マネージャーはチームの「カオス」を管理する
はじめに
マネージャーとして組織を見ていると、どうしても「安定」を求めたくなります。仕組みを整え、予測可能性を高め、チームが波風立てずに動くようにする。これは一つの正解ですし、組織運営の基本です。
しかし、この「安定」が長く続くと、それは時として「停滞」のサインになることもあります。
私は、マネージャーの重要で、かつセンスが問われる役割の一つに 「意図的なカオス(不安定さ)の注入」 があると考えています。
人は、歩くために片足を浮かせて一時的に不安定な状態を作らなければなりません。組織も同じです。現在の安定をあえて崩し、揺さぶりをかけることでしか得られない変化や成長がある。今回は、私が過去の実践を通じて感じた「カオスを管理する」ことの価値について書きます。
1. 進行役を入れ替え、チームの「解像度」を上げる
小さなカオスの一例として、デイリースタンドアップなどのミーティングで 「進行役をメンバー間で持ち回りにする」 という試みがあります。特段珍しい手法ではありませんが、これを「あえて安定を崩す」意図で行うことに意味があります。
決まった人が進行する安定した状態を崩すと、当初は戸惑いが見られました。
「そもそもデイリーで何を確認すべきなんだっけ?」と立ち止まってしまったり、逆に形だけ整えて中身が空っぽの報告になってしまったり。
しかし、この一時的なやりづらさを経た結果、メンバーが口を揃えて言ったのは**「チーム全体に対する解像度が上がった」**ということでした。
誰かが用意してくれたレールに乗るのではなく、自分が場を回す側に立つ。これによって、他人のタスクやチームの状況を「自分事」として捉えざるを得ない環境が生まれます。結果として、そこからは新しい「安定」としてこの運用が定着していきました。
2. 強制ペアワークが可視化した「共有」と「課題」
より強いカオスとして、 「全タスクをペアワークで行う」 というルールを敷いたこともありました。これには二つの側面がありました。
知識と手法の同期
ポジティブな面では、仕事の進め方の細かなニュアンスや、技術的なナレッジの共有が飛躍的に進みました。ドキュメント化しにくい「現場の知恵」や「テンポ感」が、ペアを組むことで強制的に同期されていったのです。
課題の可視化
一方で、この取り組みは個人の実力を白日の下にさらすことにもなりました。「意思決定が極端に遅い」「思考プロセスに大きな偏りがある」といった、一人で抱えていた時には見えなかったボトルネックが明確になったのです。
当然、周囲からは「この人と組むとパフォーマンスが出ない」といった、率直な意見(反発)が届くこともありました。しかし、マネージャーとしては、これこそが 「目を逸らしていた課題」と向き合うチャンス でした。
エクストリーム・プログラミング(XP)におけるペアプログラミングは、品質向上だけでなく、継続的な学習と知識共有を加速させる強力なプラクティスです。
参照: Agile Alliance - Pair Programming
3. 「事実」と「感情」を切り分け、ゴールへ繋ぐ
カオスを注入すれば、必ず摩擦が生まれます。特に人間関係やスキルの差が露呈したとき、マネージャーに求められるのは、それを受け入れた上での冷静な交通整理です。
私はこうした際、「事実」と「感情」を切り分けることを意識しています。
「あの人と組むのは辛い」というのは一つの感情です。それを否定するのではなく、受け止めた上で、メンタリングの視点を次のようにシフトさせます。
- 事実の特定: 仕事のやり方や考え方のどこに、具体的な問題があるのかを客観的に切り出す。
- ゴールの再定義: チームの成果を最大化するために、その事実に対して今何ができるか?という問いに落とし込む。
感情で終わらせず、カオスによって見えた「事実」を元に、どうすればその人が実力を発揮できるか、チームとしてどうサポートできるかを本気で議論する。このプロセスこそが、組織を強くします。
4. 根底にあるのは「メンバーへの信頼」
こうしたカオス注入を成立させるための絶対条件は、相互のフラットな信頼関係です。
私は、メンバーが誰一人として「向上心がない人」ではないと本気で信じています。だからこそ、敬意を持って正直にお願いします。
「失敗するかもしれない。でも、この変化を乗り越えた先にみんなの成長があると信じているから、私を信じてほしい」
今うまく実力を発揮できていない人でも、環境が少し変わるだけで劇的な変化を見せることがあります。その可能性を信じ、成長というリターンを全員で目指してカオスを管理する。この「信じる」という覚悟が、カオスを破壊ではなく進化に変えます。
Googleの調査「プロジェクト・アリストテレス」でも示されている通り、チームの生産性に最も影響するのは「心理的安全性」です。これは単に仲が良いということではなく、互いにリスクを取り、不安定な状態を受け入れられる信頼関係を指します。
参照: re:Work - ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る
おわりに
カオスはマネージャーから投げ込むものだけではありません。メンバーから突き上げられる「新しい提案」もまた、組織にとって重要なカンフル剤です。
安定を求めてしまうのはマネージャーも同じです。ですが、そこは素直な気持ちで変化を受け入れ、一緒に「新しい不安定さ」を楽しんでいくべきでしょう。
今のチームが「なんだか上手くいきすぎているな」と感じたら、それは少しだけカオスを混ぜて、次の一歩を踏み出すタイミングかもしれません。
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