自治体DXが「無理ゲー」に見える理由とそれでも明日も戦うための考え方
🎯 この記事の対象読者
- 自治体・公共機関の職員さん(特にDX推進や情報担当の方)
- 自治体DXに関心のあるエンジニア・ベンダーの方
- 「なんで役所のシステムってこんなに変わらないの?」と疑問に思っている方
- 組織の壁にぶつかって、心が折れそうになっている全ての方
💡 この記事を読むと得られること
- 自治体DXを阻む「構造的な壁(ハードモードな理由)」の解像度がちょっぴり向上
- ガチガチの組織の中で、どうやってDXプロジェクトを進めるかの具体的なヒント
- 「自分だけじゃないんだ」という共感と、明日からまた頑張るための一呼吸
🚀 はじめに:なぜこの記事を書くのか
こんにちは。行政という仕組みがわりと本気で好きな作者です。
私は、行政というシステムはかなり大事な社会インフラ(縁の下の力持ち)だと思っています。
長く安定して続いてほしいし、そこで働いている実直な職員さんの業務が少しでも楽になってほしい。
職員さんに余裕ができれば、その分だけ住民さんのことを思う「余裕・時間」が増えます。そんな積み重ねで、社会はじわじわと良くなっていくはずだ、と信じています。
ここ数年、「自治体DX」という言葉を良く聞くようになりました。IT→ICT→DXみたいな言葉の変遷自体もそれはそれで興味深いですが、現場ベースで見ると、DX?「……正直、あまり進んでなくない?」 と感じることも多いと思います。
この記事では、私の経験をベースに、
- 自治体DXって、なんでこんなに進みにくいの?(絶望編)
- それでも、どうやったら少しずつ良くしていけるの?(希望編)
この2つを、あまり取り繕わずに書いてみます。
🏰 前提:行政は「数百年ものの石造りの城」である
まず前提として、行政と呼ばれる社会システムは一朝一夕にできたものではありません。
何十年、何百年という時間の中で、トライ&エラーを繰り返して築き上げられた、「堅牢な石造りの要塞」みたいなものです。
どんなに優秀な「DXエキスパート・スーパーマン」が入庁しても、この要塞の基礎・構造を一瞬で組み替えることはできません。大事なのでもう一度言います
「スーパーマンでも一気に変えられない」
この目線に立っておかないと、簡単に心が折れてしまいます。
なのでこの前提は超大事です!
😫 課題:自治体DXが「民間よりハードモード」な理由
「民間のDXだってしんどいよ!」という声もあると思います、一方で、自治体には自治体ならではの特殊なしんどさがあったりします。ざっくり言うと、このあたりが強烈にしんどいなと感じています。
1. 守備範囲が広すぎる & 「利益」という羅針盤がない
自治体の業務は、火葬場の運営から道路、水道、子育て、税金まで、「ゆりかごから墓場まで」フルコースです。
しかも、民間企業のように「利益」というわかりやすい指標がありません。
- 民間:「これをやれば利益が出る」→ 意思決定 → 振り返り → 改善
- 自治体:「利益は出ないけど必要」→ 優先順位どう決める? 効果測定どうする?
この「羅針盤のなさ」が、意思決定のスピードを鈍らせます。
さらに、「役所の中のこと(職員の効率化)にお金を使うなんて」というプレッシャーもあって、職員さんや内部の働きやすさ環境への投資は後回しになりがちです。
2. 環境も人も、3年おきにリセットされる
ここが、かなり厳しいポイントです。
- 予算と方針: 年度単位で決まる。首長が変われば方針もガラッと変わる。
- 職員(担い手): 多くの自治体で 3〜5年で強制的に異動。
典型的なローテーションの図
イメージですが、3/31まで下水道のプロだった人が、4/1から税金の計算をする世界です。
これでは、「DXに取り組む炎を灯した人がいなくなり、取り組みが自然消滅する」 という悲しいパターンが仕組みとして起きてしまいます。
3. 「無害化」という名の高い壁
エンジニアの方には、ここが一番イメージしやすいかもしれません。
自治体のネットワークは「LGWAN系」「個人番号利用事務系」などで、業務をする環境がインターネットから分離されているケースが多いです(いろいろありますが)。
年金流出を起こさせないという強い意志によるもので、セキュリティ上のメリットも大きいんですが、たとえば、外部のPDFファイルを1つ取り込むだけでも
「無害化処理」
が必要だったりします。
- 外部から来たPDFを「無害化フォルダ」に入れる。
- しばらく待つ(数十秒〜数分)。
- ファイルサイズが大きいとエラーで止まる。
- 情シス担当に電話して「すみません、手動でお願いします…」と頼む。
こんな環境だと、「ちょっと便利なSaaS触ってみよう」「GitHubのツール試してみよう」という気持ちは湧きづらいですよね。
