Robinhood Chainで何が起きているのか。独自チェーン戦略とオンチェーンの実態について
こんにちは!ブロックチェーンエンジニアの山口夏生(@0x_natto)です。
ブロックチェーン×AI Agentで自律経済圏を創る開発組織Komlock labでCTOをしています。
今回は、公開直後から取引高が急増して話題のRobinhood Chainを取り上げます。どういうチェーンなのか、なぜRobinhoodが独自チェーンを出したのか、いまチェーン上で何が起きているのか。調べて分かったことを整理しました。
Robinhoodが独自チェーンを出した
2026年7月1日、Robinhoodが独自のEthereum Layer 2「Robinhood Chain」のパブリックメインネットをローンチしました。
ローンチ直後からオンチェーンの取引高が跳ね上がりました。Uniswapは1週間で2億5,000万ドル超の取引高を処理し、7月7日には単日で約4億ドルのDEX出来高を記録しています。数字だけ見れば華々しい立ち上がりです。
ところが中身を開けると、看板に掲げられたトークン化株式(Stock Tokens)が主役には見えません。取引高の大半はミームコインとステーブルコインの利回り狙いで、トークン化株式のオンチェーン価値は1,200万ドル台にとどまります。
なぜわざわざ独自チェーンを作ったのかという戦略と、チェーン上で実際に何が起きているのかという実態。この2つが分かると、Robinhood Chainを人に説明できるようになります。
Robinhood Chainとは何か
まず前提を揃えます。Robinhood Chainは、Arbitrumの「Dedicated Blockchains」で構築されたEthereum Layer 2です。Dedicated Blockchainsは企業が独自のArbitrum系チェーンを立ち上げるためのフレームワークで、旧称はOrbit / Arbitrum Platformです。トークン化株式やRWAを24時間週7日(24/7)で取引するための「トレーディンググレード」なチェーンとして設計されています。
公式ドキュメントで裏取りできる基本仕様は次の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| アーキテクチャ | Arbitrum基盤のEthereum Layer 2 |
| ガストークン | ETH(native gas token) |
| データ可用性(DA) | Ethereum blobs を使用 |
| 決済の最終確定(セトルメント)先 | Ethereum に直接確定 |
| レイテンシ | 100ms(configurable block times + preconfirmations) |
| Chain ID | メインネット 4663 / テストネット 46630 |
| EVM互換 | Solidity / Vyper が無改変でデプロイ可能 |
| ブロックエクスプローラ | Blockscout |
シーケンシングは「first-come, first-served(FCFS、先着順)」方式です。順序はシーケンサーへの到着時刻だけで決まり、手数料を上乗せしても他の注文を追い越せない、と公式に明記されています。MEV的な順序割り込みを排除する設計です。一方で、シーケンサーが単一か分散か、誰が運用するのかは一次ソースでは確認できていません。「トレーディンググレード」を名乗る以上ここは重要な論点なので、公式の追加開示を待ちたいところです。
初期パートナーと自社プロダクト
Robinhood Chainは、稼働初日から主要プロトコルが揃った状態でスタートしました。ここが「トレーディンググレード」を支える実体です。
- DEX:Uniswap、Rialto(Robinhood独自のRFQ型取引所。複数の流動性源から見積もりを集めて最良価格で執行)
- オラクル:Chainlink
- レンディング:Morpho
- Perps:Lighter、Arcus
- ブリッジ:LayerZero
- カストディ:Fireblocks、BitGo
- ドル流動性:USDG(Paxos発行のステーブルコイン)
- 自社プロダクト:Stock Tokens、Robinhood Earn(適格顧客向けの利回りプロダクト)
チェーン全体の構造を図にすると次のようになります。
図の右下に書いたAEP(Arbitrum Expansion Program)が、Arbitrum基盤を選んだ代償にあたります。決済の最終確定をEthereumに直接置くOrbitチェーンは、protocol net revenueの10%をArbitrumエコシステムに還元する義務を負います。内訳は8%がArbitrumDAO treasury、2%がArbitrum Developer Guildです。Arbitrum One上で最終確定する構成ならこの義務は生じませんが、Robinhood ChainはEthereumへの直接確定を選んだため、収益の10%が外部に流れる設計になっています。
なぜ24時間週7日取引できるのか
