人工知能学会2025 参加レポート
こんにちは、e-dashでバックエンドエンジニアをしているikedaです。
今回は、大阪で開催された人工知能学会に参加してきましたのでレポートをしたいと思います。
この記事でわかること
- どのような事象が議論されているのかを知り、現在のAIへの関心事項について認識する
- 世の中の企業はどのようにAI活用を進めているのかを調査する
- AIエージェント元年と聞くがどんな状況なのかを理解する
- e-dashで活用できるアイデアを探る
会場の雰囲気と参加者層
会場は非常に多くの参加者で賑わっていました。参加者層は学生から社会人まで幅広く、企業の研究開発担当者や大学関係者が多そうでした。
企業展示ブースでは活発な議論が交わされており、久々の学会参加、かつ初めての分野だったこともあり、とてもワクワクしました。
印象に残ったセッション:石黒浩教授の「アバターと未来社会」
最も印象深かったのは石黒浩教授による「アバターと未来社会」の講演で、今後のどのようなロボットが世の中に登場するのか楽しみになりました。
人間らしいロボットの実現にはマルチモーダルな技術が必要であり、発話衝突、うなづき、表情、動作、リアクションを人間らしく再現することの難しさについてお話されていました。
特に興味深かったのは、アバターの実用的な活用例です。障害者の方がアバターを通じて健常者以上に働けるようになっている事例や、顧客対話の練習にアバターを活用し、細かなフィードバックを得ることで営業スキルを向上させる取り組みなどの紹介がありました。そもそも人間だって間違ったことを言うんだからハルシネーションがあっても問題ないという観点は新鮮でした。
また、アバターに対する倫理観についても言及されており、アバターにも人権を与えるべきかという哲学的な質問もあり全く考えたこともない観点でした。日本はアバター技術への受容度が高く、これを世界に展開できる可能性があるという話も印象的でした。
企業展示で見えたAIエージェントの現状
企業展示ではいくつかAIエージェント関連サービスが紹介されていました。
その中の一つの企業の方との話の中でAIエージェントの設計はまだどの企業もノウハウを蓄積している段階であり、RPAの延長として捉えられているとのことです。
RPAではできなかった自然言語での指示や手順書の読み込みに生成AIを活用できるようになったことで、実現できることの幅が広がってきているようです。
しかし、ワークフローをガチガチに固めすぎるとRPAと変わらなくなってしまうため、自由度をどこまで持たせるかが難しいポイントとなっており、これがまさにノウハウの蓄積が必要な領域だということでした。
興味深かったのは、展示企業社内で通用したエージェントが他社では全く役に立たないという事例です。
各社、各部署のワークフローに適したエージェント設計が必要で、その設計方法が職人技の領域になっているというのが現在の状況のようでした。
AIのリスクとガバナンスについて
今回の学会で初めて「AI原則からAIガバナンスへ」という言葉を聞きました。
安全性・セキュリティ・プライバシー・公平性・透明性・説明可能性といった観点が重要視されていますが、特に透明性・説明可能性については生成AIの回答根拠を説明できないという課題が顕在化しており、今後の開発において考慮すべき重要な観点だということを初めて認識しました。
正直なところ、これまでAIのリスクについてはあまり深く考えていませんでしたが、開発する際にはこれらの観点を必ず含める必要があることを学びました。
ただし、議論されている内容の詳細については理解が追いつかない部分も多く、これらの分野はまだ変化の途上にあるため、今後も変化の大きい分野であり定期的に情報収集が必要です。
その他の興味深い話題
WikipediaをナレッジベースとしてAI活用する取り組みや、MinecraftをAIの評価環境として使用するという話は非常に興味深いものでした。
ゲームをしながら仕事ができるなんてなんて楽しい仕事なんだ!と若干うらやましくもありました笑
また、技術による差別化がどんどん難しくなっているという現状も見えてきました。
AIエージェント作成支援を謳う企業は多数ありましたが、差別化ポイントが明確でなく、プロンプトの工夫程度の認識しか持てませんでした。
現在はノーコードでAIエージェントを実装するツールも複数登場しており、誰でも作ることができる状況になっています。
一方で、作れるからといって期待するレベルものを作れるかというとそうではありません。
実際私もエージェントを作りましたがなかなか思ったようなものにならず、多くのAIエージェントデザインパターンをうまく組み合わせるのが非常に難しいです。
2025年が「AIエージェント元年」と言われる理由
2025年はAIエージェント元年ということをしばしば聞きますが、2024年時点で既にAIエージェントという言葉は頻繁に耳にしていたため、正直今さら感がありました。
しかし、今回の学会参加を通じて理解できたのは、ノーコードツールもいくつかあり作ることはできるが有効なAIエージェントを作れるかというとそうではないという状況です。
ノウハウを各社で蓄積している段階であり、それがだんだんとビジネスパーソン(非エンジニア)に広がっていく最中であることを表した言葉という解釈をしました。
業務フローは各社で異なるため、一般化されたエージェントでは対応できません。
さらに社内でも部署が違えば使えないということもよくあるそうです。
そのため、欲しいものを高速で作れる状態を構築することが重要になってくると考えられます。
e-dashへの活用について
いくつかの企業と話した結果、差別化のポイントとしては参入障壁が高いテーマに取り組むか、他社が持っていないデータを活用するかになりそうです。
また、BPR(業務プロセス改革)との相性も良さそうだと感じました。
一方で、あまり難しく考えすぎず、まずは作ってみないことにはノウハウも蓄積されないため、小さい単位でできることからどんどん実装し、自社なりのノウハウを貯めていくことがよさそうです。
e-dashで活用できる具体的なアイデアはまだ形になっていませんが、「まずは作ってみる」を実行してみようと思います。
感想
今回の人工知能学会2025への参加は非常に有意義でした。
これまではLLMを便利なツールとして使ってきましたが、それ以外の観点でも技術や議論が進められていることを知ることができました。
2025年がAIエージェント元年と言われる理由についても、企業展示を回ることで理解が深まりました。
e-dashで活用できるアイデアはまだ具体的にはなっていませんが、今回の経験を通じて、まずは小さなことから始めて実践を通じてノウハウを蓄積していくことの重要性を学びました。
AIの世界は急速に変化しており、技術的な差別化が困難になってきている現状も理解できました。
学会と聞くと専門性が高く、参加してもよいものかという声も社内報告時にコメントがありましたが必要に応じて学べば良いと考え、あまり気にせず参加していいんじゃないかと思っています。
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