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メールはFAXの代替になりえるのか(初期コスト問題)

2021/12/13に公開約4,200字

はじめに

FAXが叩かれがちな昨今、FAXの代替品ってなんだろう、と考える。
基本的にその答えは「メール」とされることが多い。その是非については、様々なところで語られる。

インターネットは誰でもアクセスでき、誰でも簡単に使える、というのが暗黙のうちに前提とされていることが多い。
普段User Experienceについて考えていると、この姿勢に対して違和感を覚えた。
それについて語っていく。

この記事では、個人の一般家庭(特に高齢者宅)および小規模な企業や団体を前提と置く。
電話線は引いてあるが、インターネット回線はないことを想定。
なお、情報システムが整っている大手企業などを対象としない。

初期投資、初期設定

私が考える、この2つの手段、メールとFAXについてのもっとも大きな違いは、初期に掛かるコストだ。それは、設備投資や工事費用から、初期設定を含む

FAXの準備手順

FAXを使うのに必要な準備は、ざっと以下だろう

  • FAXを購入する(2万円~5万円)
  • FAXを家の電話線につなぐ
  • FAXの電源を入れる
  • 初期設定: 電話番号
  • 初期設定: 時刻の設定
  • 初期設定: ダイヤル・トーンの選択
  • 紙とインク(インクリボン)をセットする

あとは送受信自由に使用できる。

メールの準備手順

PCのメールでFAX同様のやり取りをしようとするとどうなるだろう。

まず回線を用意しよう。

  • 適切なインターネット回線を契約する(光回線か、モバイルルータか。格安SIMを選べるのはリテラシーが高い人だけだろう。)
  • 回線の工事を待つ

次にPCと必要な機材を買おう

  • 適切なスペックのPCを買う(5万円~20万円)
  • 適切なプリンターとスキャナ、あるいは複合機を買う(5千円~3万円)
  • (場合によっては適切なルーターを買う)
  • (場合によっては適切なウィルス対策ソフトを買う)
  • (場合によっては適切なLANケーブルなどを買う)
  • (場合によっては適切なオフィスソフトを買う)

PCを買うと初期設定が待っている。
MicrosofのOOBEページからの手順をまとめる

  • 適切な言語の選択
  • Cortana へようこそ
  • 適切なリージョンの選択
  • 適切なキーボードの選択
  • 適切なネットワークに接続
  • 使用許諾契約書 (EULA)
  • 適切なローカルアカウントまたは Microsoft アカウント (MSA) にサインインするか、作成
  • 適切なMicrosoftアカウントのパスワードの登録あるいは、ローカルアカウントのセキュリティの質問を作成
  • 適切なWindows Hello セットアップ
  • 電話と PC のリンク設定
  • 適切なOneDrive のセットアップ
  • 適切なOffice のセットアップ
  • 支払い情報
  • Cortana をパーソナル アシスタントに設定
  • 適切なプライバシー設定
  • 適切なウィルス対策ソフトの体験版の登録あるいはスキップ
  • Windows から最新のプログラムを取得

ここでは、ひかり電話などを契約しており、LANケーブルを接続するだけでインターネットに接続できる上体であることを想定しているが、場合によっては

  • 適切なPPPoEの設定
  • 適切なルータの設定
  • 適切な無線LANセキュリティの設定

が必要になることもある。

次に、メールを送れるようにしよう。

  • 適切なメールクライアント、あるいはWebメールを選択する
  • 適切なメール設定(プロバイダのSMTP, POP3あるいはIMAP)を行う
  • (場合によっては適切なスパムフィルタの設定も必要かもしれない)
  • (場合によってはメールアドレスを変えるために適切な設定ページに適切なIDとパスワードでログインして適切な規則に従って文字列を設定する)

次に、FAX同等の使い方ができるように準備する。
Wi-Fiだと難易度が上がるのでUSB接続で良いだろう

  • プリンターおよびスキャナの付属のドライバを導入する
  • 適切なタイミングでプリンターおよびスキャナをPCに接続する
  • 適切な原稿スキャンソフトを導入する(ドライバに付属しているかもしれない)
  • (スキャンソフトにPDF化機能がついていなければ、適切なPDF化ツールも必要かもしれない)

メールの初期コスト(スマートフォン)

残念ながらスマートフォンにはプリンタやスキャナを簡単に繋げられる仕組みがない。
Wi-Fi DirectやBluetoothを使えばつながるだろうが、安定して繋げられた試しがないため、今回は除外する。