24/7はRobinhood Chainの売り文句ですが、Robinhoodには以前から夜間取引がありました。2023年5月に始まった24 Hour Marketで、日曜20時から金曜20時(米国東部時間)まで個別株を取引できます。米国リテールブローカー初の個別株24時間取引と自社で説明していますが、土日は止まる24/5でした。裏側の執行会場はBlue Ocean ATSという私設取引システムです。
週末に取引できなかった理由は、1つではなく3層あります。まず執行会場で、Blue Ocean ATSが米国株を扱うのは日曜から木曜の夜間(20時〜翌4時 ET)だけです。次に清算インフラで、NSCC(DTCC子会社の清算機関)は2026年に清算を24x5へ拡張しましたが、それでも金曜20時から日曜20時は止まります。最後にマーケットメイカーで、ヘッジ手段となる現物・先物市場が週末は閉じているため、リスクをヘッジできません。
トークン化は、この3層をまとめて回避する仕組みです。オンチェーンで売買されるのは、SPV(特別目的会社)が保有する実株へのラッパー請求権であるトークンだけです。取引のたびに取引所での執行やDTCCでの清算といった現物株の決済が発生しないため、清算機関が止まっている週末でもAMM上で売買が成立します。eco.comの解説はこう書いています。
"the tokens trade around-the-clock on-chain, but the underlying shares only settle during US market hours"
段階差もあります。Stock Tokens単体のローンチ時(2025年6月末の発表)は公式に「24/5 access」と表現されており、24/7取引はRobinhood Chainのメインネット稼働で実現した機能です。
ただし、この24/7はタダではありません。市場が閉じている間のコストを、誰かが代わりに引き受けているからです。指摘されているのは次の4つです。
- 週末は価格が不利になる: 株式市場が閉じている間は基準になる株価が動きません。値付けするRobinhoodや提携マーケットメイカーは、外すリスクに備えて売値と買値の幅(スプレッド)を広げます。ユーザーは平日より不利な価格で売買することになります
- マーケットメイカーが在庫リスクを抱える: 週末に受けた注文は、月曜に市場が開くまで実株でヘッジできません。その間に値が動いた場合の損失は、Robinhoodか提携マーケットメイカー(固有名は非開示)が負います
- 月曜に価格が飛ぶ: 週末に付いたトークンの価格が、月曜朝の実際の株価と一致する保証はありません。市場再開時に価格が大きくずれるリスクがあります
- 流動性提供者が裁定コストを負担する: AMM上のトークン価格は実際の株価とズレ続けるため、裁定トレーダーがそのズレを利益に変えます。その利益の出どころは、プールに資金を置く流動性提供者の損失です
なぜ独自チェーンなのか①: 収益構造と規制の圧力
ここからが1つ目の問いです。なぜRobinhoodは、収益の10%を外部に払ってまで独自チェーンを敷いたのか。答えの入り口は、Robinhoodの収益構造そのものにあります。
2026年2月10日に発表されたFY2025通期決算の内訳を見ます。
| 区分 | 金額 | 全体比 |
|---|---|---|
| 総売上(Total net revenue) | 約44億7,300万ドル(前年比+51.6%) | 100% |
| 取引ベース収益(Transaction-based) | 26億2,800万ドル | 約58.8% |
| 純金利収益(Net interest) | 15億1,400万ドル | 約33.8% |
| その他(Gold会費等) | 3億3,100万ドル | 約7.4% |
売上の柱は取引ベース収益で、全体の約59%を占めます。この取引ベース収益の中身が問題です。
PFOFとは何か
Robinhoodの「ゼロコミッション」は、PFOF(Payment for Order Flow、注文フローの対価)で成立しています。ユーザーから手数料を取らない代わりに、注文の回送先から対価を受け取るモデルです。流れをシーケンスにするとこうなります。
ユーザーは手数料ゼロで取引でき、マーケットメイカーはリテール注文の執行で収益を得て、Robinhoodはその一部を対価として受け取ります。三者とも得をするように見えますが、利益相反と隣り合わせの構造です。Robinhoodには、注文をユーザーにとって最良の価格で執行してくれる先ではなく、多くの対価を払ってくれる先へ回送する動機が生まれるからです。米国ではSEC規則606の開示義務のもとで合法とされていますが、実際にRobinhoodは2020年12月、開示・最良執行義務の違反でSECから6,500万ドルの制裁金を科されています。
四半期の内訳を見ると、この構造がはっきりします。Q4 2025(2025年10-12月)の取引ベース収益は7億7,600万ドルで、オプションが3億1,400万ドル、暗号資産が2億2,100万ドル、株式が9,400万ドルでした。オプションと暗号資産の売買回送が稼ぎ頭で、無料取引の実体はPFOF由来の収益に支えられています。
その稼ぎ方が、EUでは封じられました。改正MiFIR(EUの金融商品市場規則)の第39a条が、リテール・プロフェッショナル双方の顧客に対するPFOFを禁止したためです。
