MIT Tech Reviewとは
はじめに:MITの看板を掲げたポエム構文
「Claudeが7時間ポケモンをプレイした──」
MITの名を冠したニュースサイトが、そんな記事を堂々と出す時代になった。
読者の多くは「MITが言ってるなら本当だろう」と思うかもしれない。だが、その前提がすでにズレている。
この記事では、“MIT Technology Review”というブランドに騙されてはいけない理由、そしてその構造的な仕掛けを解き明かす。
MITは、そんなこと言ってない。
第1章:MIT Tech Reviewの正体
MIT Technology Reviewは、その名の通りMIT(マサチューセッツ工科大学)発祥のテック系ニュースメディアだ。だが、現在の同誌はMITが直営する機関ではなく、編集独立したライセンス運営のメディアである。日本語版はさらに、外部法人(プレジデント社など)による翻訳・発信が行われている。
つまりこれは、「MITブランドを冠した独立メディア」であり、「MITの研究成果を伝える場」ではない。実際、掲載される記事の多くはポピュラーサイエンス的な構文であり、論文のような精度や再現性を要求されるわけではない。
第2章:Claudeとポケモンという“奇跡”
記事で話題になったのは、Anthropic社のClaudeが「ポケモンを7時間自律的にプレイした」という事例。
だがここで根本的な疑問が生まれる──
ポケモンはゲームボーイ用ソフトであり、物理的なハードウェア依存のゲームである。
ClaudeのようなLLMがどうやってGUI操作を行ったのか?
答えは記事中に明記されていない。
エミュレータを用いた可能性は高いが、それすら明言されていない。つまり、「どのような環境で、どこまでをClaudeが担い、どこまでが人間による補助だったか」は不明のままである。
そんな状態で「AIがポケモンをプレイした」と言い切るのは、もはやポエムである。
第3章:AI報道における“構文詐術”
「ハイブリッド推論」「数千ステップの自律処理」「メモリファイル」──
これらは一見すると技術的な専門用語に見えるが、実態としては既存の機能や技術の言い換えにすぎないことが多い。
- ハイブリッド推論 → 単なる高速処理と深度処理の切替
- 数千ステップ → 長時間ループを「段階的に」実行しただけ
- メモリファイル → 単なる文脈保存の再ブランド化
用語を変えれば意味が変わるわけではない。
だが雰囲気主義社会では、「言い換えた構文」にこそバズ価値が宿る。
第4章:それでもお金は動いている
ここがこの構造の最大の皮肉である。
どれだけ技術的に曖昧でも、実装方法が不明でも、「AIがこんなことできました!」という**“雰囲気”が作れれば、金が動く**。
MIT Tech Reviewのようなメディアが記事を出し、SNSでバズが起き、広告が表示され、講演やスポンサーがつく。
本当に成果があったかどうかは、誰も問わない。
雰囲気が経済価値を生む。
これが、ポスト成果主義社会における“影響力経済”の正体だ。
終章:「MITって書いてあるから信じた」からの卒業
もはや「MITって書いてあるから正しい」は通用しない。
ブランドは、構造の外装でしかない。
それが何を言っているかよりも、どう構造化されているかを読む時代がきている。
MITはそんなこと、言ってない。
Discussion