一人法人で6チームのAIエージェント組織を設計・実装した話
この記事は Trimora 公式サイトで公開した記録の技術詳細版です。
正本はこちら:創業初年度にAI組織を設計した理由 — 6チーム体制の構築記録
この記事の概要
創業初年度の一人法人で、AIエージェントを6チーム構成で設計・実装した。本記事では、アーキテクチャの設計判断、チームの分離方針、実装上の工夫について記録する。
経営的な背景や思想面については、noteの記事で別途公開している。
アーキテクチャの全体設計
ルーティング構造
経営者(CEO)からの指示を統括AI(COO)が受け取り、適切な専門チームにルーティングする構造を採用した。
CEO(経営者 / 最終判断・承認)
│
▼
COO(統括AI / タスク振り分け・成果統合)
│
├── クリエイティブ(動画・Web・ツール制作)
├── セールス(案件管理・見積・契約書)
├── マーケ(ブログ・SNS・市場調査)
├── ストラテジー(経営戦略・財務・判断記録)
├── ガバナンス(品質チェック・法務)
└── トリア(バッチ処理・量産・自律実行)
ポイントは、経営者が各チームに直接指示を出さない点にある。COOがハブとなることで、複数チームの並行起動や成果の統合が可能になる。
なぜ直接呼び出しではなくハブ型にしたか
初期は「用途ごとに別のAIセッションを使い分ける」運用を試した。しかし、以下の問題が発生した。
- コンテキストの断絶: チーム間で共有すべき情報(案件状況、ブランド方針等)が伝達されない
- 振り分けの認知負荷: 経営者がどのチームに振るべきか判断する必要がある
- 並行処理の困難: 複数チームに同時に依頼する手段がない
COOを介在させることで、これらの問題を解消した。自然言語で指示を出すだけで、COOがトリガーワードやコンテキストから適切なチームを自動的に選択する。
チーム分離の設計判断
制作とチェックの分離(ガバナンス独立)
内部統制の基本原則「実行と監視の分離」をAI組織にも適用した。制作チーム(クリエイティブ)が生成した文書を、別のチーム(ガバナンス)がチェックする構造である。
当社ではこの判断を採用した理由は、同一セッション内で「作成→チェック」を行うと、自身の出力に対するバイアスが働き、チェックが形骸化するリスクがあるためである。独立したチームとして起動することで、チェック時のコンテキストを制作時と切り離している。
制作と量産の分離(トリア独立)
「初回設計・テンプレート作成」と「量産・バッチ処理」を別チームに分けている。
- クリエイティブ: 新規テンプレートの設計、初回の制作物作成
- トリア: 判断済みのタスクを効率的に繰り返し実行
この分離により、制作チームが単純な繰り返し作業に時間を取られることなく、設計や品質に集中できる。トリアは「対話不要・手順確定・短時間で完結」するタスクに特化している。
実装上の工夫
トリガーワードによる自動振り分け
各チームに対応するトリガーワードを設定し、COOが指示文を解析して自動的にルーティングする仕組みを構築した。
| チーム | トリガーワード例 |
|---|---|
| クリエイティブ | 「動画」「サイト」「ツール」「作って」 |
| セールス | 「見積もり」「提案書」「案件」「契約書」 |
| マーケ | 「記事」「投稿文」「調べて」「分析して」 |
| ストラテジー | 「融資」「事業計画」「決定を記録」 |
| ガバナンス | 「確認して」「チェックして」「リーガル」 |
| トリア | 「キューに入れて」「全部レンダリング」「バッチ」 |
明示的に「〇〇チームに頼んで」と指定することも可能にしている。複数チームにまたがる場合はCOOが並行起動して成果を統合する。
権限委任の3段階設計
すべてのタスクに対し、3段階の委任レベルを設けている。
| レベル | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| L1 | 実行のみ委任 | テンプレートに沿って文書を作成 |
| L2 | 途中判断も委任 | 選択肢がある場合にAIが判断して進行 |
| L3 | 全権委任 | 判断からデプロイまで自律的に実行 |
トリア(量産チーム)はL3で運用しているが、対外文書の最終承認はL1(経営者の確認が必須)としている。
経営判断の4点セット記録
ストラテジーチームが経営判断を記録する際、以下の4項目を必ず含めるルールを設けている。
- 背景: なぜこの判断が必要になったか
- 選択肢: 検討した代替案
- 採用理由: なぜこの選択肢を選んだか
- リスク: この判断に伴うリスクと対策
これにより、後から振り返った際に「なぜそう判断したか」が追跡可能になる。
段階的な構築プロセス
一度に6チームを立ち上げたわけではなく、3つのフェーズで構築した。
Phase 1 — 組織図の確定
必要な機能を洗い出し、6チームの役割を定義した。この時点ではAIは1つの窓口で動いており、チームとしての分離は行っていない。
Phase 2 — 専門チームの実装
各チームに専門のスキル(実行手順書)を作成し、トリガーワードで自動振り分けする仕組みを構築した。
Phase 3 — フル稼働
全チームが独立して稼働し、自然言語での指示だけで適切なチームが自動的に対応する状態を実現した。
全体で約2週間を要した。最も時間がかかったのはPhase 1の機能定義で、「何をAIに任せ、何を経営者が判断するか」の線引きに多くの議論を費やした。
運用して気づいたこと
コンテキストの持続性が重要
チームが増えるほど、横断的な情報(ブランド方針、価格体系、クライアント情報等)の共有が課題になる。当社では共通の設定ファイルを用意し、全チームが参照できる構造にしている。
チェック機能は独立させてよかった
ガバナンスチームを独立させた判断は正しかったと考えている。制作チームが「いい感じにできた」と判断した文書でも、ガバナンスチームが禁止表現や事実誤認を検出するケースがある。
段階導入が現実的
最初から全チームを完成形で作ろうとすると、設計だけで時間を消費する。1チームずつ動かしながら改善するアプローチの方が、結果的に品質の高い組織になった。
まとめ
一人法人でAIエージェントを組織として設計・実装した。設計上の判断として重視したのは以下の3点である。
- 機能分化: 何をする組織かを先に定義し、専門性を持たせる
- 制作と管理の分離: 実行する機能と監視する機能を分ける
- 段階的構築: 動くものを作りながら改善を重ねる
この体制が最適解かどうかは、まだわからない。事業の成長に伴い、人の採用が必要になる局面は来る。しかし、AI組織が先に動いていれば、「どこに人が必要か」の判断精度は上がると考えている。
以上
正本では経営判断の全体像を、noteでは背景にある思想を、それぞれ別の切り口で公開しています。
よければご覧ください。
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