学生がJANOG57にBackboneチームのNOCメンバーとして参加した話
はじめに
先日、2026年2月11日から2月13日にかけて大阪府大阪市で開催されたJANOG57 Meeting in Osakaに、NOC(Network Operations Center)チームのメンバーとして採択され、会場ネットワークの構築・運用に参加しました。
この記事では、拙い文章ではありますが、私が体験したJANOG57のNOC活動について振り返ってみたいと思います。
また、今回のJANOG57 NOCについては、以下の公式ページにも詳しく記載されていますので、併せてご覧ください。
JANOGとは?
「JANOG(JApan Network Operators' Group)」は、日本のネットワークに携わる技術者が集い、技術的な課題や運用について議論する場です。年に2回、全国各地で開催され、ISP、IX、CDN事業者、データセンター事業者、そして一般企業や大学のネットワーク担当者など、多様なバックグラウンドを持つ方々が集結する場になっています。
今回、私が参加したJANOG57のテーマは 「フラッとJANOG」。
JANOGer(JANOG参加者の愛称)が街の中に自然に溶け込むことで、通りがかった方に「何のイベントかな?」と興味を持っていただき、開かれた場にすることが目標として掲げられていました。
NOCとは?
NOCとは、Network Operations Centerの略です。一般的な企業では、自社ネットワークの監視・運用・保守を担う常設の部門や拠点を指します。
一方、JANOGのようなイベントにおけるNOCは、少し特殊です。JANOGのNOCは、イベント期間中の会場ネットワーク(Wi-Fiや回線など)を0から設計・構築し、会期中の安定運用を支え、最後に撤収までを行うボランティアの技術者チームのことを指します。
また、JANOGのNOCメンバーの一部は公募制で選出されます。私もこのチャンスを掴むべく、応募フォームに志望動機を綴り、エントリーしました。
そもそも君は誰?
情報系大学院の修士1年(2026年2月時点)で、ネットワークとセキュリティを専攻する研究室に所属しています。
普段はネットワークの通信制御の研究をしたり、研究室のサーバ構成に手を出したりしています。
JANOG自体は、2025年7月30日から8月1日にかけて島根県松江市で開催されたJANOG56 Meeting in Matsueに、若者支援プログラムを通じて初参加しました。その際の経験について気になる方は、以下の記事を読んでいただけると幸いです。
ちなみにNOCの経験は一度も無く、完全に初心者でした。そのためJANOG57が人生初のNOCチャレンジでした。
なぜNOCに応募したのか
きっかけは、前回開催されたJANOG56に現地参加したことでした。
それまでは「JANOG」という言葉は知っていても、実際の熱気や規模感は未体験の領域でした。しかし、いざ現地で議論に参加し、コミュニティの熱量を肌で感じたことで、「次は運営側として、この熱気を支える立場になりたい」と強く思うようになりました。
また、同じ研究室の先輩方がJANOGのNOCメンバーとして活躍していたことが大きな後押しになりました。普段一緒に研究室で過ごしている先輩方が、数千人が同時に接続する会場のネットワークを構築・運用している姿を間近で見て、「自分もあの場所で技術を磨きたい」「学生のうちにしかできない経験をしたい」という憧れと、良い意味での対抗心が湧きました。
さらに、NOCチームには様々なバックグラウンドを持つエンジニアが集まります。単に技術を学ぶだけでなく、第一線で活躍する方々と共にトラブルに立ち向かうことで、教科書には載っていない姿勢や現場の空気感を吸収したいと考えました。そして、そこでの繋がりが自身の視野を広げてくれることへの期待も、応募の大きな理由でした。
配属チーム
NOCへの応募からしばらく経ったある日、運営事務局から1通のメールが届きました。
結果は「採用」、そして配属先は、私が第一希望にしていた「Backboneチーム」でした。
まずは採用されたことに安堵していたのですが、直後に衝撃の事実を知ることになります。今回Backboneチームのリーダーを務められていた方が、𝕏で
