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オンチェーン金融って、結局なんだろう──政府の構想から考える

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はじめに

こんにちは!ブロックチェーン×AI Agentで自律経済圏を創るKomlock labでエンジニアをしている小原(@brto_0224)です。

最近、「オンチェーン金融」という言葉を見かけることが増えました。

ただ、ステーブルコイン、トークン化預金、セキュリティトークン、RWA、DeFiなど、近い言葉を並べることはできても、オンチェーン金融とは何かを一言で説明するのは意外と難しいです。

そんな中、2026年5月19日に自民党デジタル社会推進本部の「次世代AI・オンチェーン金融構想PT」が提言を公表しました。

https://www.taira-m.jp/次世代AI・オンチェーン金融構想PT提言.pdf

これは法律でも政府の閣議決定でもなく、政党のプロジェクトチームによる提言です。それでも、国がオンチェーン金融を何のために進めようとしているのかを知る材料として面白い文書でした。

読む前は、まず預金や決済、証券をオンチェーンに載せるための提言だと思っていました。ところが実際には、その上でAIエージェントが商品を選び、契約し、支払いまで行うところまで将来像に含まれています。金融のオンチェーン化だけでなく、最初からAIが利用することまで考えているのは意外でした。

この記事では、この提言を手がかりに「オンチェーン金融って結局なんだろう」を考えます。

先に結論を書くと

  • オンチェーン金融は、単に金融商品をブロックチェーンへ移すことではない
  • 本質は、お金・資産・契約・取引の証跡を互いに参照でき、条件に応じて自動実行できる状態にすること
  • 政府構想は、暗号資産の普及策というより、決済・融資・商流をつなぐ金融インフラ政策として捉えると分かりやすい
  • 技術だけでなく、現実の権利の保証、取引の取り消し、責任分界、既存金融との接続が普及の鍵になる

想定読者

  • 「オンチェーン金融」という言葉を見かけたが、具体的に何を指すのか分からない人
  • 政府がオンチェーン金融を何のために進めようとしているのか知りたい人
  • ブロックチェーンが既存金融やAIエージェントとどうつながるのか整理したい人

政府は何を作ろうとしているのか

提言の冒頭には、かなり具体的な未来像が書かれています。

  • 冷蔵庫やAIが必要な商品を注文し、支払いまで行う
  • 輸送や通関の状況と国際決済が連動する
  • 部品の納品・検収と同時に、円建てステーブルコインで支払う
  • 納品後、後日代金を受け取る権利(売掛債権)を投資家などに売り、支払日前に現金化する
  • 日々の取引履歴をAIが分析し、融資枠を動的に更新する

一見すると、AIエージェント、貿易DX、決済、融資など別々の話に見えます。しかし、共通しているのは、これまで分断されていた行為をつなぐことです。

提言では、それを次の3つの変化として表現しています。

  • 自動化:条件が満たされたら、人の操作を待たずに決済や契約を実行する
  • 連結化:注文、物流、検収、決済、融資を一つの流れとして扱う
  • 24時間365日化:金融機関や市場の営業時間に依存せず処理する

この構想の中心にあるのは、注文、物流、決済、融資をつなぎ、条件に応じて自動で動かせる金融基盤です。

今の金融は、なぜつながっていないのか

たとえば、ある製造業者が部品を納品した場面を考えます。

現在は、納品、検収、請求書の発行、銀行振込、入金確認が、それぞれ別のシステムで処理されます。売掛金を早く現金化したければ、さらに金融機関へ資料を出し、審査を受ける必要があります。

データはデジタル化されていても、システムの境界を越えるたびに照合や承認が発生します。「請求書の金額」と「実際の入金」が対応しているか、人や別のソフトウェアが確認しているわけです。

