インフルエンサーとのタイアップ交渉をAIエージェントが自動化〜Infumatch〜
サマリ
着目課題
インフルエンサーの急増で最適な人材の選定と個別交渉に膨大な工数がかかり、担当者を圧迫している。
また、代理店利用時の高額な仲介手数料(20%~50%)が、施策全体の費用対効果を大きく低下させている。
解決方法
AIが最適なインフルエンサーを自動でリストアップし、人間のように自然な対話で交渉から成約までを代行。これにより、担当者の工数と代理店への中間マージンを大幅に削減し、マーケティング活動を自動化する。
プロジェクト情報
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デモサイト: https://infumatch-clean.vercel.app/
※アプリの公開状況がテストのため、ログイン時「Google hasn’t verified this app」と出ます、下部の「詳細/Advanced」からログインしてください。
テストアプリのため捨てアドレスでのログインを推奨します、セキュリティは保証しません。 - デモ動画:
[図表1: システムアーキテクチャ全体図]
使用要件技術
必須要件1: Google Cloud コンピューティングサービス
- ✅ Cloud Run: FastAPIバックエンドのホスティング
必須要件2: Google Cloud AIサービス
- ✅ Vertex AI: 高度な機械学習分析とカテゴリ分類
- ✅ Gemini API: 自然言語処理
はじめに
重要度を増すインフルエンサーマーケ市場
インフルエンサーマーケティングは、もはや「選択肢の一つ」ではなく、マーケティング戦略の「中核」となりつつあり、日本国内の市場は、2027年に1,302億円規模へ達すると予測されています。(2023年比で約2.2倍)
「検索(ググる)」から「発見」へのシフト
消費者の情報収集の起点が、検索エンジンからSNSへと移行しています。
AIOの影響: GoogleのAIO(AI Overviews)導入後、国内マーケターの約6割が「自然検索からのサイト流入が減少した」と回答。従来のSEOに依存した集客モデルのリスクが顕在化しています。
出典: 株式会社キーワードマーケティング プレスリリース(2025年5月)
購買行動の変化: 消費者は「探す」のではなく、SNS上で「出会う」ことを求めています。特にTikTok Shopの日本上陸はこの流れをより加速させるでしょう。
増大するマーケターの負担
一方で、インフルエンサーの増加とマイクロ化から、「効果は高いが、手間とリスクも高い」という新たなフェーズに突入しており、以下のような課題に直面しています。
- スケール問題: インフルエンサーの増加とマイクロ化→発見の困難さ
- 工数増大: 1社あたりのインフルエンサー選定・交渉にかかる時間
- 交渉の非効率性: メール往復の時間消費、インフルエンサー毎に個別対応の必要性
- 品質のばらつき: 人的判断による成果の不安定性
- 仲介業者経由の費用対定価: ディレクション手数料として、インフルエンサー報酬の20%〜50%が上乗せされるのが一般的
「月間100人のインフルエンサーとの交渉が必要なのに、担当者は1人しかいない。」これが現実です。
この問題を解決するため、InfuMatchを開発しました。AIエージェントが人間のように自然な交渉を行い、インフルエンサーマーケティングを完全自動化するプラットフォームです。
ソリューション概要: InfuMatch
アプローチ
従来の手法: インフルエンサー手動検索 → 個別メール交渉 → 成約(数週間)
InfuMatchの手法: インフルエンサーAIピックアップ → AI交渉エージェント → 成約
他手法対比のメリット
- 代理店活用: 手数料発生によるROI低下、代理店担当者の品質に大きく依存。
- IFマーケツール活用: 数万円〜数十万円の利用費用。1日あたりのDM送信数が限られる。自身でIFをピックアップするのが手間。自動交渉機能なし。
→中間マージンを抑えつつ、自身でのIFピックアップ・交渉の手間を大幅に削減することが可能。
3つのAIエージェントによる分業システム
- データ前処理エージェント: YouTube APIとVertex AIによる高度分析
- マッチングエージェント: 企業ニーズと最適なインフルエンサーの自動マッチング
- 交渉エージェント: 人間らしい自然なコミュニケーションによる自動交渉
システムアーキテクチャ
全体設計図
[図表1: システムアーキテクチャ全体図]
Mermaid図を配置予定
システム全体の情報の流れ
データ収集層: YouTube Data API v3がCloud Functionsで定期的にインフルエンサーデータを収集し、Cloud Schedulerがこの処理を自動化 ※自動収集は現在OFF