- Backboneチームの学生は公募枠3人に対して倍率10倍くらいだった
- 判断材料が応募文しかない中で、熱意や経験はもちろんやりたいことがユニークだったり何を目的にしているかで選んだ
と発言されていました。
これを見た瞬間、文字通り震えました。ネットワークを学びたいという思いは誰よりも強い自信がありましたが、「本当に自分で大丈夫なのだろうか」といった不安が真っ先に押し寄せました。また、後日、チームのキックオフに参加して驚いたのですが、第一線で活躍されているプロのエンジニアの方々はもちろんのこと、同じ学生枠で参加しているメンバーたちもすでに過去にNOC経験を積んでいる猛者ばかりでした。なんと、Backboneチームの学生メンバーの中で「NOCへの参加が全くの未経験」だったのは私だけだったのです。
そのため、選ばれなかった他の方々の分まで必死で学び、チームに貢献しなければならないという強いプレッシャーを覚えました。
事前準備
今回のJANOG57では、従来存在していたL2/L3チーム(アクセス網などを担当するチーム)が編成されませんでした。そのため、私たちBackboneチームが会場内のL2/L3ネットワーク設計や構築までも一手に引き受けることになっていました。
本来なら別のチームが担うはずだった領域までカバーする責任の重さとプレッシャーに押しつぶされそうになりましたが、「会期当日だけでなく、準備期間の学びもNOCの醍醐味である」と腹を括り、検証作業に飛び込みました。
検証期間のキックオフでは、チーム内で以下のような運用における重要な鉄則が共有されました。
- 「知らないこと」は当たり前
- 試すなら1つずつ
- 自身がどの部分でどんな作業をしたのか共有する
どれもネットワークエンジニアとしては基本中の基本です。
地理的制約と技術的挑戦
今回のネットワーク設計における大きな課題の一つが、「地理的制約がある中で、どうすれば複数地点に安定したネットワーク提供ができるのか」ということでした。JANOG57の会場は複数に分かれており、論理的にも物理的にも複雑な要件が求められました。

会場構成(JANOG57 NOC公式ページから引用)
Backboneチームはその解決策の検証として、BBIXの提供するクラウド型ネットワークサービスであるOCX(Open Connectivity eXchange)を触って拠点間接続を試したり、リモートの検証環境を使って冗長化などのテストを繰り返し、実機に投入するためのコンフィグを事前に作成・レビューしたりと、実環境を想定した検証を進めていきました。
JANOG57ケーブル講習会
本番に向けた準備が進む中、2025年12月にはJANOG57のホストであるさくらインターネット様の大阪本社にて、NOCメンバーの顔合わせを兼ねたケーブル講習会が開催されました。それまではSlackやZoom上でのやり取りが中心で、画面越しのアイコンしか知らなかったメンバーと初めて対面する機会でした。
講習会では日本製線株式会社様の講師の方々をお招きし、座学と実技の指導をしていただきました。
座学では、Cat.6Aの規格詳細やノイズが通信に与える影響について学びました。実際にケーブルをノイズ源に近づけたり、水に浸けたりして通信エラーを可視化するデモには衝撃を受けました。また、Cat.6Aケーブルの成端を行い、Flukeテスターですべての性能試験をクリアするまで繰り返し取り組みました。

ケーブルを作る私
この講習を通じて、普段の研究では意識しきれていなかった物理層の品質の重要性を叩き込まれると同時に、隣で一緒に悪戦苦闘することでメンバー間の距離が一気に縮まりました。
大晦日に私が起こしたミス
検証を進めていた2025年12月31日の大晦日、私は一人、自宅からコンソールサーバー経由で検証機材にアクセスし、Juniper EXシリーズを用いたVirtual Chassisによるスイッチの冗長化作業を進めていました。
「うーん、どのアップリンクを使えばいいか分からん⋯せや!とりあえず一個一個削除してみて挙動を見てみるか!」
そう思い、コマンドを適用したその瞬間、突然SSH接続が繋がらなくなりました。必死に原因を調べてみたものの、どう調べてみても行き着く結論は一つしかありませんでした。「やってしまった、外部接続用のインターフェース設定を誤って削除してしまった⋯」