使用するコスト

さて、これで準備が整った。実際に通信しよう。

FAXの送信手順

FAXで相手に送信するには以下といったところだろう。

  • 相手の電話番号を打ち込む
  • 原稿をスキャン部分にセットする
  • スタートボタンを押す
  • 送信成功すれば、成功音が鳴る。失敗すると失敗メッセージが出る。

FAXの受信手順

FAXで相手から受信するには以下といったところだろう。

  • 相手に電話番号を伝える
  • 相手から受信すると画面あるいは紙が出てくる
  • 画面にある場合は印刷ボタンを押す

迷惑FAXはたまに来るが問題になることは少ない

メールの送信手順

同じように手元の原稿をPCのメールで送信してみよう。

  • PCとスキャナの電源を入れる
  • ログインのために適切なパスワードを入力する
  • Windows Updateが必要ならUpdateを実施する
  • 再起動が必要なら再起動する
  • スキャナに原稿をセットする
  • 適切な原稿スキャンソフトを起動する
  • 適切な形式でスキャンしたデータを保存する
  • 適切なメールクライアントあるいはWebメールを起動する
  • この際、ログインが求められれば適切なIDとパスワードを入力する
  • メール作成画面を開く
  • メールアドレス欄に正確に相手のメールアドレスを入力する
  • スパムフィルタに引っかからないように適切な件名と本文を入力する
  • 適切なサイズになるように調整して原稿データを添付する
  • 送信ボタンを押す
  • 送信成功したかどうかはわからない。迷惑メール扱いかもしれない。相手のメールボックスが添付ファイルのサイズを受け付けてくれないかもしれない。
  • PCを適切にシャットダウンする。
  • スキャナの電源を切る

メールの受信手順

同じように相手からメールで原稿を受け取ってプリントしてみよう。

  • 相手に英数字の羅列のメールアドレスを伝える
  • PCとプリンタの電源を入れる
  • ログインのために適切なパスワードを入力する
  • Windows Updateが必要ならUpdateを実施する
  • 再起動が必要なら再起動する
  • 適切なメールクライアントあるいはWebメールを起動する
  • この際、ログインが求められれば適切なIDとパスワードを入力する
  • メール一覧を開く
  • スパムやウィルス、詐欺のメールを掻い潜りながら適切なメールを開く
  • メールの添付ファイルを適切なソフトウェアで開く
  • 適切な印刷設定をする
  • 印刷ボタンを押す
  • メールボックスが一杯になっていれば、適切にメールを削除する
  • PCを適切にシャットダウンする
  • プリンタの電源を切る

適切な、適切な、そして適切な

適切な 適切に という表記を嫌というほど記載した。
これは、操作や判断に情報機器リテラシーが求められることの意味である。
(実際問題として、これらすべてを適切に実施できている人は少ないのではないかとお思う。例えば高い通信プランがそのままになっていたり、期限切れのウィルス対策ソフトが入れっぱなしだったり、謎の有料ソフトを入れてしまったり、ウィルスに感染してしまったり、という意味だ。)

ここではPCでの例をあげているが、スマートフォンでもやることはさして変わらない。
初期設定や、毎回の手順には相当の判断や時間が掛かっていることに、特に技術者は気づきづらい。
これは、当たり前かつ日常的に行っている動作は、コストとして感じなくなっているためだろう。

一方、技術者であっても、未知の製品やツールを触るときには困惑するように、情報機器リテラシーを持たない人は常にこの判断に悩まされているのである。

これらの判断コストを担っているのが、大企業であれば情報システム部門であり、巷であれば携帯電話ショップの教えを請われた店員だったりする。

おわりに

ハードウェアやサービスのコストに目を奪われ、人が時間を掛ける・利用機会を損失するというコストには目を向けられづらい。

FAXはできることを絞っている代わりに、極めてシンプルに利用できる。
メールは汎用的であるが、そのために人間の側で様々な配慮が必要となる。

今回はFAXとメールで記載したが、旧来システムとインターネット前提のシステムで概ね似たような事が起きていると考える。
一般人が専門知識を身につけることで対応できる、という考え方もあるが、それは一方で都市と地方、高齢者と若者の間で格差を広げつつある。

この問題は、結局の所デジタルデバイドにつながる問題であり、まだまだIT機器は「専門技術者が居ないと成り立たないもの」であることの現れであるとも感じている。

適切な代替手段、あるいは「人に優しいしくみ」が生まれることを願っている。

Discussion

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