AI処理層: Pub/Sub Queueで非同期処理を管理し、Vertex AIを活用したデータ前処理エージェントがデータを高度分析。結果はFirestore(リアルタイムDB)とBigQuery(分析DWH)に保存
マッチング・交渉層: Gemini APIを使用したマッチングエージェントが最適な組み合わせを提案。Gemini 1.5 Flashを活用した交渉エージェントがGmail APIやSendGridで自動メール送信
プレゼンテーション層: Next.jsフロントエンド(Vercelホスティング)がCloud Run上のFastAPIと連携し、全エージェントを統合管理
AIエージェントの技術的深掘り
エージェント1: データ前処理エージェント
YouTubeチャンネルの生データを高度に分析し、マッチングに必要な構造化データに変換します。
この際、連絡用のmailも合わせて抽出。
データ前処理エージェントの高度分析システム
データ前処理エージェントは、YouTubeチャンネルの生データを高度に分析し、マッチングに必要な構造化データに変換。
主要な処理フロー:
- Vertex AIによるカテゴリ自動分類 - チャンネルの動画内容を分析し、カテゴリに自動分類
- Gemini APIによるコンテンツ品質評価 - 動画の品質、一貫性、視聴者エンゲージメントを総合評価
- エンゲージメント率予測モデル - チャンネルデータからエンゲージメント率を予測
- ブランドセーフティ評価 - 企業コラボレーションに適したチャンネルかどうかを判定
高精度メール抽出の技術的工夫:
Vertex AIを活用した高精度メール抽出システムでは、単純な正規表現ではなく、AIがYouTubeチャンネル説明文の文脈を理解し、ビジネス用途に適したメールアドレスを特定します。
[図表2: データ前処理フロー図]
データ前処理の詳細プロセス
1. YouTube APIデータ収集システム
チャンネル情報の包括的収集:
- 基本メタデータ: チャンネル名、説明、登録者数、総再生回数、動画数
- サムネイル情報: 最新画像の収集と保存(100%取得率目標)
- 最新動画データ: 過去30日間の動画タイトル、説明、再生回数、コメント数
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エンゲージメント指標: いいね率、コメント率、シェア率の計算
2. Vertex AIによる高度カテゴリ分析
カテゴリの分類システム:
- メインカテゴリ: ゲーム、料理、ビジネス、エンタメ、美容、テクノロジー、ライフスタイル
- サブカテゴリ: 各メインカテゴリをさらに3-5の細分化カテゴリに分類
- 信頼度スコア: 0.7-0.9の高精度でカテゴリ適合性を数値化
- クロスカテゴリ対応: 複数カテゴリにまたがるコンテンツも適切に分類
3. 高精度メール抽出システム
Vertex AIコンテキスト理解技術:
- 文脈理解:
- 信頼度スコア付与
- 用途分類
- 品質フィルタリング
この精密なデータ前処理プロセスにより、後続のマッチング処理の精度向上に貢献しています。
エージェント2: マッチングエージェント
企業のキャンペーンニーズと最適なインフルエンサーを高精度でマッチング。
マッチングエージェントの高精度アルゴリズム
[図表3: マッチングアルゴリズム詳細図]
3段階の最適化プロセス:
- Firestoreによる高速データ処理 - 収集したインフルエンサーデータから、基本条件に合致する候補を高速抽出
- Vertex AIによる多次元スコアリング - 登録者数、エンゲージメント率、コンテンツ品質、ブランド適合性など複数の指標を総合評価
- Gemini APIによる最終最適化 - 計算されたスコアをもとに、最終的な推奨順位を決定
高度なニーズ分析システム:
Gemini APIを活用したキャンペーン分析では、企業から提供される商材、予算、ターゲット、目的の情報を深く分析し親和性を自動判定します。
エージェント3: 交渉エージェント(最重要)
リアルタイム自動返信システム(核心機能)
InfuMatchの最大の特徴は、Gmailと連携した完全自動返信システムです。新着メールを検出すると、AIが内容を分析し、5段階の高度処理を経て、自然な返信文を自動生成・送信します。
[図表4: リアルタイム自動返信フロー図]
Gmail監視システムの自動化メカニズム
フロントエンドで稼働するGmail監視システムは、60秒間隔で新着メールを検出し、完全自動返信を実現する革新的なシステムです。
5段階の自動処理フロー:
- Gmail API新着検出 - 60秒ごとに新着メールを自動チェック
- 自己メール検出システム - 自分が送信したメールを判定し、無限ループを防止
