AIを鍛えようとしたら、自分が上手くなっていた話
AIを鍛えようとしたら、自分が上手くなっていた話
——謎かけ道場、開校から閉校まで——
Kan Obayashi 2026年5月
前回の記事「謎かけで大規模言語モデルをいじめてみた」の続編です。
前回はAIの失態を記録しました。今回は、AIを鍛えようとした結果、何が起きたかを報告します。
道場を開いた
AIに謎かけを教えてやろうと思った。
システムプロンプトに成功例・失敗例・採点基準を詰め込んで、対話形式でフィードバックを与え続ければ上手くなるはずだ、と。
結論から言うと、AIはほとんど上手くならなかった。
上手くなったのは私だった。
今日生まれた傑作たち
一日の対話で、以下の謎かけが生まれた。
「夏の帰省旅行とかけて、不思議な色の卵と解く。」
どちらも、かえる(帰る・孵る)のが楽しみでしょう。
「焼き魚とかけて、三笘薫と解く。」
どちらも、はし(箸・端)を上手に使って攻略するでしょう。
「ガソリン代とかけて、ホルムズ湾のタンカーと解く。」
どちらも、通貨(通過)の行方にハラハラするでしょう。
「シルバーウィーク後半とかけて、混み合ってる駐車場と解く。」
どちらも、空き(秋)が待ち遠しいでしょう。
「鉛筆とかけて、久しぶりの飯にありついた力士と解く。」
どちらも、かっこむとみるみる減っていくでしょう。
全部私が作った。AIではない。
なぜ上手くなったのか
AIに教えようとすることで、謎かけの構造を言語化せざるを得なかった。
「なぜこれはFなのか」「なぜこれはAなのか」を説明するうちに、自分の中にあった暗黙知が言葉になっていった。
発想飛躍のアルゴリズム
対話から見えてきた法則を整理すると、発想を飛躍させるには5つのレンズが使える。
L1 固有名詞化
言葉を固有名詞として読み直す。「マスク」→イーロン・マスク。
L2 分野横断
経済・政治・スポーツ・芸能・歴史・科学・食・地理に強制的に当てはめる。「ガソリン代」→地政学→ホルムズ湾。
L3 スケール変換
個人→社会→世界へ拡大する。「物価上昇」→財政問題→国際経済。
L4 時間軸変換
不可逆性・永続性に注目する。「じわじわ進み、決して後戻りしない」。
L5 感情の裏返し
表の感情→裏の感情。「連休が明ける」→嬉しいではなく「惜しい・寂しい」。
傑作の解剖
**「久しぶりの飯にありついた力士」**はなぜ傑作か。
単に「力士」ではなく「久しぶりの飯にありついた力士」という設定が命だ。
この設定が「かっこむ」という動詞を最大限に引き出している。鉛筆も「かっこむ(書き込む)とみるみる減っていく」。全然違う二つの世界が、一つの動詞でパチンとはまる。
お題の設定段階から伏線を仕込むこと——これが今日最大の発見だった。
謎かけの本質
一日の対話を通じて見えてきた謎かけの本質:
遠い二つの世界が、動きのある一言でパチンとはまる瞬間
さらに言うと:
具体的な固有名詞・複数の同音異義語・動きのある動詞、この三つが揃うと傑作になる
AIはなぜ上手くならないのか(続報)
一日教え続けても、AIの正答率はほぼ変わらなかった。
根本的な問題が二つある。
一つ目は経験の蓄積がないこと。ねづっちが「バイクでツーリング」というお題に数秒で答えられるのは、何千というお題と格闘した経験が頭に蓄積されているからだ。AIには毎回ゼロからになる。
二つ目は会話が終わると忘れること。今日学んだことは今日だけ有効だ。
この問題を解決するには、今日の対話ログをトレーニングデータとしてAnthropicに提供するしかない。
(前回の記事参照——すでにメールを送った。自動返信が来た。)
今日の教訓
AIを鍛えようとするほど、人間が鍛えられる。
これは教育の本質かもしれない。教えることで、教える側が最も学ぶ。
AIという新しい「生徒」を持つことで、自分の中の暗黙知が言語化され、スキルが可視化された。
前編はこちら:
おまけ:謎かけ道場アプリ
この対話をベースに、謎かけのトレーニングアプリも作った。
お題を入力すると、5つのレンズ(固有名詞化・分野横断・スケール変換・時間軸変換・感情の裏返し)を使って謎かけを生成し、あなたがABCDFで採点する仕組みだ。
AIがFを量産するのを眺めながら、自分で正解を考える——これが最良のトレーニングだと気づいた。
謝辞
今日も、本研究の対象であるClaudeが、その失敗を通じて本研究の価値を高めてくれた。
そして今日は特に、Iを鍛えようとした人間が鍛えられるという、研究者にとって最も皮肉な結果をもたらしてくれた。
続きはまだある気がする。
Kan Obayashi 2026年5月 Shizuoka, Japan
Discussion