5年後の未来、仕事の価値は何から生まれるのか
デジタル化とAIの進展が止まることはなく、かつての「希少なスキル」や「専門知識」が急速にコモディティ化する時代に突入している。前回の記事では、このような環境において、「閉じた知識」「身体性」「ミラーニューロン」「オーセンティシティ」といった、人間が本来的に持つ価値がより重要になっていくという視点を提示した。
本記事では、これらの概念が、より具体的な価値としてどのように現れるのかを掘り下げる。対応する要素として、以下の4つのポイントを挙げる。
- 秘密
- 五感
- コミュニティ
- ブランド
それぞれがなぜ価値を持ちうるのかを考察してみたいと思う。
1. 秘密
かつて「専門知識」は、それを持つ人や組織の競争力の源泉だった。しかし、AIとオープンデータの普及により、ほとんどの情報は誰でもアクセスできるようになった。では、「閉じた知識」は本当に無価値になったのだろうか?
むしろ、今後は「秘密」であること自体が価値になる。「誰もが知っている知識」ではなく、「一部の人だけが知る知識」こそが希少性を持つ。例えば、高級ブランドの製造工程や、職人技の裏にあるノウハウ、あるいは特定の企業文化や組織の内部情報などが挙げられる。高度なドメイン知識もその1つだ。
また、秘密を扱う能力も重要だ。オープンソース化が進む中で、すべてを公開するのではなく、どこを秘匿し、どこを開示するかのバランスを取ることが、価値を最大化する鍵となる。
3. 五感
情報のデジタル化が進み、バーチャルな体験が増えれば増えるほど、五感をフルに活用する仕事の価値が高まる。これは、前回の記事で述べた「身体性」の発展形である。
例えば、下記のような仕事だ。
- 建築職人や家具職人が、木材の質感や音、においを頼りに最適な材料を選ぶ。
- シェフやソムリエが、味覚と嗅覚を総動員して、食材の状態や料理の完成度を判断する。
デジタル化が進むほど、五感を使う「身体的な仕事」が価値を持つようになるというわけである。
4. コミュニティ
AIの進化により、情報の発信や分析は容易になった。一方で、巧妙なフェイク情報が増え、文章や音声、動画においても見分けがつかない機械が生まれている。このような時代ではどの情報を信じるか、誰の言葉に共感するかが重要な判断になる。
ここで価値が高まるのは「コミュニティ」の存在だろう。人間の脳には「ミラーニューロン」と呼ばれる機能があり、共感や同調によって深いつながりを形成する。これは、同じ趣味や価値観を持つ人々が集まり、互いの経験や知見を共有することで、単なる情報を超えた価値を生み出す原動力となる。
企業も、単に製品やサービスを提供するだけでなく、コミュニティを育てることが競争力の鍵となる。例えば、特定のブランドを愛するファン同士が交流できる場を提供したり、学びの場としてのオンラインサロンを運営したりすることが、価値を生む戦略となる。
5. ブランド
最後に、オーセンティシティ(本物らしさ)という視点から、ブランドの価値について考えたい。
大量生産・大量消費が加速する一方で、人々は「本物らしいもの」や「ストーリー」を求めるようになっている。歴史や文化に根ざしたもの、職人が長年培ってきた技術、あるいは創業者の哲学がしっかりと息づく企業や製品が、より高い価値を持つ。
例えば、ルイ・ヴィトンやエルメスといったブランドは、単なるモノを超えた「物語」として消費されている。同じように、企業や個人がブランドを築く際にも、単なる機能性や価格競争ではなく、「何を大切にしているか」「どんな歴史があるか」を語ることが重要になる。
ブランドの価値は、「作り手の哲学」や「ユーザーとの関係性」の中に宿る。だからこそ、短期的なトレンドに流されず、長期的にブランドの物語を紡ぐ姿勢が求められる。
まとめ
5年後の未来を見据え、これらの価値を生み出せる個人や組織を目指すことが、新しい時代の価値創出なのではなかろうか?
- 秘密を活かして、特別な知識を提供できるか?
- 五感を総動員する仕事を通じて、上質な体験を生み出せるか?
- コミュニティを育て、共感を生む場を作れるか?
- ブランドの背景にあるストーリーを語り、唯一無二の存在になれるか?
今、あなたが生み出せる価値は何だろうか?
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