オンチェーン金融では、納品の証跡、支払い条件、円建ての決済手段、売掛債権を同じネットワーク上、または相互に検証できるネットワーク上で扱います。

重要なのは、「ブロックチェーンに記録した」という事実ではありません。決済とその原因になった取引を、プログラムが検証して連続的に処理できることです。

オンチェーン金融を構成する3つの層

オンチェーン金融は、次の3層に分けると理解しやすいです。

1. お金をオンチェーンにする

商品や資産だけをトークン化しても、代金の支払いが従来の銀行振込のままでは、最後に分断が残ります。そこで登場するのが、提言で「カレンシー」と呼ばれている決済手段です。

代表的なものは次の3つです。

決済手段 大まかな位置づけ 提言で想定される役割
ステーブルコイン(SC) 法定通貨と価値が連動するデジタルマネー 個人・中小規模の決済、証券の即時決済、国際送金
トークン化預金(TD) 銀行預金をトークンとして扱うもの 大口の企業間決済、銀行の信用創造を伴う資金供給
CBDC 中央銀行が発行するデジタル通貨 特に銀行間の最終決済を支える基盤として検討

提言は、決済手段をどれか一つに統一しようとはしていません。個人決済と法人決済、国内とクロスボーダー、小口と大口では要件が違うため、複数の決済手段を使い分ける構想になっています。

2. 資産をオンチェーンにする

もう一方にあるのが「アセット」です。

株式や債券だけでなく、不動産、売掛債権、国債など、現実世界の権利をトークンとして表現します。いわゆるRWA(Real World Assets)のトークン化です。

資産がオンチェーンになると、保有者や移転履歴を共通の台帳で確認できるだけでなく、決済と資産の受け渡しを同時に行いやすくなります。証券を渡したのに代金が届かない、あるいは代金を払ったのに証券が届かないというリスクを抑えられます。

さらに提言は、トークン化された売掛債権や不動産を担保に、融資までつなげる構想を示しています。

3. 条件をプログラムにする

お金と資産をデジタル化するだけなら、既存のデータベースでもできます。オンチェーン金融らしさが最も現れるのは、スマートコントラクトによるプログラマビリティです。

  • 納品と検収が完了したら支払う
  • 証券の受け渡しと代金決済を同時に行う
  • 給付金を子育てや食料品など特定の用途だけに使えるようにする
  • 売上が入ったら、あらかじめ決めた割合を返済へ回す

こうした「もしXならYを実行する」を、お金そのものに近い場所へ実装できます。

オンチェーン金融を特徴づけるのは、トークンそのものよりも、この条件付きで価値を動かせる性質です。

なぜAIとセットなのか

提言の名称には「次世代AI・オンチェーン金融」とあります。

AIが商品の探索、価格比較、契約判断まで行えても、最後の支払いだけ人間が銀行アプリを開いて承認するなら、自律的な経済活動にはなりません。一方、AIに銀行口座のパスワードを渡し、自由に送金させるわけにもいきません。

スマートコントラクトで、使途、金額、相手、期間などの権限を制限したうえで、AIに実行させる。オンチェーン金融は、AIエージェントが価値を安全に扱うための実行基盤になり得ます。

ただし、ブロックチェーンに記録されているから、入力データがすべて正しいとは限りません。納品データや本人情報など、現実世界の事実を誰が保証するのかという問題は残ります。また、AIが誤った判断をしたときの責任や、複数のAIが同じ方向へ動くことで市場が不安定になるリスクもあります。

Kovaは「AIが実行する」部分を作っている

ここまでの話は、Komlock labで開発しているAIエージェントウォレット「Kova」にもつながります。

https://zenn.dev/komlock_lab/articles/kova-agent-wallet-2026

政府提言は、ステーブルコインやトークン化預金、RWAなど、AIが利用する金融インフラの側を中心に描いています。しかし、オンチェーン上にお金と資産が揃っても、それだけでAIが安全に扱えるわけではありません。