これにより、私だけでなく、NOCメンバー全員が検証環境にリモートアクセスできなくなってしまいました⋯
ただ、パニックになりつつも、キックオフのスライドにあった「作業内容の共有」という鉄則を思い出し、手元に残しておいた直前に打ったコマンドと現在の状況を包み隠さず、すぐにSlackで報告しました。報告した時の胃の痛さは、一生忘れることはないでしょう。
すると、チームメンバーの方々が迅速に反応してくださり、現地に行かずともクラウド管理ツールであるJuniper Mist経由で機器にアクセスし、設定を直して復旧していただきました。
チームの皆様には多大なご迷惑をおかけしてしまいましたが、怒るどころか「本番じゃなくて検証環境での失敗でよかった」「良い教訓になったね」などと温かくフォローしていただき、本当に救われました。
さらに、「JUNOSには設定変更時commit confirmedというコマンドがあり、一定時間経過すると設定が自動で戻る機能があるので、不安な設定変更の際は使ってみるといいかも」とも教えていただきました。こうした現場の生きた知識をプロから直接学べたことは、技術的にも非常に大きな収穫でした。
この失敗とチームメンバーの方々の対応のおかげで、「絶対に退路を断たない設定変更」という運用者の姿勢や「トラブル時は即座に正確な情報を共有する」ことの重要性を、骨の髄まで叩き込むことができました。また、クラウド管理型ネットワークの強靭さと、プロの冷静なトラブルシューティング能力には、ただただ平伏するしかありませんでした。
ホットステージ
JANOG本番の三日前あたりから現地に赴き、本番環境に向けた「ホットステージ(実機を用いた事前構築・検証)」が始まりました。これまで画面越しにリモートで構築していたネットワークをついに目の前の物理機器に落とし込む作業です。
ここからは、これまでとは打って変わって、機材の開封・設置・ラッキングや機器へのコンフィグ投入、疎通確認など、体力を伴う作業の連続でした。物理的な疲労はありましたが、それ以上にメンバーと協力して大規模ネットワークに立ち向かうという初めての経験ができたため、充実感がありました。

ケーブルの8の字巻きができない私(こんな巻き方しちゃダメですよ絶対!後で正しい巻き方を教えていただきました⋯)

少しずつJANOG色に染まっていく会場に感動
会場だけでなく、大阪駅にもJANOGの装飾がされているのを見た時は流石に震えました!
会期
そして迎えたJANOG57本番!
今回のJANOG57は事前の想定をはるかに超える参加希望が殺到し、あまりの大盛況ぶりに新規の参加登録受付を途中で停止するという異例の事態となりました。
これほどまでに多くの来場者が集まり、巨大なトラフィックが発生する環境を支えるプレッシャーはありましたが、いざ会期が始まると、ネットワークは非常に安定して稼働していました。
NOCブースとNOCツアーでの交流
会期中、監視運用と並行してNOCメンバーが担う重要な役割の一つが、来場者の皆様への「ネットワーク構成の解説」です。
私は会場に設けられたNOCブースでのご案内や、実際に稼働しているラックや配線の裏側を見学していただくNOCツアーでの解説も担当しました。
第一線で活躍されているプロのエンジニアや、興味を持ってくださった来場者の方々に対して、自分たちが構築したアーキテクチャや苦労したポイントを直接説明し、ディスカッションできたことは本当に刺激的で贅沢な時間でした。
トラブルの少ない本番とスムーズな撤収
大規模なネットワーク構成であったにもかかわらず、会期中に致命的なトラブルや大きな混乱はほとんど発生しませんでした。「ネットワークは動いて当たり前」と言われることもありますが、その「当たり前」を大規模イベントで実現できたのは、ひとえに事前検証での入念な準備と優秀なチームメンバーの方々による設計・サポートがあったからこそです。
最終日のプログラム終了後の撤収作業も、チームメンバーの皆様の素晴らしい連携のおかげで、驚くほどスムーズに完了しました。
祭りが終わるような一抹の寂しさを感じつつも、無事に大役を完遂できたという「やり切った感」で胸がいっぱいになりました。
学んだこと
