海賊版アダルトゲームに仕込まれたマルウェアの話(観測レポート)
はじめに
マルウェアサンドボックスサービス「Triage」で検体を漁っていたところ、面白いサンプルを発見しました。日本のユーザーがANY.RUNに提出していた検体で、Steamで販売されているアダルトビジュアルノベルゲームの海賊版にマルウェアが同梱されていたケースです。
技術的には特筆するほど高度ではないのですが、ソーシャルエンジニアリングの観点から「なるほどな」と思わされる点がいくつかあったので、観測レポートとして共有します。
検体概要
| 項目 | 値 |
|---|---|
| ファイル名 | femdom-first-timers.exe.exe |
| SHA256 | CB16AB1F1E8365B9B6149C421EC33C9DAC7D8D3819B56DFFDFDF6E9A010888F8 |
| サイズ | 2.4MB |
| VirusTotal | 46/76検出 |
| 分類 | Trojan / Dropper(Advanced Installer製) |
元となったゲーム「Femdom First Timers」は、Lune-soft開発・Cherry Kiss Games発売のビジュアルノベルで、2026年2月20日にSteamで正規リリースされたタイトルです。
アーカイブの構造
検体は710MBのRARアーカイブとして配布されていました。中身を見てみましょう。

Femdom_First_Timers.7z (実際はRAR5, 710MB)
├── femdom-first-timers.exe.exe ← 🔴 マルウェア (2.4MB)
├── femdom-first-timers.py ← 正規Ren'Pyランチャー
├── femdom-first-timers.sh ← 正規Ren'Pyランチャー(Linux用)
├── README.md
└── Game/
├── archive-FILES.7z ← ゲーム本体(Ren'Pyエンジン一式)
├── archive.rpa
├── gui_resource.rpa
├── LICENSE.txt (Ren'Py MITライセンス)
└── [Ren'Pyスクリプト群...]
ここで注目すべき点は2つあります。
1つ目:本物のゲームが丸ごと入っている
アーカイブ内にはRen'Pyエンジン一式と正規の実行ファイルが含まれており、Ren'Pyのログからビルド日がSteam発売日(2026-02-20)と一致していることから、Steamの正規品をそのまま流用していることが確認できます。
2つ目:正規EXEとマルウェアEXEが並置されている
展開後のディレクトリには、正規のRen'Pyランチャーとマルウェア(femdom-first-timers.exe.exe、二重拡張子)の2つのEXEが存在します。
ここからは、あるユーザーの視点で
被害者の導線
掲示板やDiscordで海賊版リンクを見つけたユーザーは、アーカイブを展開し、.pyファイルやGameフォルダが並ぶ「それっぽい」ディレクトリ構造を見て安心します。

※イメージ: Windowsのデフォルト設定(拡張子非表示)での表示
Windowsのデフォルト設定では拡張子が非表示のため、2つのEXEが同じ名前に見えます。サイズの大きい方が「本体」に見えるため、マルウェア側を実行してしまう——これが攻撃者の狙いです。
感染

※イメージ: 実行直後の画面
実行すると、Advanced Installerで作られた見た目それっぽいインストーラーUIが表示されます。「ゲームをインストールしています...」という進捗バーが動いている裏で、マルウェアは以下の処理を行います。

※イメージ: インストール中の画面
- ゲーム本体のインストール(デコイとして正規ゲームを配置)
- PowerShellがバックグラウンドで起動
- BunnyCDN(
main45.b-cdn.net)からMicrosoftEdgeUpdateTaskMachineCoreB.msiをダウンロード - MSIをサイレントインストール(
msiexec.exe /qn /norestart) -
C:\ProgramData\Microsoft\NetFramework\olecli32ba_Win.dllがドロップされる -
rundll32.exe経由でDLLが実行される — SectopRATの起動
「MicrosoftEdgeUpdate」という名前で、あたかもEdgeブラウザのアップデートコンポーネントのように偽装しています。タスクマネージャーを見てもrundll32.exeが動いているだけで、一般ユーザーには気づけません。
何が盗まれるのか
SectopRATは2019年に初めて観測されたRAT(Remote Access Trojan)で、以下の情報を窃取します。
-
ブラウザの保存パスワード — Chromeが
--no-sandboxオプション付きで起動され、保存された認証情報が抜かれる - 暗号通貨ウォレット — ウォレットファイルへのアクセスが確認されている
- インストール済みソフトウェア一覧 — レジストリから列挙
- 接続ドライブ情報 — 外付けHDDやUSBメモリを含む全ドライブをスキャン
窃取したデータは 179.61.145.140:9000 に送信されます。
さらに興味深いのは、users.cherrykiss.club:6000 というAPIへの通信が確認されている点です。Cherry Kiss Gamesの正規ドメインは cherrykissgames.com であり、cherrykiss.club は検索エンジンにもインデックスされていない別ドメインです。ゲーム発売元の名前に似せた攻撃者のインフラである可能性が高く、感染数の管理に使われていると推測されます。(※あくまで推測)
その後