AIの判断を、署名、送金、スワップといった実際のオンチェーン操作へ変換する仕組みが必要です。さらに、AIへウォレットの全権を渡すのではなく、「いくらまで」「どの操作を」「どの権限で」実行できるかを制御しなければなりません。

Kovaは、このAIとオンチェーン金融の間にある実行レイヤーを作ろうとしています。

Kovaでは、Skillを通じてAIエージェントから自然言語でウォレット操作を呼び出せます。送金はデフォルトでdry-runとなり、Policyによる実行制御を組み合わせられます。ウォレットの作成や鍵の出力、Policy変更などのowner-only操作は人間に残し、AIへ無制限な権限を渡さない設計にしています。

現在、Kovaの上では、JPYCを使ったEC決済やステーブルコインのレンディングを扱うSkillも動いています。規模はまだ小さいですが、これは「AIが商品を選び、与えられた権限の中で決済する」「AIがオンチェーン金融サービスを利用する」という政府構想の一部を、実際に動く形へ落としたものだと考えています。

もちろん、Kovaだけでオンチェーン金融が完成するわけではありません。法的な本人確認、誤送金の取り消し、現実資産の権利保証、金融機関との接続などは、ウォレットの外側にある課題です。Kovaが担うのは、整備されていく金融インフラをAIがどう安全に利用するか、という部分です。

政府が最初の利用者になろうとしている

新しい金融インフラには、「便利だから誰か使うだろう」では立ち上がらない難しさがあります。使う人が少なければ、事業者も投資しません。事業者が投資しなければ、使える場所も増えません。

そこで提言は、政府や自治体などの公的主体が、最初の利用者になる案を出しています。

  • 給付システムのオンチェーン化
  • 国債のトークン化
  • JBICなどの財投機関によるトークン債の発行
  • GPIFなどへのトークン債投資枠の設定

国が「ルールを作る側」だけでなく、「最初に需要を作る側」へ回ろうとしているのが特徴です。

また、トークン化預金を銀行間で移転するための日銀当座預金のトークン化や、金融機関向けの中央銀行デジタル通貨(ホールセールCBDC)、3メガバンク共同のステーブルコイン、証券決済の24時間365日化なども検討対象に挙げられています。

一方で、提言は全銀システムをすぐにブロックチェーンへ置き換えるべきだとはしていません。既存システムは大量処理と高い信頼性をすでに実現しています。必要なのは「何でもブロックチェーンにすること」ではなく、プログラマビリティや複数組織間の共有が価値を持つ領域を見極めることです。

オンチェーン金融とDeFiは何が違うのか

ブロックチェーン上で金融を扱う仕組みとしては、すでにDEXやレンディングプロトコルなどのDeFiがあります。では、今回の政府構想もDeFiと同じものなのでしょうか。

両者はブロックチェーンやスマートコントラクトを使う点では共通していますが、今回の構想はDeFiをそのまま既存金融へ持ち込む話ではありません。

DeFiは、誰でもウォレットを接続でき、公開されたスマートコントラクトを組み合わせられるパーミッションレス性を重視してきました。一方、政府構想では、本人確認、マネーロンダリング対策、顧客保護、預金保険、金融システムの安定性が前提です。

DeFiでよく見られる形 政府構想のオンチェーン金融
参加 ウォレットがあれば参加可能 KYC済みの参加者・事業者を想定
資産 暗号資産が中心 預金、法定通貨連動資産、国債、売掛債権など
運営 プロトコルやDAO 金融機関、公的機関、認可事業者
重視するもの オープン性、組み合わせ可能性 安定性、法的確実性、顧客保護、相互運用性

技術的には、DeFiと共通する部分もあります。スマートコントラクトで取引を自動化し、24時間いつでも資産を動かせる点です。

違うのは、そこに本人確認やマネーロンダリング対策、顧客保護といった既存金融のルールが加わることです。今回の構想では、DeFiで使われてきた技術を、銀行や証券会社が扱える仕組みへ組み直そうとしています。

