Ubieに入社していました
退職エントリではないです。
2022年に機械学習エンジニアとして入社して4年が経っていました。前職はCARTA HOLDINGSでオンライン広告配信プラットフォームの開発をしていました。アドテクエンジニアから医療情報エンジニアに転向して感じた点を紹介します。
転職の契機
インターネット広告とは別のことをやりたいと考えていた時期に、Ubieと出会ったのが大きいです。前職で関わったソーシャルゲームとオンライン広告は、ビッグデータや機械学習、スマートフォンというテクノロジーの進歩を存分に取り入れることで成長した分野でした。
このテクノロジーの進歩を他の分野にも生かせないかと、次に決めたのが医療業界です。
入社から今に至るまで
- 入社当時は横断組織のデータサイエンスチーム所属
- 症状チェッカー(いわゆるonline symptom checker)の研究開発
- 質問に答えて症状を入力していくと最後に病名が出てくるやつです
- 現在は急性期病院向けソリューション開発に集中するため事業部へ異動
- ユビーDPCサポーターというサービスを立ち上げから開発しています
- 医事課および診療情報管理室向けのサービスで、病院の収益向上と業務効率化が目的
- 初期はフロントエンドから監視まで何でもやっていましたが、現在は開発メンバーが増えて主に診療情報(カルテテキスト等)を入力とした自然言語処理や予測ロジックを担当
面白いところ
私が開発しているサービスは、地域中核病院や大学病院規模の病院がターゲットです。こうした病院では、収益性の向上と業務効率化が大きな課題になっています。働き手の減少と医療需要の増加という背景もあり、人が増やせない中で医療提供体制を維持するための仕組みが必要になっています[1]。大規模言語モデル(LLM)の進化によって、医療従事者の日常業務で大きな負担になっているドキュメントワーク[2]に対するソリューションが打ち出せるようになりました。また、蓄積したカルテ等の非構造テキストが有効活用できていないという課題にもアプローチが可能になりました[3]。無数のソリューションの種があり、PoCを繰り返してLLMアプリケーションをプロダクションレベルまで引き上げ、顧客に提供するというチャレンジができるフェーズにあります。
一方で、LLMを使えば誰でも予測アプリケーションが作れるようになったことで、作った機能の精度評価をどのように行なうかの社内布教活動も重要になりました。雑に作るとLLM利用料が膨らみ、サービスとして成り立たなくなるので、標準病名マスターやICD-10分類表といった既存の辞書やオントロジーを使ってLLMトークンをいかに減らすかも技術的なテーマになります。独自の機械学習モデルを訓練する機会は減りましたが、生成モデルを使うまでもない分類タスク用のモデルは、引き続きBERTのfine-tuningなどの手法で作ります。
ここまでの背景やDPCコーディング[4]の例は去年のApplied AI R&D Meetupでの発表にもまとめています。
チャレンジングな点
- 診療情報の扱い
- 診療情報は個人情報保護法の制約を受けるため、開発着手までの手続きが重い。開発タスクの初手が弁護士相談だったり、研究の場合はデータを受け取る前に倫理審査委員会(IRB)の承認を得る必要があります。
- 病院との契約上、受領データが独自の機械学習モデルの学習に使えない状態だったりもします。しかし顧客体験を良くするにはデータが使えないと厳しいことを伝えれば、同僚は爆速で契約の巻き直しに協力してくれる会社です。
- リスクと顧客に還元できる価値のバランスを取りつつ、いかに使えるデータを増やすか、もしくは取り回しの良い合成データ(架空の症例)を作りこむかがサービスの性能に直結します
- 医師との協業
- Ubieでは、本業がエンジニアではないドメインエキスパートもコードを書きます。
- そのため、エンジニアでなくとも実験やオフライン評価がやりやすいように作っています。予測のコアコンポーネントはデータベース無しで動かせるようにし、入出力はファイルにするなどです。今では全職種がClaude Codeを使うので、随分と楽になりました。
- ITでスマートに解決するのが最善でもない
- 学会発表でよくあるのが「人を動かすのに手書きのメモや肉声が有効だった」というもの。電子カルテの画面に医師への依頼メッセージを表示する機能もありますが、迫力に欠けるのでしょう。
- 私も含めてITの人間はITで解決しようとする癖があることは、メタ認知しておきたいです。
- 医療ドメインの知識習得
- 開発で扱っているデータは、病院内で生成されたデータを受領したものです。病院でどのような業務があり、どのシステムに入力されたものなのか、生成過程を理解しておく必要があります。医療機関の情報システムと業務については、医療情報技師の試験勉強がためになりました。
- 現在は診療情報管理士の専門課程を受講中です。体感として「ESDを実施しても生検で良性だったらEMRで術式を再登録するんでDPCも変わるんです」といった話を聞いたときに、即座に術式のイメージとシステム対応工数が思い浮かぶようになったので役に立っています。
- AIに対する期待を裏切らないこと
- 我々の提供するサービスを業務で利用する現場の方々が満足する性能を出すこと。プロフェッショナルの業務を支援するシステムである以上、素人のような誤りは防がなければなりません。
エンジニア採用してます
向いているのはテクノロジーで医療に貢献したいひとです。センシティブかつ標準化されていない[5]データを扱うため、思うようにデータが活用できないことも多々あります。そのため泥くさいデータ整形やマッピングタスクを薙ぎ倒していくパワーも必要ではありますが、面白そうだと思った方は是非。
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団塊の世代が全員75歳以上になる2025年を「2025年問題」、団塊ジュニア世代が65歳以上になる2040年頃を「2040年問題」と呼び、医療や介護の需要増加と医療従事者の人手不足が予想されている。そのため医療機関の業務効率化は国策でもあり、業務効率化のためのICT機器等の導入は補助金の対象にもなっている(厚生労働省 令和7年度補正予算案の主要施策集)。 ↩︎
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初診カルテ作成や退院サマリ作成、患者に説明した内容を書き起こすインフォームドコンセント(IC)記録、カルテの点検など。米国では医師の燃え尽き症候群の原因として、臨床以外の仕事の多さ(administrative burden)が挙げられている。 ↩︎
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医療テキストを対象とした自然言語処理は、学習に使える言語資源の少なさもあり、LLM登場以前は実用可能な精度を出すのが難しい分野だった。特に日本語では、英語のMIMICのような実カルテの公開データセットがない。 ↩︎
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病名や手術内容に応じた入院医療費の1日あたり定額支払い制度(DPC/PDPS)を取り入れている病院が入院医療費会計のための行なう業務。適切なコーディングが病院の収益適正化直結する ↩︎
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病院から受け取れるデータは、導入している電子カルテやデータウェアハウスによってかなり変わってくる。 ↩︎
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