析
- 推奨: Gemini 1.5 Pro (ChartQA 87.2%, DocVQA 93.1%), o3/o4-mini
- 特長: 複雑な財務文書のテーブル理解、インフォグラフィック解釈
- ユースケース例: 財務レポート分析、科学論文の図表理解、ビジネスインテリジェンス
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マルチモーダル対話・創作
- 推奨: GPT-4o, Gemini 2.5 Pro/Flash
- 特長: テキスト、画像、音声、ビデオの統合的理解と生成
- ユースケース例: マルチメディアコンテンツ制作、インタラクティブ学習ツール、視覚障がい者支援
自律エージェント
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複雑なツール利用と自律タスク実行
- 推奨: OpenAI o3/o4-mini, GPT-4.1
- 特長: ウェブ検索、Pythonコード実行、画像生成、ファイル分析などのツールを自律的に利用
- ユースケース例: データ収集・分析の自動化、マルチステップの業務自動化、情報検索・要約エージェント
画像認識能力の比較考察
画像認識、特に図表や文書の解析能力は、ビジネスインテリジェンスや文書処理において重要な指標です。各モデルの画像理解能力について詳細に考察します。
Geminiモデルの画像認識能力
Geminiシリーズは「ネイティブマルチモーダル」設計を採用しており、画像処理において優れた性能を示しています:
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Gemini 1.5 Pro:
- ChartQAで87.2%、DocVQAで93.1%という高いスコアを記録
- 複雑な財務文書のテーブル理解やインフォグラフィック解釈において特に強み
- オブジェクト検出機能により、画像内のオブジェクトを識別し、バウンディングボックス座標を返却可能
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Gemini 2.5シリーズ:
- 前世代からさらに進化し、オブジェクトのセグメンテーション(輪郭のマスク提供)も実装
- MMMU (Massive Multitask Multimodal Understanding)で79.6%(Pro)、76.7%(Flash)という高スコア
Geminiの画像処理は、特に構造化された図表やビジネス文書の解析において優れており、コストパフォーマンスも考慮すると高い実用性を持ちます。
OpenAIモデルの画像認識能力
OpenAIのモデルも画像認識において独自の強みを持っています:
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OpenAI o3/o4-mini:
- MMMUで82.9%(o3)、81.6%(o4-mini)という最高レベルのスコア
- 「思考の連鎖に画像を直接統合」する能力を持ち、単に画像を見るだけでなく「画像を使って思考」可能
- 回転、ズーム、変換といった画像の操作を推論プロセスの一部として実行
- ぼやけた画像、教科書図、手描きスケッチの解釈も可能
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GPT-4o:
- 図表やダイアグラムの解釈、画像からのテキスト抽出において高い性能
- デスクトップアプリのスクリーンキャプチャ機能を通じた視覚分析が可能
- DALL-Eによる画像生成機能が統合され、分析と創作を組み合わせたワークフローをサポート
画像認識精度の実用的考察
実用的な観点からは、特定のユースケースによってモデル選択が異なります:
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構造化ビジネス文書・図表解析:
- Gemini 1.5 Proは、ChartQAやDocVQAといった具体的な図表・文書理解ベンチマークで高いスコアを記録しており、財務文書やビジネスレポートの分析に特に適しています。
- コスト面でも、Geminiの画像処理はトークン計算が比較的シンプルで予測しやすいという利点があります。
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複雑な視覚的推論:
- OpenAIのo3/o4-miniは、「画像を使って思考する」能力に優れており、手描きスケッチやぼやけた画像からの情報抽出など、より複雑な視覚的推論を必要とするタスクに強みがあります。
- 科学的図表や数学的問題のビジュアル解釈においても高い性能を発揮します。
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トークン計算とコスト効率:
- GPT-4o miniは画像処理において、固定で2833トークンが課金されるため、テキスト処理では安価でも画像処理ではGPT-4oより高くなる場合があります。
- Geminiモデルは画像サイズに応じたより直感的なトークン計算を採用しており、小さな画像であれば258トークンとして計算されます。
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リアルタイム性と用途:
- リアルタイムの画像処理が必要な場合は、GPT-4o(応答時間320ms)やGemini 1.5 Flash(TTFT 0.18s)のような低レイテンシーモデルが適しています。
- バッチ処理や高度な分析では、精度優先でo3やGemini 2.5 Proを選択すべきでしょう。
結論: 画像認識モデル選択の指針
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純粋な文書解析、図表データ抽出:
Gemini 1.5/2.5 Proが最適で、特に構造化されたビジネス文書や図表の解析において優れた性能とコスト効率を提供 -
複雑な視覚的推論、科学/数学の図表理解:
OpenAI o3/o4-miniが推奨され、特に「思考の連鎖に画像を統合」する能力が必要なタスクに適している -
マルチモーダルな創作・対話アプリケーション:
GPT-4oが最適で、画像理解と生成の両方を組み合わせたインタラクティブなアプリケーションに適している
実際のプロジェクトでは、画像処理の性質(構造化vs.非構造化)、リアルタイム性の要件、予算制約を総合的に考慮し、適切なモデルを選択することが重要です。
まとめ
本記事では、GoogleのGemini 2.0/2.5シリーズとOpenAIのGPT-4.1、o3、o4-miniという主要なLLM群について、コスト、性能、およびユースケースの観点から詳細な比較分析を行いました。
各モデルは異なる強みを持っており、使用目的に応じて最適なモデルを選択することが重要です:
- Geminiモデルは広大なコンテキストウィンドウと図表理解に優れ、長文理解や構造化文書の分析に強みを持ちます
- GPT-4.1はコーディングと指示追従に優れ、ソフトウェア開発や自動化ワークフローに最適です
- GPT-4oはリアルタイムマルチモーダル対話において卓越した能力を発揮します
- o3/o4-miniは数学的推論とエージェント機能に特化し、複雑な問題解決に適しています
コスト面では、「mini」や「Flash」モデルが低価格を提供しますが、特定のモダリティ(特にGPT-4o miniの画像処理)ではコスト構造が逆転する可能性もあります。実際のアプリケーション設計においては、具体的なユースケースに基づいたコスト計算を行うことが重要です。
AI技術は急速に進化しており、今後もトークン単価の低下とモデル性能の向上が続くと予想されます。開発者は定期的に各モデルの最新性能とコスト構造を評価し、プロジェクトに最適なAIソリューションを選択し続けることが求められるでしょう。
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