第39a条は2024年3月28日に発効しました。EU加盟国のうち経過措置を正式に通知したのはドイツ1国のみで、その経過措置が2026年6月30日に終了します。この日をもって、EU全域で例外なくPFOFが全面禁止になりました。英国もFCAが利益相反・最良執行の観点からPFOFを実質的に禁止しています。米国型の「PFOF×無料取引」という方程式が、EUと英国では成り立たなくなったわけです。
Robinhood Chainのメインネットローンチは2026年7月1日。ドイツの経過措置が切れた翌日にあたります。この日付の並びは、規制で失う収益源を別の稼ぎ方で埋めにいく動きとして読むと腑に落ちます。
しかもRobinhoodは、EUでの営業基盤を先に整えていました。2025年6月2日には暗号資産取引所Bitstampの買収(総額約2億ドル)をクローズし、欧州・英国・アジアの50超のライセンスを取得しています。同時期にリトアニアのRobinhood Europe UABがMiCA(暗号資産規制)ライセンスを2025年5月29日付で取得しました。MiFIDブローカーライセンスと合わせてEUパスポートが効くため、EU/EEA全域にサービスを展開できる体制です。
一連の流れを図にすると、Robinhoodが独自チェーンを代替収益源として位置づけた道筋を追えます。
独自チェーンなら、回送の対価ではなく決済インフラの保有で稼げます。自社シーケンサーの手数料を自社で捕捉し、トークン化株式は「ゼロ手数料」を掲げつつビッド/アスクのスプレッドで収益化し、決済レイヤーそのものを持つことで取引データも手元に残ります。PFOFという「回送の対価」を、決済インフラの保有という別の形に置き換えたと考えています。
なお、Stock Tokensは公式に「120カ国超のRobinhood Walletで提供(法域により差異あり)」と説明されています。「EU/EEA 30カ国」という数字を見かけますが、それはperps拡大の文脈で使われた表現で、Stock Tokensの提供国数として公式に断定されたものではありません。
なぜ独自チェーンなのか②: テナントからオーナーへ
規制と収益の話だけなら「EU向けの苦肉の策」で終わります。でも独自チェーンの動きは、Robinhood単独の現象ではありません。ここ2年で、暗号資産に触れる大企業が次々と同じ結論に至っています。他人のレールを借りるのをやめ、独自のレールを敷く動きです。
crypto.newsの論考は、この転換をこう表現しています。
"In the span of 2 years, nearly every large company that touches crypto has concluded the same thing: owning the road beats paying tolls on it."
構造を言い換えると、テナントからオーナーへの転換です。従来はブロックスペース・マーケットメイキング・セトルメントを手数料として外部チェーンに払う「テナント」でした。独自チェーンでは、それらを収益として内製化する「オーナー」になります。この動機は、同じ論考が整理する4つの軸で説明できます。
- マージン内製化:外部に払っていた手数料を自社の収益に転換する
- 製品統制:信頼性やUXを外部チェーンに依存しない
- 配信力:既存ユーザーベースを活用する(Robinhoodは数千万の入金済み口座)
- 規制先取り:トラフィックを正当化するルールが固まる前にレールを敷いておく
同じ「独自チェーン」でも、狙う資産は各社で違います。主要4チェーンを並べると輪郭がはっきりします。
| チェーン | 対象 | 種別 | ガス | 技術基盤 | ローンチ状態 |
|---|---|---|---|---|---|
| Robinhood Chain | 株式・RWA | L2 | ETH | Arbitrum | メインネット 2026/7/1 |
| Coinbase Base | 汎用アプリ | L2 | ETH | OP Stack | 2023稼働、収益実績あり |
| Circle Arc | ステーブルコイン金融 | L1 | USDC | Malachite(BFT) | testnet 2025/10 |
| Stripe Tempo | 決済 | L1 | 要確認 | Paradigm共同・独自L1 | private testnet(2025/9発表) |
Coinbaseは先行するBaseで、独自チェーンが収益源になりうることを実証しました。2023年にOP Stack上で稼働し、シーケンサー収益は決算にも表れています。Q4 2024のその他取引収益は6,800万ドルで、主因はBaseのシーケンサー収益でした。同四半期のBaseは8,047 ETH(約2,636万ドル)のシーケンサー収益を計上しています。Q4 2025はグロスで約1,900万ドル、L1データコストとOP Collectiveへの分配後のネットで約1,500万ドルでした。
Circle ArcとStripe Tempoは、株式ではなくステーブルコインと決済に寄せています。Circle Arcは2025年8月に発表されたオープンなLayer 1で、ガストークンはUSDC、コンセンサスはTendermintベースのMalachiteです。2025年10月のパブリックテストネットにはBlackRockやVisa、Goldman Sachsなど100超の組織が参加しました。Stripe TempoはStripeとParadigmが2025年9月4日に共同でインキュベートしたLayer 1で、決済に特化しています。Series Aで5億ドルを調達し、バリュエーションは50億ドルです。
