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リモートワーク下におけるマネジメントについて、古代ローマ帝国史から学ぶ

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はじめに

自分が若い頃、ビジネスにおいて歴史から学べることは多くあるのだ、という謎の理屈を捏ねては、歴史書籍を読み漁っていた時期がある。その中の書籍に、塩野七生「ローマ人の物語」がある。カエサル等、煌びやかな皇帝たちが登場する中、自分の中でとりわけ印象に残っていたのが、ローマ帝国の第2代皇帝であるティベリウスである。

ティベリウス - Wikipedia

特筆すべきは、彼は治世後半にカプリ島に引きこもり、約11年間もの間、カプリ島から膨大な書簡を発し続けるだけで、ローマ帝国を統治した点で、そこに強い興味をひかれていた。で、コロナ禍以降のリモートワークが始まった頃にマネジメントに従事していた自分は「まるでティベリウスのようだな」と思いを馳せていた。

現代において、多くのマネジメントに関わる人たちが、「部下が目の前にいない状態でどうチームを率いるか」という問題に向き合い業務を遂行しているが、インターネットの普及もしていない遠い昔、約2000年も前に実践していた人物がティベリウスなのである。

11年間の「リモート統治」

ティベリウスが67歳のときにカプリ島へ移り住んでいる。そして亡くなるまでの約11年間、ローマに戻ることなく、カプリ島から膨大な書簡を発し続け、政策の指示、裁判への介入、属州総督への命令等を行ってローマ帝国を統治した。書簡の発信だけで、ローマ帝国は安定を保ち続け、財政は健全で、大きな反乱も起きず、国力も富んだとのことである (約27億セステルティウスという莫大な余剰金が国庫に残されていた)。現代でいうと社長が会社に現れることはないが、定常的にメールが来て、マネジメントラインがそれにコントロールされて会社を11年間順調に運営するということを、もっと大規模にやってのけたということになる。物理的に離れたリーダーが文書を通じて方針を示し、組織を動かすことは、現在のリモートワークがシンクロする部分ではないかと考える。以前から深堀したいと思っていたので、新しいAIエージェントOpus4.6さん(Claude Code)と壁打ちしてみた。

ローマ帝国統治から現代のリモートワークに活かせるポイント

現代のリモートワークに活かせるポイントはないか聞いてみた。帝国統治=長期に渡る組織の安定運用が正しいという視点に立つ。その視点が正しくないかもしれない。

成熟した制度基盤

カプリ島に移った時点で、ローマ帝国には、行政・税制・軍事の制度が確立されていた。皇帝が逐一指示を出さなくても日常業務は回る状態にあり、この制度をいじらず、信頼して活用した。

リモートワークの成否は、移行前の制度設計で大部分が決まる。
・業務プロセスを「誰がやっても同じ結果が出る」レベルまで言語化する。
・ナレッジベース (Notion, Confluence等)を「チームの法律」として運用する。ローマ帝国の法制度のように、迷った時に参照できる共通基盤を持つ。

前任者のやり方を否定せずに、うまく機能している部分は手を入れずにそのまま活用する。とかく権力を持つと組織を変えたり手を入れようとする風潮がありがち。

戦略的な長期任用

有能な人材を長期間同じポストに据え続け、頻繁に交代させない。頻繁に交代させると、新任者がその都度私腹を肥やそうとするため、長期間同じ人物に任せた方が属州の民にとって負担が少ない。

・プロジェクトのリーダーやドメインオーナーを頻繁に入れ替えない。特にリモート環境では、引き継ぎコストが対面以上に高い。「この領域のことならこの人」という信頼の蓄積を大切にする。
・現場に権限を委譲し、判断してよい範囲を明確にする。チームリーダーが自分で決められる範囲を事前に合意しておく。
・「任せる」と「放置する」は違う。方針は示し続ける。定期的な1on1や方針共有を通じて、委譲と関与のバランスを保つ。

非同期コミュニケーション

現代のリモートワークにおいて、SlackやTeamsでの即時応答を求める文化は、実はリモートの利点を減少させる面がある。すべての議論をリアルタイムの会議で行うのではなく、ドキュメントベースで提案と意思決定を行い、本当に即時性が必要な場面だけ同期的にやり取りする。そうすることで判断の質が上がり、各メンバーが深い思考に集中できる時間が確保される。

・「すぐ返信しなければ」というプレッシャーからチームを解放する。Slackのステータスに集中時間を明示する、「即レス不要」をチームの共通ルールにするなど、非同期を前提とした文化を意図的に設計する。
・重要な意思決定はドキュメントで行う。会議で口頭合意するのではなく、提案書をドキュメントで共有し、コメントで議論し、結論を記録する。
・マネージャーからの方針メールを「週報」や「月報」として定例化する。

介入すべき局面の見極め

普段は任せる。しかし危機的状況や重大な意思決定の場面では、リーダーが明確に判断を下し、組織を方向づける。このメリハリがリモート環境では特に重要。常に介入するリーダーも、常に不在のリーダーも信頼されない。「普段は静かに見守り、必要な時に的確に動く」

