仮想通貨にも小型株効果やリターンリバーサルがあるのか?
はじめに
はじめまして、塩辛botterと申します。
日本株、仮想通貨のbot構築をメインで扱っています!
去年、HYPE を4ドルで売ったことをアドベントカレンダーの記事の中で嘆いていましたが、今年は ASTER を0.7ドルで即売りました。成長しないですね。
本記事は”仮想通貨 Advent Calendar 2025"の17日目の記事として執筆しています。
小型株効果とリターンリバーサルについて
皆さんは「小型株効果」や「リターンリバーサル」をご存じでしょうか?
いわゆるアノマリーってやつですね。
知らない人のためにChatGPTの要約を載せておくと以下の通りです。
小型株効果とは
小型株(時価総額が小さい銘柄)の平均リターンが、大型株より高い傾向が観測される、という有名なアノマリー(またはリスク・プレミアム仮説)です。古典的には、米国株で「小さいほど(リスク調整後でも)リターンが高い」関係が報告されました。
リターン・リバーサル(Return reversal)とは
直近上がった銘柄がその後下がり、直近下がった銘柄がその後上がる(=短期の“逆張り”が効く)現象のことです。
仮想通貨にも小型株(小型通貨)効果やリターンリバーサルはあるのか
今回は元ネタの論文があります。2021年9月公開とちょっと古い論文なのですが、以下で無料で読めます。
短期のリバーサルとモメンタム、そして流動性がどう仮想通貨の値動きに影響するかを調査した論文で非常に面白かったです。
先に論文の結論を言ってしまうと、
「流動性が低い(=小型の)通貨で、短期(1日)リバーサルを取りに行くとエッジがあるよ」
と言っています。日本株に慣れ親しんできた身としては、株でよく聞く2つのアノマリーが仮想通貨にも応用できるのか! と興奮し、さっそく手元のデータでエッジを再現できるか検証してみた次第です。
ユニバースを定める
論文では最大2,500のコインを対象にしていました。Coinbase, Binanceなど多くの取引所を横断的に見ていたようです。
今回の検証ではBybitの先物を使います(後述しますが700コインぐらいがMAX)。
検証期間は2022年~2025年11月末です。論文では2015-2021年末と長かったのですが、なかなか2015年までさかのぼったり、取引所を横断してデータを取得するのが難しいこともあり、断念しました。
今回は論文の再現をするより、実際に運用して稼げるBotを作ることが優先のため、これでよしとします。
なお、Bybitの先物の中でも以下は除いて検証しています。
- 期限付き先物
- レバレッジ先物
- 株式トークン(AAPLとかNVDAとか)
まず、対象となる銘柄数の推移を見ましょう。

Bybitへ上場する先物銘柄は右肩上がりで増えてきましたが、2025年に入って700を超えたあたりで頭打ちになっています。
推測ですが、これ以上増やしても流動性が薄まったり、質の悪いコインが入ってきてユーザの悪評を買うだけ、と中の人が判断したのではないでしょうか。上場銘柄数を争うマーケティングも(少なくともCEXでは)見なくなったように思います。
この後、銘柄を10分割して損益を検証していきますが、2022年ごろは10分割≒20銘柄であるのに対し、直近では10分割≒70銘柄であることに注意してください。
いずれの期間も損益は同じレバレッジで計算します。つまり、1銘柄当たりのウェイトは直近になるほど小さくなっていきます。
流動性順位を正規化する
論文では流動性順位をもとに「小型」「大型」という区分けをしていました。
株ではTOPIX100やラッセル、MSCIなどいろいろな指数によって小型、大型と分けられるケースが多いですが、仮想通貨においてはそのような指数はありません。よって、その日の流動性が高ければ「大型」、低ければ「小型」と定義しています。
流動性順位はその日によってとりうる最大値が異なるので、0~1の範囲に正規化する必要があります。
df['rank_volume'] = df.groupby('dt')['Volume'].rank(method='first', ascending=False)
df['rank_volume_norm'] = df['rank_volume'] / df.groupby('dt')['rank_volume'].transform('max')
例として、SOLの正規化済み流動性順位をプロットすると以下の通りです。

下に行くほど大型(流動性順位が高い)になります。
直近では0.01を切る=上位1%以上ということがわかります。
もう一つの例として、むかし使っていた取引所の通貨$AEVOでは以下のような感じです。

縦軸・横軸ともSOLと変わっている点にご留意ください。
上場直後は0.1(上位10%)付近にいました。その後は徐々にランクを落として0.5(真ん中)程度にいることがわかります。直近9~10月に何か材料があったのか短期的に盛り上がっていますね。
相関係数を求める
さて、ここからが本題です。
「流動性が低い(=小型の)通貨で、短期(1日)リバーサルを取りに行くとむっちゃ儲かるよ」
が確かなら、それが相関係数に現れるはずです。
流動性ランクで全銘柄を10分割し、それぞれで前日リターンと当日リターンの相関係数を見てみましょう。

確かに流動性下位10%だけ、リバーサル優位になっていそうです!(赤丸部分)
本当はきれいな右肩下がりを期待していたのですが、とにもかくにも検証してみましょう。
バックテスト
意気揚々とバックテストを行ってみました。1-day reversal戦略です。
- 対象:流動性下位10%の銘柄
- 仕掛け:前日リターンがマイナスのものに日足の始値で成り行き仕掛け
- 決済: その日の終値で決済
df_small = df_ohlcv[df_ohlcv['rank_volume_norm'] >= 0.9]
fig, ax = plt.subplots()
df_small.query("feat_ror_1 < 0").groupby('dt')['ret_1d'].mean().cumsum().plot(ax=ax, label='Negative feat_ror_1')
plt.legend()
plt.title('Cumulative Return by Reversal Strategy (rank_volume_norm >= 0.9)')
plt.show()

