zenn本「レーザー回折式粒子径分布測定装置を使いこなす」を公開しました。
1.はじめに
みなさま初めまして(?)。このたび「レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置を使いこなす」という本(???)をZENN上で公開しました。この記事では、なぜ私がこれを書こうと思ったのかを書いています。
2.光散乱との出会い
大学の専攻は物理でした。電磁気学も連続体力学も量子力学もよくわからないまま、3年間が過ぎてしまい、どこの研究室に入ったらいいものやら迷いましたが、酔っぱらいの、面白そうな教授のいる研究室に入れば、何か面白いことを教えてくれるのではないか?と思い、「生体高分子物性」という研究室に入りました。生物学には、全く興味がなく、むしろ嫌いでした。筋肉のタンパク質を精製して、水溶液中に分散させ、そこにレーザー光を照射して散乱光強度を解析すると、タンパク質の大きさや形状、柔軟性まで推定できるという方法で、「動的光散乱法(DLS)」というやつです。このとき、散乱強度の自己相関関数の計算に使用していたのが、当時日本ではほぼ無名だった、英国の粒子径分布測定装置メーカーの相関計でした。「生物物理」という言葉も、今以上に無名でした。先生は普段は無口な方でしたが、酔った時だけは饒舌になるので、夕方になると実験台の上を片付けて、なべ料理などをこしらえて先生を迎え、生物物理の黎明期の話を聞くのが楽しみでした。先生が光散乱を始められたころの生物学では、顕微鏡で見えるもの以外は、なかなか受け入れてもらえず、いくら光散乱のデータを示しても、試験管内で重合させたタンパク質のフィラメントが柔らかいことを信じてもらえなかったそうです。「目に見えるものだけが真実なら、それは科学ではない。たとえ目に見えなくても、そこから得られる何らかのデータを基に、論理的に考え、真実だと言い切ることこそ科学だ」とおっしゃっていました。そんなわけで、光散乱は何か魅力的なものに思えていました。
3.開発で働く
特に行きたい会社は無かったのですが、兄に勧められて受けた会社の説明会で、「うちでもレーザー散乱やってるよ」と言われ、就職しました。超がつくほど不器用で、機械いじりは、したくなかったので商社への就職も考えたのですが、ある先生に「最低でも5年間は、モノ作りの仕事をしないと、仕組みがわからず、営業職についても、ものにならない」と言われ、修行と割り切って働きました。案の定、開発部というところは、モノ作りの天才ばかりで、図工「5」の人たちの集団でした。図工「2」しか取ったことない私は非常に肩身が狭く、毎週のように機械を壊して怒られていました。パソコンでのシミュレーションやデータ解析なら、まだよかったのですが、ドライバーや半田小手を握ると、ことごとく失敗していました。さすがに申し訳ないと思い、営業部への異動を希望したのですが、上司の方に「ドライバーを回すのだけが、モノ作りではありません。シミュレーションやデータの解析も立派なモノ作りです」と言って引き留めて頂き、なんとかモノづくりの基本中の基本だけは習得することが出来ました。
4.マーケティングで働く
リーマンショック後、転職した会社では、輸入した装置の国内マーケティングを行いました。開発時代は、営業から来た無理難題を断ると、「お前はお客のことを、全然わかっていない」と怒られたもんですが、マーケティングに来てからは、日本の要望を海外の本社に上げると、ことごとく却下され、逆の立場も味わいました。今回書いた本のユーザー視点での記述は、これらの経験が基になっています。
5.本を書こうと思った動機
驚くべきことですが、レーザー回折・散乱法においては、知る限りにおいて、体系的に記述された「教科書」がないのです。それも日本語の教科書がないだけでなく、英語でも見つかりませんでした。この装置が市場で使われ始めて、40年(?)も経っているのにです。このため、ユーザーは、メーカーの社員からのトレーニングに頼らざるを得ません。これらのトレーニングは、講師の知識量にばらつきがあるほか、メーカーごとに、自前の装置の長所を強調するあまり、何が正しいのか、ユーザーにはわからなくなってしまうこともあります。可能であれば、中立の立場の方に解説書を書いて頂くことが良いとは思うのですが、わざわざ、そんな面倒なことをする「ユーザー」は居ませんし、アカデミックの方でも、書くのが面倒な上、内容も学術的になり、実際の使用上の課題解決としては、不向きな面もあるかもしれません。そうなると、残された数少ない選択肢のうちの一つは、「元(?)メーカーの人間が、装置間の優劣に関する主観を排除して、知っている知識を淡々と書く」ということかと思いました。大学の先生に比べたら、専門知識のレベルは圧倒的に低いですし、アプリケーション面でもユーザーの使用方法、困りごとについて、全部把握しているわけではありません。不十分な内容になることは必須ですが、それでも「何もない」よりは、幾分マシかと思い、自分の知っていることを書き出してみることにしました。オンライン本であれば、間違いがあっても、指摘を受けた時点で修正することができますので。ZENNでは本の有料販売もできるようですが、こんな内容の薄い本で小銭をもらうより、多くの人に見てもらって、怒られながら、内容を修正して作り上げて、役に立つものに仕上げていく方が楽しいかと思い、この形での公開となりました。メーカー色を排除するため、図は全部自分で作りましたが、何せ図工「2」ですので、見栄えが悪いのはアタリマエですね。一番めんどくさいスクリーンショットの絵だけは、子供に500円渡して描いてもらいました。イヤイヤ描いていたので、見にくいと思います。すいません。
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