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Antigravityにエンジニアリングの未来を見た

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エンジニアが提示した設計図(What/Why)を基に、AIエージェントが自律的にシステム(How)を構築している様子のイラスト

はじめに

きっかけは、昨年の年末に妻から言われた一言でした。

「なんかいいファミリーカレンダーアプリないかな? 有名なやついくつか試したんだけど、どれも痒い所に手が及がないんだよね」

帯に短し襷に長し。既存のアプリでは、我が家の運用に微妙にフィットしない。エンジニアなら誰もが一度は経験する「それなら自分で作った方が早いのでは?」という衝動に駆られる瞬間です。

ただ、年末年始の休みを使ってゼロからコードを書くのは流石に腰が重い……。そこでふと、少し前に登場したGoogle DeepMindの新しいAIアシスタント「Antigravity」の存在を思い出しました。「Agentic(自律的)」なコーディング体験を謳うこのツールを使って、自分たちに最適なアプリを自作してみよう。そう思い立ったのが始まりでした。

結果から言うと、この体験は単なる「アプリ開発の効率化」を超えた、エンジニアリングの未来そのものを感じさせるものでした。

Antigravityとの開発体験:頼れる「相談相手」

これまでもGitHub CopilotなどのAIコーディングツールは日常的に使っていましたが、正直なところ「自分が実装するのと作業時間があまり変わらない」と感じてしまう場面も少なくありませんでした。
提案されるコードの精度が低く手直しが必要だったり、検証(テスト)までは行ってくれないため、結局人間がレビューと調整に多くの時間を割く必要があったからです。

しかし、Antigravityは違いました。

あいまいな相談に答えてくれるAntigravity

開発は、私のぼんやりとした要望をAntigravityに投げるところからスタートしました。「妻と共有できるシンプルなカレンダーが欲しい。既存のものはここが不満だ」という話を伝えると、Antigravityはすぐにタスクの洗い出しを始めました。

驚いたのは、その「道筋」の示し方です。

従来のチャットボットであれば、具体的なコードの断片を返して終わりかもしれません。しかしAntigravityは、不明点があれば私に質問し、仕様が曖昧な部分については「一般的なカレンダーアプリではこうですが、今回はどうしますか?」と提案してくれます。

もちろん、最初から100%完璧な提案が出てくるわけではありません。しかし、そこには明確に 「一緒に正解を探す」というプロセス がありました。

大雑把な指示でも実装を進めてくれるAntigravity

実装フェーズに入ると、その自律性はさらに際立ちます。私は大まかな指示を出すだけで、ファイルの作成、パッケージのインストール、そしてコードの実装までをAntigravityがほぼ独力で進めてくれました。気づけば、短期間で実際に動作するWebアプリが手元に完成していました。

https://github.com/hatchy8/nest-family-calendar/

アプリにスマホからアクセスした際の表示

"Agentic" なワークフロー:自律的に考え、動く

Antigravityを使っていて最も衝撃を受けたのは、そのワークフローが極めて人間的、あるいは「エンジニア的」であることです。

Plan -> Execute -> Verify のサイクル

彼(あえて彼と呼びますが)は、いきなりコードを書き始めません。
まず Plan(計画) を立て、実装内容を私に提案します。合意が取れたら Execute(実行) に移り、最後に Verify(検証) を行います。テストが通らなければ、自分でエラーログを読み、修正案を考え、再実行します。この自律的な修正ループこそが、"Agentic" と呼ばれる所以でしょう。

Task Boundary

作業中、画面には常に「今何をしているか」が表示されています。これは Task Boundary と呼ばれる概念で、AI自身が自分のタスク状態を定義し、ユーザーに共有するUIです。「認証機能の実装中」「バグの原因を調査中」といったステータスが見えるため、ブラックボックス化しがちなAIの挙動に安心感を持てました。

Artifacts:対話を超えた「成果物」の共有

もう一つ、体験を大きく変えたのが Artifacts の存在です。

ChatGPTなどのチャットUIで開発していると、重要な決定事項やファイルの内容がログの彼方に流れていってしまい、コンテキストを見失うことがよくあります。
Antigravityは、重要な情報を独立したドキュメント(Artifacts)として管理します。

  • task.md: 進捗管理。タスクを分解し、完了したものをチェックしていく。
  • implementation_plan.md: 実装計画書。これから変更するファイルとその内容をまとめたもの。

これらは単なるテキストファイルではなく、開発の進行に合わせてAIが自律的に更新し続ける「生きているドキュメント」です。これにより、複雑な要件でも迷子にならず、常に「今どこまで進んでいて、次は何をするのか」を共有しながら進めることができました。

エンジニアリングの未来:"How" から "What"、そして "Why" へ

この開発を通じて、私はエンジニアとしての役割が変質していくのを肌で感じました。

"How" から "What" へ

これまでのエンジニアリングは、「どう実装するか(How)」 に多くの時間と労力を割いていました。どのライブラリを使うか、どういう設計にするか、発生したエラーをどう解決するか。

しかしAntigravityのような存在が普及した未来では、"How" の大部分はAIが担うことになります。そこで人間に求められるのは、「何を実現したいか(What)」 を明確に言語化し、AIに正確に伝える能力です。
曖昧な「なんとなくいい感じにして」ではなく、解像度の高い「理想の姿」を定義できるかどうかが、成果物のクオリティを決めます。

そして "Why" の重要性

さらに実装コストが劇的に下がることで、重要さを増すのが 「なぜ作るのか(Why)」 という問いです。

「とりあえず作る」ことが容易になればなるほど、世の中には無数のプロダクトが溢れることになります。その中で価値を持つのは、強い動機や明確な目的意識 —— 「なぜそれを作るのか」「誰のために必要なのか」が深掘りされたものです。

今回の件で言えば、「既存アプリの不満を解消し、妻との共有をスムーズにしたい」という明確な Why があったからこそ、Antigravityという道具を使いこなすことができました。

おわりに

Antigravityに触れて感じたのは、AIに仕事を奪われる恐怖ではなく、「作りたいものを作れるようになる」というエンパワーメントの喜びでした。

エンジニアの仕事は、コードを書くことそのものから、AIという強力なリソースへのディレクション(言語化・指示・承認)と、プロダクトのコア価値(Why)の設計へとシフトしていきます。

「プログラミング」の定義が変わる瞬間に立ち会っている。そんな興奮を覚えた年末年始でした。

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