今回のJANOG57 NOCとしての活動を通じて、ネットワークに関する技術的な知見はもちろんですが、それ以上に「姿勢」や「チームのあり方」について、精神面で非常に多くの学びがありました。文字にしてしまえば「当たり前のこと」ばかりかもしれませんが、実際の現場で様々なメンバーの方々と共に働き、生きた教訓として肌で感じたその重みは全くの別物でした。
1. 失敗したときこそ、即座にありのままを報告する
大晦日に検証環境を破壊してしまった時、私が一番学んだのは「即座にありのままを報告する勇気」の大切さでした。そして何より驚いたのは、チームメンバーの方々が誰かを責めるのではなく、事実ベースですぐに解決へ動き、事後には「本番前の良い教訓になったね」などと温かくフォローしてくださったことです。「ミスを恐れず挑戦し、起きたトラブルはチーム全体でカバーする」という、「心理的安全性が高いチーム」の強さを肌で感じました。
2. 「動いて当たり前」を支えるプロの執念
何千人ものインフラのプロが集まるJANOGという場で、当たり前のようにWi-Fiが繋がり、インターネットが使えたのは決して偶然ではありません。その裏には、泥臭い物理配線、果てしない検証作業、そして「絶対に退路を断たない」という運用者たちの凄まじい執念がありました。普段、研究室や個人の検証環境で「とりあえず動けばいい」というレベルで満足してしまう部分があった私にとって、社会のインフラを支えるエンジニアたちの圧倒的な責任感は、これからのキャリアにおける大きな指針になりました。
3. 分からないことは素直に「分からない」と言う
NOCチームには業界の第一線で活躍する方々ばかりで、最初は「学生の自分がこんな初歩的なことを聞いていいのだろうか」と萎縮しそうになることもありました。しかし、素直に質問することで、メンバーの方々は出し惜しみすることなく、生きた知識を全力で教えてくれました。今の自分の実力を受け入れ、チームを頼りながら貪欲に吸収していく姿勢の大切さを学びました。
これからNOCを目指す方へ
もし、この記事を読んで「NOC、気になるなぁ!」と興味を持っていたり、「自分にはまだ技術力が足りないかな⋯」と不安に思ったりしている方がいたら、声を大にして伝えたいことがあります。
迷っているなら、絶対に応募すべきです!
不安なこともあるかもしれませんが、強力なチームメンバーがサポートしてくれます。大切なのは「分からないことを恐れずに飛び込む勇気」と「最後までやり遂げる責任感」です。
NOC活動の最大の魅力は、「数千人の通信を支える責任」と、それを「楽しんで遂行するプロフェッショナルたち」と一緒に働けることです。
教科書や大学の講義では学べない、物理配線の設計や最新鋭の機器を用いた大規模ネットワーク構築、そしてトラブルシューティングの勘所まで、そのすべてがエンジニアとしての血肉になります。
私自身、応募時は技術力に自信があったわけではありません。それでも採用していただけたのは、きっと「やりたい!」という熱意を評価していただけたからだと思います。
次のJANOGでスタッフのユニフォームを着て会場に立っているのは、あなたかもしれません!
さいごに
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
JANOG57のNOCへの参加は、単なる技術習得の場を超え、エンジニアとしての視座を一段高くしてくれた、かけがえのない経験となりました。
右も左も分からない私を温かく迎え入れてくださったNOCチームの皆様、そしてこのような素晴らしい機会を提供してくださった運営委員・ホスト企業の皆様に、この場を借りて心より感謝申し上げます。
そして、現地で交流してくださった全ての皆様、本当にありがとうございました。
この場所で得た繋がりと経験を糧に、エンジニアとしてより一層成長できるよう邁進します。
皆さんも素敵なハッピーJANOGライフを!!!🌸
おまけ
参加時の私の𝕏の投稿など(本当に余談)
JANOGの次の日には「さくらインターネット×大阪大学 量子コンピューター見学会」に参加しました。普段触れない領域のお話を聞けてとても有意義でした!
最後になりますが、JANOG57会期中の3日間、「3DSのすれちがい通信」ですれちがえたのは1名でした!

出会いに感謝!
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