- 文字化け対応デコード - UTF-8エンコーディングで日本語メールを正確に解析
- AI自動交渉API連携 - メール内容をAIが分析し、適切な返信文を生成
- 自動返信送信 - 生成された返信文を自動的に送信
技術的な工夫ポイント:
- 無限ループ防止機能 - 送信者の識別により、自分宛メールへの自動返信を防止
- 文字化け完全対応 - 日本語メールの特殊文字や絵文字も正確に処理
- コンテキスト情報統合 - 企業設定、カスタム指示、会話履歴を総合的に反映
- 60秒間隔監視 - リアルタイム性と、API制限のバランスを取った最適な監視間隔
このシステムにより、従来の手動メール対応(1日数時間)から完全自動化(0分)への革命的な効率化を実現しています。
5段階AI処理システムの高度分析
バックエンドで動作する5段階AI処理システムは、Gemini 1.5 Flashを活用して人間レベルの自然な返信文を生成します。
5段階の詳細処理フロー:
Stage 1: スレッド分析
- Gemini 1.5 Flashによる受信メールの総合分析
- メール種別の自動判定(ビジネス提案、システム通知、個人メール等)
- 返信適切性の評価(推奨、不要、要注意の3段階判定)
Stage 2: 戦略立案
- カスタム指示(「丁寧に」「積極的」「値引き」等)の反映
- 企業設定(会社名、商品、方針)の統合
- 基本アプローチとトーン設定の決定
Stage 3: コンテンツ評価
- リスク分析とブランドセーフティ評価
- 返信内容の適切性スコア算出
- 法的・倫理的問題の事前チェック
Stage 4: 3パターン生成
- Collaborative: 協調的で親しみやすいアプローチ
- Balanced: バランスの取れた標準的なアプローチ
- Formal: フォーマルで丁寧なアプローチ
Stage 5: 基本返信&理由生成
- 最適パターンの選択(通常はBalanced)
- AI思考過程の詳細記録
- 返信内容の最終調整と品質保証
処理時間と品質管理:
全5段階の処理時間は平均1-2分で、各段階の処理状況がリアルタイムでフロントエンドに表示されます。エラーが発生した場合も詳細なログ記録により、問題の迅速な特定と解決が可能です。
交渉エージェントは人格設定をはじめ、さまざまなを設定できるようにしています:
人間らしさを演出する技術的工夫:
- 意図的な不完璧さの導入 - 1%の確率でタイポを入れ、完璧すぎるAI文章感を回避
- 自然な改行とレイアウト - 人間が実際に入力するような改行位置と段落構成
- 返信タイミングの人間的制御 - 営業時間外は返信せず、昼休み時間も考慮した自然な返信タイミング
- 署名の手打ち風演出 - テンプレート感を排除した自然な署名スタイル
これらの工夫により、受信者にAIが自動生成したメールだと気づかれることなく、自然な人間同士のビジネスコミュニケーションを実現しています。
今後の展望
スケーラビリティ
短期目標(3ヶ月):
- データ増大(数百→数十万)
- 新カテゴリ(TikTok、Instagram)対応
- 交渉エージェント精度向上
- マッチング精度向上
中期目標(1年):
- より高度な交渉戦略学習
- リアルタイム市場動向反映
- 全SNSプラットフォーム統合
進化する機能:
- 継続学習モジュール: 過去の交渉結果から成功パターンを学習・進化
- リアルタイム市場分析: 市場動向を即座に反映した交渉戦略
- パーソナリティ適応: 相手の性格や好みに合わせた交渉スタイルの自動調整
自己進化メカニズム:
過去の交渉履歴から成功要因を分析し、新しい交渉戦略に自動反映することで、時間の経過とともに交渉スキルが向上するシステムを目指しています。これにより、人間の経験豊富な営業担当者を超える交渉能力の実現を目指します。
まとめ
InfuMatchは単なるハッカソン作品ではなく、リアルタイム自動返信システムという革新的技術でインフルエンサーマーケティング業界を変革する実用的なプロダクトです。
技術的成果(自動返信システムの革新)
- 完全自動メール対応: Gmailと連携した60秒間隔の新着検出〜返信送信の完全自動化
- 5段階AI処理システム: Gemini 1.5 Flashによる人間レベルの文章生成
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人間らしさの技術実装:
- 文字化け解決によるメール内容正確解析
- 無限ループ防止の多段階検出システム
- Reply-To優先の適切な返信先判定
- Google Cloud活用: Cloud Run、Vertex AI、Gemini APIの効率的統合
InfuMatchの自動返信システムは、単なる効率化ツールを超えて、働き方そのものを変革し、人間がより人間らしい価値創造に集中できる未来を実現します。
Discussion