crypto.newsはStripe Tempoを「2026年3月メインネット」と記していますが、発表時点および他ソースではprivate testnet段階で、公式のメインネット時期は確認できていません。ここは断定を避けます。
この並びで見ると、Robinhoodが「株式・RWA軸」の独自チェーンに賭けたのは、決済やステーブルコインで先行する各社と正面衝突しないポジション取りだと考えています。crypto.newsの言葉を借りれば、Baseが「オープンなアプリ経済へ外向きに広がるcrypto-native企業」なのに対し、Robinhoodは「伝統金融が内側へ移行し、資本市場をオンチェーンで再構築する」側に立っています。向きが逆なのです。
ではチェーン上で何が起きているか: 取引高の中身を開ける
戦略の話はここまでにして、2つ目の問いに移ります。華々しい取引高は、本当にトークン化株式の実需なのか。一次データを見る限り、答えはNOです。
まずTVLです。ここは集計方式で数字が割れるので、出典を分けて扱います。
| カテゴリ | 概算値 | 出典・備考 |
|---|---|---|
| ステーブルコイン利回り(USDG / Morpho・Ethena) | オンチェーン価値の過半(USDG時価総額 約2億4,680万ドル) | The Defiant。Ethena seed 約5,000万ドル、想定7% APY |
| RWA(トークン化株式・ETF・Treasury・コモディティ) | 約1,250万〜1,280万ドル | The Defiant(07-08前後)。TVL全体の数%未満 |
| その他(DEX流動性・ミームコイン等) | 残余 | CASHCAT 時価総額 約1億3,700万ドル |
| Total TVL | 約2億3,400万ドル(protocol集計)/約1億600万〜1億780万ドル(DeFi集計) | 集計方式で乖離 |
protocol TVLベースでは約2億3,400万ドル、DefiLlama系のDeFi TVLベースでは約1億600万〜1億780万ドルと、出典で倍近く違います。ただし共通しているのは、看板のRWAが1,250万〜1,280万ドルしかない点です。TVL全体の数%にも届きません。
TVLの牽引役はMorphoで、オンチェーン価値の過半はステーブルコインのUSDGが占めます。その背景に、EthenaがSteakhouse FinancialのキュレーションするMorpho上のUSDG vaultに約5,000万ドルをシードした動きがあります。これがTVLを1日で約160%押し上げた主因です。Robinhood Earnはこの裏側でMorphoのクレジットマーケットを使い、USDGに対して想定7% APYの利回りを提示しています。対象は2,770万人の入金済み顧客です。
DEX取引高の主役も、株式ではありません。Uniswapは公式ブログで、v2・v3・v4・UniswapXをローンチ初日から全展開し、Robinhood Chainの主要な公開AMMになると宣言しました。稼働直後の勢いは確かで、1週間で2億5,000万ドル超の取引高を処理し、UNI価格は11〜14%上昇しました。7月7日には単日で約4億ドルのDEX出来高を記録しています。
その出来高を作っているのがミームコインです。CASHCATは、2026年7月8日の観測で価格約0.1373ドル、24時間で約1,320%上昇、時価総額は約1億3,700万ドル、24時間出来高は約1億9,400万ドルに達しました。CASHCATはRobinhood初期のマスコット「Cash Cat」に由来するミームです。Pump.funが7月8日から9日にかけてRobinhood Chainのトークン取引に対応し、ミーム熱をさらに増幅しました。
初週の熱は、ミームと利回りに加えて話題性のあるプロジェクトも引き寄せ始めています。2026年7月8日には、Phantomウォレット内で提供されているSolana上のオンチェーン予測市場world(2026年7月1日ローンチ)が、Solanaを離れてRobinhood Chainへ移行するとXで発表して注目を集めました。ただし割り引いて見る必要があります。worldは独自トークンを持たず、チームや資金も非開示の匿名運営で、移行はまだ発表段階です。スマートコントラクトの展開といった実行は確認されていません。The Defiantによれば、他チェーンからRobinhood Chainへの移行を明示したプロジェクトは現時点でworldが唯一で、複数プロジェクトが続く流れは観測されていません。
この実態は、CEO Vlad Tenevの発言の変遷にも表れています。7月3日ごろの報道では「暗号資産の未来はRWAにある」という趣旨を語っていました。ところがCASHCATが急騰した後の7月7日から8日にかけて、Xでこうポストしています。
"While we're building robinhood chain to be the best chain for RWA … it works great for memes too."