「金融主権」というもう一つの目的

提言がオンチェーン金融を急ぐ理由は、効率化だけではありません。

ドル建てステーブルコインが世界のデジタル決済基盤になれば、日本企業が海外の発行体や決済ネットワークに依存する可能性があります。円を使う場面自体が減れば、通貨の問題にもつながります。

そのため提言は、「オンチェーン金融主権」や「通貨主権」という言葉を使い、日本独自の決済基盤を持つ必要性を訴えています。さらに、円建てステーブルコインと他通貨建てステーブルコインを交換できる仕組みや、アジア各国とのルール作りも視野に入れています。

ただ、主権を重視しすぎて日本固有の規格を作れば、今度は海外とつながらない「ガラパゴス」になります。国内で管理できることと、国際的に相互運用できることを同時に満たせるかが難所です。

オンチェーンにすれば解決するわけではない

一方で、オンチェーン金融の実装には、技術だけでは解決できない課題があります。

現実の情報は誰が保証するのか

ブロックチェーンが保証できるのは、記録された後のデータが勝手に変更されていないことです。納品された部品が本当に契約どおりだったか、不動産が実在し誰に権利があるかまでは、自動的に保証してくれません。

間違った取引をどう戻すのか

誤送金、詐欺、秘密鍵の漏えいが起きたとき、誰が取引を止め、取り消し、補償するのでしょうか。金融では「変更できない」ことが常に長所になるわけではありません。

24時間動くことは、24時間危機が起きることでもある

取り付けや資金流出も高速化します。人が眠っている間にAIとプログラムが連鎖的に取引すれば、問題が広がる速度も上がります。

既存システムとの二重投資になる

新しい基盤を作っても、既存の銀行・証券システムをすぐには止められません。長い移行期間には、両方を維持するコストがかかります。

プライバシーと透明性が衝突する

取引を検証しやすくするほど、企業の商流や個人の資産状況が見えやすくなる可能性があります。誰に、どこまで見せるかという設計が不可欠です。

提言も、AML/CFT、流動性危機、外為規制、量子コンピュータ、AIによる判断の偏りなどをリスクとして挙げています。構想が大きい分、技術だけでなく、法務、会計、監査、運用まで同時に作らなければ動きません。

では、オンチェーン金融とは何か

ここまでをまとめると、オンチェーン金融は「金融商品をブロックチェーンに載せること」より広い概念です。

ここまで見てきた政府構想とオンチェーン金融の特徴を整理すると、重要な要素は次の4つです。

  1. お金や資産の権利状態を、複数の主体が検証できる
  2. 資産と決済を同じ処理の中で扱える
  3. 契約条件をプログラムとして実行できる
  4. 特定のサービス内部に閉じず、他の仕組みと接続できる

この4点を満たす仕組みは、パブリックブロックチェーンだけに限定されません。金融機関だけが参加するネットワークでも、外部と検証・接続でき、資産と決済をプログラム可能にするなら、オンチェーン金融の一部と考えられます。

反対に、既存のデータベースをブロックチェーンへ置き換えただけで、契約や決済が分断されたままなら、オンチェーン化の意味は薄いです。

まとめ

政府の提言を読んで印象に残ったのは、オンチェーン金融を「暗号資産業界の話」ではなく、産業政策、決済インフラ、成長資金、AIエージェント、そして通貨主権の話として捉えていたことです。

目指しているのは、すべての金融をブロックチェーンへ移すことではありません。

注文、納品、契約、決済、資金調達が別々のシステムに分かれている現在の金融を、必要な範囲でつなぎ直し、人やAIが条件に沿って価値を動かせるようにする。金融をプログラムの一部として扱える点が、オンチェーン金融の特徴です。

実用化の成否は、どのチェーンを採用するか以上に、現実の権利をどう保証するか、事故をどう戻すか、誰が責任を負うか、異なる仕組みをどう接続するかで決まります。

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