・「マネージャーが判断すべき事項」と「チームで判断してよい事項」を明文化する。
・アラートの仕組みを設計する。プロジェクトの進捗、メンバーの稼働状況、顧客からのフィードバックなど、異常を検知したらマネージャーに自動的に情報が届く仕組みを用意する。
・介入する時は迅速かつ明確に、介入するなら判断を明示し、方向性を示し、実行に移す。中途半端な介入はチームの混乱を招く。

拡張より安定を選ぶ戦略的抑制

リモート環境ではコミュニケーションコストが対面より高い。管理対象が増えるほど統制が難しくなる。あえて「やらないこと」を決めて集中領域を絞ることが、リモート環境下では特に有効な戦略となる。

・四半期ごとに「やらないことリスト」を作る。新規施策や新プロジェクトの提案が上がった時、リモート体制で管理可能かを判断基準に加える。
・チームの規模拡大には慎重になる。人を増やす前に、既存メンバーの生産性を最大化する方に投資する。
・会議の数を戦略的に減らす。「この会議は本当に必要か」を定期的に棚卸しし、チームの集中時間を守る。

現代のリモートワークに活かせるポイントまとめ

  • 制度基盤: ドキュメント整備、ナレッジベース運用
  • 長期任用: 人材の安定配置、権限委譲の明確化、委譲と関与のバランス
  • 非同期コミュニケーション: 即レス文化の見直し、ドキュメントベースの意思決定、定期的な方針発信
  • 介入の見極め: 判断権限の明文化、アラート設計、介入時の明確さ
  • 戦略的抑制: やらないことリスト、チーム拡大への慎重さ、会議の棚卸し

まあ、全てが正しいわけではないが、リモートで組織を円滑に遂行するエッセンスとして上記がある。割と自分が現在遂行しているマネジメントに近かった。

  • 信頼のおけるマネジメントのリーダーを選抜する。そこに年齢は関係ない。技術力と同時に組織を成長させてチームの舵を取ることができるパーソナリティを持ち、またそこに意義を感じている人材を選定する。
  • リーダーを選定したら、裁量権を持たせて任せる。ただし、自身の意図と違うことがあれば、介入し舵を切りなおす。自分がリードする職位であるのだから、自信をもって、介入する。
  • 暗黙知をルール化し、オープンにする。

となる。遥か昔の人物が現代に繋がる営みをやっていることに驚きを感じる。

現代のビジネスマネージャーが持つべきメンタルのポイント

ティベリウスの精神性から抽出できる、リモートワーク時代のマネージャーが持つべきメンタルのポイントを整理してもらった。

自分に合った環境を自分で設計する主体性を持つ

自分が最もパフォーマンスを発揮できる環境を主体的に設計する姿勢が重要である。

感情と判断を分離する訓練を積む

チームの状況が見えない不安、メンバーからの予期しない報告、上位者からのプレッシャー等、リモート環境ではこうした感情的な揺さぶりが日常的に起こる。その時に感情を否定するのではなく、「自分は今不安を感じている」と認識した上で、判断は別の回路で行う。この分離を意識的に訓練することが、長期的なリモートマネジメントの基盤となる。

他者からの承認に依存しない判断軸を持つ

リモート環境では「ありがとう」の一言が対面より届きにくい。チームの成果が上がっても、自分のマネジメントが貢献しているかどうかは見えにくい。そうした中で、自分がやっていることの価値を自分で認識できる判断軸を持つことが重要。

不完全さを許容し、完璧主義を手放す

すべてを自分の目で確認できない以上、現場で100%理想通りの運営が行われることはないと受け入れる。80点の運営が持続していればよしとする。

「何も起きない」を成果として認識する

リモート環境での良いマネジメントの結果は、往々にして「大きなトラブルが起きない」「チームが安定して稼働している」という地味な形で現れる。これを成果として自分自身が認識できるかどうかが、長期的にリモートマネジメントを続けられるかの分かれ目になる。

リモート環境での良いマネジメントの結果は、往々にして「大きなトラブルが起きない」「チームが安定して稼働している」という地味な形で現れる。ここはその通りだなと、何も起きてないことをまず評価するのは経営者に求められる要素なのかもしれない。

信頼できる相談相手を確保し、完全な孤独を避ける

すべてを一人で抱え込むのではなく、上司、人事、同じ立場のマネージャー仲間など、判断を共有できる相手を意識的に持っておくことが、精神的な安定を保つ上で不可欠。

Wrap Up

自分の中の社長像は、出社して社長室で業務して、たまに現場視察して社員に声がけしてという感じで、他の皆様もそうではないかなと思っている。でもティベリウスのような現場に一切姿を見せずに、会社を運営する企業も今後現れてくるのではないだろうか。AIが発達して、これから大きな変化が訪れようとしている現在においても、さすがにメールだけで企業体を安定運営するのは難しいし、無理だろうとも思う。リモートワークが普及した今だからこそ、その難しさがさらに理解できる。それを帝国という巨大な組織体で成し遂げた歴史事実は興味深いものであった。

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