RWA向けを標榜したチェーンの初週トラクションが、実際にはミームコインとステーブル利回りから来ている。この乖離が、Robinhood Chainの現在地だと考えています。
RWAが本命になるための条件
ここで乖離の指摘を終わらせるのは早計です。問うべきは、トークン化株式の実需はいつ、何が揃えば立ち上がるのかです。ボトルネックは、Stock Tokensの権利構造そのものにあります。
Stock Tokensは、実は株式そのものではありません。法的には「トークン化された債務証券(debt securities)」で、発行体はチャネル諸島の子会社Robinhood Assets (Jersey) Limitedです。SPVが実株を保有し、トークン保有者が持つのは経済的エクスポージャーだけです。分析記事はこう指摘します。
"It does not give you ownership, voting rights, or a direct claim on the company … If that entity fails, you are a creditor, not a shareholder."
権利構造を具体的に見ると、次のようになります。
- 議決権:なし。SPVやカストディアンが行使するが、実質は棄権
- 配当:原株が配当を出すと、Robinhoodがアプリ内でUSDまたはEUR相当額をクレジット。トークンコントラクトへのオンチェーン分配ではなく、オフチェーン処理
- 償還:authorized participants(組成・償還を担う指定業者)経由の現金償還は可能。原株そのものへの償還は現行機能ではなく将来計画
全体像を図にすると、ユーザーと実株の間にSPVが挟まる構造が見えます。
発行から購入までを一覧にすると、次のようになります。
| 問い | 答え |
|---|---|
| 誰が発行するか | Robinhood Assets (Jersey) Limited(チャネル諸島の子会社)。株式ではなく債務証券として発行 |
| 実株はどう管理されるか | 米国のブローカーディーラーがカストディし、SPVが法的株主として保有 |
| いつ・どこで発行されたか | 2025年6月末にEU向けにArbitrum上で開始(現在はClassic Stock Tokensに改称、カタログは2,000銘柄超)。2026年7月1日からはRobinhood Chain上で24/7取引に |
| どこで買えるか | EU/EEAはRobinhood Europeアプリ。その他はRobinhood Walletで120カ国超(提供は法域による)。Robinhood Chain上のUniswapでは誰でも売買・流動性提供が可能 |
| どこで買えないか | 米国(明示的にブロック)、英国、カナダ、スイス、UAE、制裁地域 |
ここに中心的なパラドクスがあります。レールはパーミッションレスなのに、看板商品はその逆で、単一企業のオフショア子会社が発行する、地域制限つきで所有権のない債務証券だという点です。
パブリックチェーンなのに特定の国では買えない、という状態は矛盾して見えます。制限がどの層にかかっているかを分けると、仕組みが見えてきます。
- チェーン層は誰でも使える: Robinhood Chain自体はパブリックです。誰でもコントラクトをデプロイでき、ミームコインの売買に居住地の制限はかかりません
- アセット層は統制の余地だけ残す: Stock Tokensのコントラクトは標準のERC-20で、転送は既定で自由です。公式ドキュメントも「標準ERC-20であり、任意のウォレットに転送・保有できる」と明記しています。ただし発行者は、特定アドレスを取引停止にするブロックリスト、トークン全体を止めるポーズ、強制burnの権限を持ちます。そして発行と償還は、KYB審査済みの指定業者に限定されています
- 配布層で地域を弾く: 購入の入口はRobinhood EuropeアプリやRobinhood Walletで、居住地によって提供が制限されます。証券の勧誘・販売をこの層で止めることで、未登録証券のリテール販売を禁じる米国証券法に触れないようにしています
つまりチェーンもトークンの転送もブロックしておらず、発行者が販売経路と発行・償還の出口を握ったうえで、米国居住者には売らないという状態です。実際にBlockscoutで検証済みのコントラクトを確認すると、NVDAトークンの実装は転送先を適格者に限定するallowlistを持たず、ブロックリスト方式でした。UniswapもStock TokensはRobinhood Chain上で完全に転送可能で、誰でもスワップや流動性提供ができると公式ブログで明言しています。オンチェーンの建て付けはどこまでも開いていて、閉じているのは販売と換金の経路だけ、というのがこのパラドクスの正体です。
