量子ゲート(1bit)について
What(どの様なものなのか)
- 量子状態(波動関数)に特定の操作をする演算子をパターン化したもの
- 量子ゲートは量子ビットの状態を操作するものであり、量子ゲートの組み合わせにより特定の目的に応じた量子回路を形成する(量子回路のパターンを量子アルゴリズムという)
- 量子ゲートは極座標上の点の移動を定めた式で、実体は行列(ユニタリ行列:複素数の回転行列)である
- 古典コンピュータにおける論理ゲートに相当する概念
Why(何が嬉しいのか)
- 古典コンピュータは論理ゲートの概念の上に成立しており、すべての論理ゲートはNANDゲートの組み合わせにより表現することが出来る
- つまり、NANDゲートさえあれば古典コンピュータを実装することが出来る(NAND論理の完全性)
- 量子コンピュータおいても万能のゲートセットがあり、例えば1ビットの量子ゲートはアダマールゲートと位相ゲート(Tゲートでも可)さえあれば表現することが出来る
- 加えて、2ビットの量子ゲートであるCNOTゲートが加われば、三つ(アダマールゲート、位相ゲート、CNOTゲート)のゲートで理論上は量子コンピュータを実現することができ、これをユニバーサルゲートセットという(ユニバーサルゲートセットの組み合わせは複数あり、これはその一例である)
How(どのように使うのか)
- 代表的な量子ゲート(Xゲート,Zゲート,Tゲート/位相ゲート,アダマールゲート)については以下の通り
- 各ゲートには代表的な用途(例えばアダマールゲートでは重ね合わせの状態への遷移)があり、量子状態(ベクトル)に作用(回転行列(ユニタリ行列))させて使用する
Appendix(各量子ゲートの作用の深掘り)
- ブロッホ球の式
) においてグローバル位相を無視すると、以下の様にベクトルで表現することができる\ket{\psi} = e^{i\delta}(\cos \frac{\theta}{2}\ket{0} + e^{i\phi}\sin\frac{\theta}{2} \ket{1}
- この式を基準として、各代表的な量子ゲートを作用させたときの変化を追ってみる
Xゲート
- 始点の
から状態0と状態1の基底ベクトルの係数が入れ替わっているので、それぞれのビットの量子状態を入れ替える(反転する)という操作であると言える\ket{\psi}
- 幾何学的には、
、\theta \to \pi - \theta と変化することを表しており、これはX軸を中心に\phi \to \phi + \pi 回転することと等しい\pi - 最後の式が=ではなく→になっているは、数学的には等価ではないが、グローバル位相を無視して物理的には等価であることを表している
Zゲート
- 状態1の基底ベクトルの係数の正負が反転しているため、物理状態としては変わっているが確率振幅(の絶対値)は変わっていないので、各状態の観測確率は不変
- ブロッホ球上の幾何学的な動きとしては、位相が
されており、Z軸を中心として+\pi (180度)回転していることになる\pi
アダマールゲート
-
上記の最後の式において、状態0と状態1の観測確率が等しくなる(
の係数と\ket{0} の係数の絶対値の二乗が等しくなる)場合には、以下の3通りがある\ket{1} -
…(1a)(\cos\frac{\theta}{2} = 0), すなわち (\theta = \pi + 2n\pi)((n) は整数) -
…(1b)(\sin\frac{\theta}{2} = 0), すなわち (\theta = 2n\pi)((n) は整数) -
…(2)(\cos\phi = 0), すなわち (\phi = \frac{\pi}{2} + m\pi)((m) は整数)
-
-
より、(1a)および(1b)はそれぞれ\ket{\psi} = \cos \frac{\theta}{2}\ket{0} + e^{i\phi}\sin\frac{\theta}{2} \ket{1} と\ket{\psi} = \ket{1} に対応しており、ブロッホ球上では状態が南極と北極にある場合に相当する\ket{\psi} = \ket{0} -
つまり、(1a)および(1b)の状態は量子状態が1または0で確定している状態であり、この際にアダマールゲートを作用させると、状態1と状態0が等確率で重ね合わさった状態に遷移させることが出来るのである
-
(2)は
が成立する場合、つまり(\cos\phi = 0 より)e^{i\phi} = \cos\phi + i\sin\phi の場合に相当するe^{i\phi} =\pm i -
上記(
)が成立する場合にアダマールゲートを作用させると、作用後の状態0と状態1の確率振幅はe^{i\phi} =\pm i または\frac{1}{\sqrt{2}}(\cos \frac{\theta}{2} + i\sin\frac{\theta}{2}) となり、いずれも絶対値は\frac{1}{\sqrt{2}}(\cos \frac{\theta}{2} - i\sin\frac{\theta}{2}) であるため、状態0と状態1の確率振幅の絶対値は等しくなり、等確率での重ね合わせの状態となっていることがわかる\frac{1}{\sqrt{2}} -
つまり(2)については、位相(
)が特定の条件下(\phi )にある場合(ブロッホ球上では\phi = \frac{\pi}{2} + m\pi)((m) は整数 となり、yz平面に存在する場合に相当)にアダマールゲートを作用させると、確率振幅の因子x=0 に関わらず、それぞれの状態が等確率で観測される状態に遷移するという事を意味している\theta -
数式的には、
つまり\cos\phi = 0 のとき(位相が純虚数のとき)、アダマールゲートを作用させる前の波動関数はe^{i\phi} =\pm i となっており、この状態でアダマールゲートを作用させると、\ket{\psi} = \cos \frac{\theta}{2}\ket{0} + e^{i\phi}\sin\frac{\theta}{2} \ket{1} = \cos \frac{\theta}{2}\ket{0} \pm i\sin\frac{\theta}{2} に関わらず等確率での重ね合わせの状態に遷移できるのである。\theta
Appendix2(アダマールゲートと位相ゲート)
- アダマールゲートと位相ゲートの組み合わせにより、1量子ビットの状態を任意に制御できることを証明してみる
-
という行列式を計算してみるHP(\Theta)H
- この
は実は全体に係る位相(HP(\Theta)H )を除き、x軸を中心に任意の角度だけ回転するe^{i\frac{\Theta}{2}} ゲートと同じ行列式となっているR_x
-
全体に係る位相は物理的な意味としては無視できるため、このことは、アダマールゲートと位相ゲートから、
ゲートを作成することが出来ることを意味しているR_x -
ゲートと位相ゲート(つまりz軸を中心に任意の回転が出来るR_x ゲートと同義)があれば、y軸を中心に任意の回転をするR_z ゲートが表現できるR_y -
よって、
、R_x 、R_y が揃う事により、任意の量子ビットの状態変化を実現することが出来るのであるR_x
参考文献
Discussion