※イメージ: インストール完了の画面
一見インストールが正常に完了したように見えますが、バックグラウンドではSectopRATがrundll32.exeとして静かに動き続けています。ブラウザに保存したパスワード、暗号通貨ウォレット、その他の情報が、あなたの知らないうちに海外のサーバーに送られています。
おわりに
技術分析の所感
Ghidra静的解析の結果、インストーラー本体は以下の特徴を持っていました。
- ネイティブx86 PE(VTはMSILZillaと判定していましたが、実際は.NETではありません)
- Advanced Installer(Caphyon) で構築
- 579個のAPI imports、34個の不審API(VirtualAlloc, CreateProcessW, InternetOpenW等)
- ビルドパスの漏洩:
C:\JobRelease\stubs\setup\eventsystem\MsiBaseInstaller.cpp
正規ゲームのコードには一切手を加えず、マルウェアのEXEを横に置いただけ。攻撃コストは極めて低い。
Triageのサンドボックスの動的解析で、Stage 2の全容も判明しました。
インストーラー実行
→ PowerShell → BunnyCDN(main45.b-cdn.net)からMSIダウンロード
→ msiexec.exeでサイレントインストール
→ rundll32.exeでSectopRAT DLL実行
→ C2通信 (179.61.145.140:9000)
→ Chrome --no-sandbox で認証情報窃取
正規のWindowsバイナリ(msiexec.exe、rundll32.exe)を連鎖させるLiving Off the Land手法と、BunnyCDNという正規CDNサービスをペイロードホスティングに悪用する点は、インストーラー自体の「雑さ」とは対照的に洗練されています。
ソーシャルエンジニアリングとしての巧みさ
技術的には雑ですが、ソーシャルエンジニアリングとしては理にかなっています。
本物のゲームを同梱する理由:
- torrentやフォーラムで「動いたよ」というレビューが付く
- 次のユーザーがそのレビューを見て安心してダウンロードする
- 710MBのアーカイブサイズが「本物のゲームが入っている」感を演出する(マルウェア自体は2.4MB、残りは正規ゲームファイル)
被害者が声を上げにくい構造:
- 海賊版のダウンロード自体が違法行為
- アダルトゲームなので更に言いにくい
- 「クラック版だからウイルス対策ソフトが誤検知してるんだろう」と警告を無視しがち
結論
海賊版をダウンロードしている時点で自業自得なので、ちゃんと正規版を買いましょう。
当然のことですが、有料版で提供されているのならお金を払ってプレイするべきです。
Steamで数千円のゲームを買うか、マルウェアに感染するリスクを取るか。コスパで考えれば正規品を買う方が圧倒的に安いですね。
今回はゲームでしたが、Adobe製品やOffice製品のクラック版として公開されているようなツールにマルウェアが同梱されているパターンもあります。
攻撃手法としては「フォルダに別のEXEを追加しただけ」という非常に雑なソーシャルエンジニアリングですが、その裏側ではBunnyCDNによるペイロードホスティング、Microsoft Edge Updateへの偽装、rundll32.exeによるLiving Off the Land実行、そして正規ドメイン(cherrykissgames.com)に似せたcherrykiss.clubでの感染追跡APIと、インフラ面はそれなりに作り込まれています。
入口は雑でも中身は本格的。ターゲット層(海賊版を求めるユーザー)のリテラシーを考えると、入口の雑さで十分に機能するのでしょう。
IOC
# Malware Installer (Stage 0)
SHA256: CB16AB1F1E8365B9B6149C421EC33C9DAC7D8D3819B56DFFDFDF6E9A010888F8
# SectopRAT DLL
Path: C:\ProgramData\Microsoft\NetFramework\olecli32ba_Win.dll
Execution: rundll32.exe olecli32ba_Win.dll, ApiNet
# C2 / Infrastructure
179.61.145.140:9000 # SectopRAT C2
main45.b-cdn.net # ペイロードホスティング (BunnyCDN)
users.cherrykiss.club:6000 # 感染追跡API(正規ドメインcherrykissgames.comとは別物)
dns-providersa2.com # チェックイン
# URLs
https://main45.b-cdn.net/new26/MicrosoftEdgeUpdateTaskMachineCoreB.msi
http://179.61.145.140:9000/wmglb
http://users.cherrykiss.club:6000/api/getOne/699b742891faeed3cb59ca2a
参考
- ANY.RUN Analysis — 日本のユーザーによる提出
- Triage Analysis — 検体の発見元
- VirusTotal Analysis
- Femdom First Timers - Cherry Kiss Games (Steam)
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