この地域制限が刺さるのは、Robinhoodのコア顧客が米国リテールだという点です。旗艦商品を本国の顧客が使えません。理由は規制上の制約だとされています。分析記事は「米国の証券法には、株式をラップしたリテール向けトークン化債務証券のためのきれいな道筋がなく、Robinhoodがその戦いを最初に挑むつもりはない」と説明しています。
では米国が開くには何が要るのか。1つはSECの姿勢です。SECは2026年1月28日、3部門連名で「Statement on Tokenized Securities」を出しました。核心は、証券がオンチェーンかオフチェーンかというフォーマットの違いは連邦証券法の適用を変えない、という一点です。新しい規則も免除も専用レジームも作らないと明言しています。つまり米国展開には、既存の証券法の枠内での登録か免除(exemptive relief)が要ります。
もう1つはインフラの前進です。米国の証券決済インフラであるDTCCがトークン化証券サービスを進めており、2026年7月に限定的な本番取引、2026年10月に商用ローンチを計画しています。BlackRockやGoldman Sachs、J.P. Morgan、Circle、Nasdaq、NYSEなど50社超のワーキンググループが参加し、対象資産はRussell 1000構成銘柄・主要ETF・米国債です。2025年12月には、記載の行為を当面問題視しない旨のSEC書簡であるNo-Action Letterも取得しています。実株の裏付けとwhitelistedウォレット間の移転というTradFi側の公式レールが整えば、Robinhoodのような事業者はSPVラップの債務証券より本格的なトークン化株式へ進めます。
もっとも、レールが整っても実需がすぐ立つとは限りません。Forbesの調査は、トークン化資産市場の別の顔を示しています。市場規模は600億ドル・7,000プロダクトに達する一方、そのうち329億ドル(910資産)は週次の移転がゼロでした。上位62資産が時価の88%を占め、上位5資産だけで約半分です。約270億ドルは設計上パーミッションドで、そもそも二次流通を想定していません。EtherFuseのCEO David Taylorはこう言い切っています。
"A $60 billion market that 97% of people can't touch, where half the assets never move, isn't a market yet. It's a waiting room."
ただ、トークン化株式そのものは伸びています。オンチェーンRWAは2026年5月中旬時点で約314億ドルで、突出しているのはトークン化米国債の68億ドル超です。トークン化株式は約21億9,000万ドルで、直近30日で約50%成長しました。本命化の条件は、地域制限の解除・権利構造の見直し・SECの登録経路・DTCC等のインフラが揃うことだと整理できます。投機とステーブル利回りが先に走り、実需はその後から立ち上がる。今はまだ待合室の段階だと考えています。
まとめ: 戦略は必然、実需はこれから
2つの問いに答えを付けます。
1つ目、なぜ独自チェーンか。Robinhoodは売上の約59%を取引ベース収益に依存し、その稼ぎ方の核であるPFOFがEUで2026年6月30日に全面禁止されました。翌日にメインネットを立ち上げたRobinhood Chainは、回送の対価を決済インフラの保有に置き換える代替の収益基盤です。BaseやArc、Tempoと同じ「テナントからオーナーへ」の流れに、株式・RWA軸で乗った動きでもあります。戦略としては必然でした。
2つ目、実際に何が起きているか。初週のTVLと取引高の主役は、看板のトークン化株式ではなく、ミームコインCASHCATとEthena/Morphoのステーブル利回りです。トークン化株式のオンチェーン価値は1,250万〜1,280万ドルにとどまります。RWAが本命になるには、Stock Tokensの権利構造・地域制限・SECの登録経路・DTCCのインフラという条件が揃う必要があり、実需は投機より遅れて立ち上がります。
開発者としてウォッチすべきは3つだと考えています。1つはDuneやDefiLlamaのオンチェーン指標で、RWAのTVLがミーム・ステーブル利回りに対してどれだけ比率を上げるか。2つ目は米国のSECの動きで、登録経路か免除が具体的に前進するか。3つ目はDTCCの2026年10月の商用ローンチで、TradFi側の公式レールがどこまで実運用に入るか。この3点が動いたとき、Robinhood Chainの看板と実態の乖離が縮み始めるはずです。
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