JINSテックブログ
🍣

AI vs 小学校受験

に公開

この記事は、JINS Advent Calendar 2025 の 23日目 の記事です。

自己紹介

初めまして、ジンズのShuと申します。

私はグローバルEW事業開発本部AI&DS部AI推進グループに所属しています。AIプロダクトの評価、導入推進などの業務を行っています。

はじめに

ChatGPTの登場以来、AIの能力は飛躍的に向上しました。司法試験や医師国家試験に合格するAIも現れています。しかし、もし「最新のAI」が小学校の受験会場に現れたらどうなるでしょうか?結論から言えば、AIは中学校受験よりも小学校受験の方に、高い「壁」を感じるはずです。

AIが「小学校受験」で直面する3つの壁

小学校受験の特徴は、大きく2点あると思われます
①筆記テストの問題は朗読で出題され、該当する絵を選んだり、印をつける
②制作、行動観察、運動、面接のように、「実体」が必要な科目がある

②では「AI」と言いながら、「実体」が必要と反則的なことを言っていますが、もしAIロボットが受験会場に行ったら、具体的にどのような場面でつまずくのでしょうか?

① 行動観察:空気を読む力
 多くの小学校受験では、集団でゲームをしたり、共同制作をする「行動観察」があります。初対面の子と協力して紙コップタワーを作る、ルールを守って遊ぶといった試験があります。AIには、一般論としての行動観察に対する注意事項は知っているかもしれませんが、実際の「その場の空気」や「暗黙の了解」が判断できません。「お友達が困っているから助ける」「譲り合う」といった、状況に応じた社会的情動スキルは、計算で導き出すのが最も難しい領域です。

② 運動・巧緻性:身体性の欠如
 クマ歩き、ボールつき、紐結び、箸使いといった内容。最新のロボット工学をもってしても、人間のように滑らかに、かつ初見の道具を器用に扱うことは困難です。ここには「身体を持って世界を学習する」という、人間にしかできないプロセスが含まれています。「自立」が求められていることだとは思いますが、「アイロンがけができること」を求める小学校もあるそうです。

③ ペーパーテスト(お話の記憶):
「お話の記憶」という、長い話を聞いて質問に答える試験があります。テキストデータがあれば解析できますが、口頭で語られる物語の「登場人物の気持ち」や「道徳的な教訓」を、常識(Common Sense)に基づいて推論することは、AIが苦手とする分野です。

音声認識技術と画像認識技術

先述の通り、小学校受験では、問題や指示を聞くための音声認識技術と画像認識技術が必須となります。
小学校受験に必要な、人の話を聞くための「音声認識技術」は長らく精度が課題でした。Amazon Echoが売られ始めたのは2017年ですが、会話の「単語」の認識が主で「文」を認識しづらかった経験があります。これが、2022年にWhisperが出てきて、一気に精度が上がり、実用性が上がりましたが、人の話を認識して、そのまま文字として出力する。だけでも技術的には難しかったことが分かると思います。
 2024年のノーベル物理学賞は、「人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にした基礎的発見と発明」に対して送られています。画像処理で応用が進んだ経緯があり、これはどちらかというと、筆記テストを受けるために必要な技術となります。
AIが得意な『図形問題』や『計算』では、AIが圧勝するだろうと思われます。ただ、シーソー問題など内容によっては、回答を間違えることもあります。特に、「画像からその意図を読み取る」ことは、質問回答Botなどでは、「スクリーンショットなどを貼ったマニュアルの意図が読み取れない」ように、まだ技術的な難易度が高い状況です。

「モラベック」のパラドックス

AI研究には「モラベックのパラドックス」という有名な逆説があります。「高度な推論(チェスや数学)を計算機にさせることは簡単だが、1歳児レベルの知覚や運動スキル(積み木やボール遊び)を身につけさせることは非常に難しい」まさに、小学校受験はこの「AIにとって難しい1歳児〜6歳児レベルの身体的・社会的スキル」の集大成と思われます。また、小学校側が求める「人物像」によって、筆記試験だけができても合格基準に達するとは限りません。AIの苦手な、社会性、情緒、正解のない「振る舞い」も評価の対象となります。現在のAI研究も、生成AIの性能を上げる方向性と、より人間らしく振る舞う、感性面に対する方向性が存在すると思います。

東ロボプロジェクト

国立情報学研究所の新井紀子教授らが主導した「ロボットは東大に入れるか(東ロボ)」プロジェクトはご存知でしょうか。プロジェクトは2011年から開始され、AIが東京大学の入試を突破できるかを検証しました。当時の技術では東大合格レベルには達しなかったものの、MARCHや関関同立などの難関私大には合格可能性80%以上の判定を出しました。
 ここで明らかになった当時のAIの弱点は、新井教授の著書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』でも語られている通り、AIは「計算」や「検索」は得意ですが、「意味を理解して文章を読む」ことが決定的に苦手です。AIは統計的に言葉を処理しているだけで、文章の背景にある常識や文脈(意味)を理解しているわけではないのです。また、重要な示唆として、「AIに負ける子ども」たちは、そもそも教科書を読めていない。テストでは質問の意図が理解できていない。ということが明らかになりました。
 社内の問い合わせ対応効率化のための、QABotの精度向上のために、実際の問い合わせ文を見ると、キーワード検索のような使い方で、質問の前提や意図がよくわからない文章を頻繁に目にします。また、Botが返した回答を、本当に理解してくれているのかも気になります。現時点では、AIの利活用には一定の言語能力が必要と思われます。

最後に

こうしてみると、小学校受験は案外、「AIが代替しにくい能力」を測っている試験だとも言えます。身体性(実際に体験し、動くこと)社会性(他者と協調し、共感すること)非認知能力(最後までやり抜く力、意欲、根性)これらは、生成AIがどれだけ進化しても、身体を持たない限り獲得できない能力です。

最後まで読んでいただきありがとうございました!
明日はbungoさんの「AI Readyなデータセットを事業会社で作る」の記事です。クリスマスまであと2日!素敵なクリスマスを!

JINSテックブログ
JINSテックブログ

Discussion