その結果、外の世界の進化が役所の中にはとても入りにくくなっています。
✨ 解決策:それでも前に進むための「ランナー」戦略
ここまで読むと「詰んでない?」という気持ちにもなると思いますが、
それでも現場からできることはあります。
一回、DXを「最新技術の導入競争」ではなく、「現場の不安を一つずつ減らしていき走り続けるマラソン」くらいに捉え直してみてください。
そう考えると、やるべきことは結局この2つに集約されます。
- 「最初に走る人(ランナー)」を立てること
- 「走り続けられる仕組み」をつくること
1. 「冷え切った現場」を溶かすのは、技術ではなく「泥臭さ」
以前、あるシステム導入案件で、導入部署とシステム側の関係が半年間途切れた現場に入ったことがあります。
そのとき私がやったことは、「すごい要件定義」ではありません。
- とにかく顔を出す。挨拶する。雑談する。
- 「皆さんは、住民さんに迷惑をかけたくないだけなんですよね?」 と言葉にして共感する。
- 300ページ超の「現場専用マニュアル」を手作りする。
- 導入後も横に座って、一緒に画面を見る。手を動かす。
こんなふうに導入したシステムの「お世話」を一緒にしているうちに、最初は「外から来た異物」だったシステムが、少しずつ 「自分たちの部署のペット」 のように馴染んでいきました。
システム受容のプロセス
DX・デジタル化は、仕事を行う業務改革の側面もありますが、現場レベルで言うと、「システムを自分たちのものとして受け入れてもらうプロセス」 そのものです。
ここをサボると、どんな高性能なツールも使われません。
2. 「ランナー」を孤独にさせない仕組みを作る
「頑張る人」にだけ頼っていると、異動のタイミングで簡単に終わってしまいます。
だからこそ、仕組み化が必要です。
🏃♂️ ランナーを見つけて育てる
- バウチャー支援: IPAなどの試験費用や研修費を予算化し、「頑張る人」に機会を渡す。ランナーの候補を増やす。
- コミュニティ化: 庁内に「DXゆるふわ部」みたいな場を作り、ノウハウを「人」ではなく「場」に溜める。
こういう場があると、異動があっても 「人の基盤」 は残ります。
👟 走り続けるための「ランニングシューズ」
根性論だけで長距離は走れません。
- ロードマップ・計画: 2〜3年くらいの計画を引いておく。単年度で技術進歩を取り入れたいときはちゃんと策定の流れを定めておく。
- 見える化: 庁内会議や広報で成果をちゃんと出す。「去年やってたアレ」という一発屋で終わらせない。
- 評価と称賛: 小さな成功でも、首長や幹部からひと言褒めてもらう舞台装置を作る。ありがとう、の感謝が何事も大事です。
✅ まず一歩! 明日からできるアクション
いきなり全庁的な改革は難しいですが、このあたりなら明日からでも試せます。
-
毎日挨拶する部署を一つ決める
(そして「何か困ってることないですか?」と一言聞いてみる)
-
自分の業務のマニュアルを1ページだけ作ってみる
(属人化解消の、本当に最初の一歩)
-
庁内掲示板やチャットで「DXゆるふわ部(仮)」の仲間を募集してみる
(反応ゼロでも「やってみた」というログは残る)
-
隣の課のキーマンっぽい人に挨拶しに行く
(「最近どうですか?」だけでも、関係づくりの入口になります)
🔚 おわりに:小さな一歩が、大きな変化を生むと信じて
ここまで書いてきたことには、目新しい「魔法の一手」は全くありません。
「現場に通う」「マニュアルを作る」「コミュニティを作る」。
どれも、よく聞く、どこにでもある 「普通の施策」 です。
でも、「なぜ、あえてその泥臭い手を打つのか?」 という背景にある意味をちゃんと理解すると、同じ施策でも見え方が変わってきます。
-
単なる「マニュアル作成」ではなく、
「現場の不安を減らし、信頼という土台を作るための行動」だと捉えてみる。
-
単なる「雑談」ではなく、
「組織の壁を越えて、知の基盤を残すための行動」だと捉えてみる。
制度や組織、予算といった大きなシステムは、明日すぐに変えられるものではありません。
しかし、目の前の物事の 「捉え方」「見え方」「受け止め方」 を変えることは、自分の意思で、今この瞬間からできます。
ハードモードな環境を「理不尽な壁」と見るか、「挑戦しがいのある登山」と見るか。
その視点の転換こそが、自治体DXを前に進めるための、身近で強いエンジンかもしれないと思っています。自治体という石造りの城は頑丈ですが、あなたの小さな視点の変化と行動が、やがてその城の中に新しい道路をつくっていけると信じています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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