結果はとても微妙なものになってしまいました。4年間運用してトントンです。(手数料抜き)
直近2025年もダメダメな結果になっています。
改善策として、LONG/SHORT戦略を考えました。つまり、小型に絞ったうえで、
- 前日上げたものはSHORT
- 前日下げたものはLONG
として、LONG/SHORTをイコールウェイトで持ちリバーサルを取りに行く戦略です。

2022-2023年まではよかったのですが、その後はヨコヨコですね。
さらなる一手として、小型・下落をLONG, 大型・下落はSHORTという戦略もやってみました。

だいぶましになりました。2025年も現時点でプラスになっていますが、やはりこれは運用には耐えられないかと思います。
小型の通貨をターゲットにbotを作った経験のある人なら、その理由にすぐに気づくかと思います。
低流動性ってどの程度?
先ほどから「流動性の下位10%のコインを仕掛ける」と言ってきました。
実際にそれらのグループはどの程度の流動性があるのでしょうか。
1コインあたりの1日の平均売買代金を図にしたのが以下です。

直近で30,000 ドル/日程度、2022-2023年ごろはもっと低く10,000ドル程度でした。
実際に出来高ランキングWORSTのコインを見ると、以下のような知らないコインばかりです。出来高は10,000ドルに届きません。
- $ULTI →上場廃止予定
- $PURSE
- $TRC
- $LBTC
- $PINEYE
- $TRVLU
- $ZKL
- $FTT (→ これだけは知っている)
1日の売買代金の100分の1まで許容するとしても、1銘柄当たり300ドル/日ぐらいの仕掛けです。
70銘柄に仕掛けるとしても、30*70 = 2,100ドルぐらいにしかなりません。
毎日トレードする今回の戦略では、マーケットインパクトをペイできないか、できるとしても非常に小さな金額しか運用できなさそうです。
サバイバーシップバイアスや本当に仕掛けられるのか(規制が入っていないか)といった課題もありそうで、バックテスト通りに運用できない可能性も高いです。
成果まとめ
バックテストの結果はいまいちでしたが、得られた成果もあります。
低流動性の銘柄に関して、エッジはこれからもどこかで現れるのでは?
低流動性の銘柄にはある程度の資産(≒スキル)を持ったトレーダーは入ってこないのではと推測されます。
ゆえに養分味のある弱小トレーダーの比率が高まっており、エッジが生まれていたのではないでしょうか。
マーケットインパクトへの注意は必要ですが、今後もこの手のエッジが現れる可能性はありえるでしょう。
論文公開がしばらく経ってもエッジは消えない
論文公開は2021年9月ですが、2023年末ごろまでは多少なりともエッジがみられました。
やはりINPUTを大量かつ定期的に行い、すぐに手を動かして検証する姿勢は大事だと思います!
「問い」を研いでみる
最後に、アドベントカレンダーの6日のshizさんの記事にとても良いことが書いてあったので紹介します。 UKIさんとhohetoさんが動画でも紹介されています。
以下、引用です。
- そのエッジの原資は「誰」が払うのか?
コードを書く前に、冷徹な現実を直視しましょう。トレードはゼロサム(手数料を含めればマイナスサム)ゲームです。あなたが利益を得るためには、誰かが損をするか、コストを支払う必要があります。
そう、誰かが損してくれないかぎり、仮想通貨にエッジなんてものはありえないのです。
今回の小型・リバーサル戦略にエッジがあるとしたら、その反対側に損している人がいるはずです。
誰が損しているのか
- 論文では、低流動性がゆえにマーケットが下げたときにインパクトを吸収しきれず、大きく暴落するのでは、と述べられています。その反動で儲かるというわけです。ただ、これが真なら流動性が小さいほどに相関係数もリバーサル優位になってほしいです。が、そういった傾向はみられません。
- これは私見ですが、暴落時に大型のコインならHODLする人たちも、低流動性の草コインは見切り売りが殺到しすぎ、相対的に売られすぎの状態になるのでは? と考えました。ただ、これも流動性下位10%だけ特異になる理由としては弱いと思います。
このBotを動かした人が損するだけか
- 論文では小型であるほどBid/Askのスプレッドが広がる傾向にあることが語られています。
- OHLCVデータを追っているだけでは見えない執行コストがかさんでしまい、グラフの右肩上がりだった2021-2022年ごろでも、実運用ではあまり儲からなかったではないかというオチもありそうですね。
まとめ(余談)
今回のアドベントカレンダーを執筆するにあたり、過去に検証して使い物にならなそうな戦略を掘り返した結果、いい感じのものを見つけたので記事にさせていただきました。
皆さんも年末年始に過去の戦略を振り返ってみたり、データを最新化して検証しなおしてみたり、ChatGPTと壁打ちしたりするのもいいかもしれません。中には直近で息を吹き返したBotもあるかもしれませんよ。
この戦略は年明けから本格的に運用再開します!
アドベントカレンダーがなければ気づかなかったので、感謝してもしきれないです!
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