二点吊り法で慣性モーメントを計測する

2 min読了の目安(約2400字TECH技術記事

はじめに

趣味でドローンを自作しているのですが,モデルベースの姿勢制御を行うために慣性モーメントの値がどうしても必要になります.そこで,二点吊り法により慣性モーメントを計測する固定具を製作し,実際に慣性モーメントを計測したいと思います.

二点吊り法について

二点吊り法とは,測定対象を二本のワイヤ(もしくは紐)で吊し,回転軸周りに微小な角度だけずらして離し,その回転周期を用いて慣性モーメントを求める方法です.計測の詳細は下記のサイトを参考にしました.

https://jp.mathworks.com/company/newsletters/articles/improving-mass-moment-of-inertia-measurements.html

問題設定は上記と同様にして,測定対象の質量をm,二本のワイヤの間隔をD,ワイヤの長さをh,回転周期をTとします.このとき,慣性モーメントは次式のように表されます.

I = \frac{mgD^2}{4h\left(\frac{2\pi}{T}\right)^2} \tag{1}

以後,(1)式を用いて慣性モーメントを計算します.

二点吊りを行うための固定具製作

治具を設計する前に問題点を洗い出そうと思い,家にあるもので機体を吊るしたところ以下のような問題がありました.

  • 糸の長さを揃えることが意外にも難しい.
  • 糸の固定にテープは使えない.重さに耐えきれず外れる.
  • 二点間の距離を決めるのが難しい.

そこで,上記の問題を解決するような固定具を製作しました.


Fig. 1 固定具

固定具の構成は以下の通りです.

固定具を作る際に工夫したこととして,以下の点が挙げられます.

  • アルミレール上を吊り具が移動できるようにした.これにより様々な大きさの測定対象に対応できる.
  • アルミレールの両端を固定する治具を3Dプリントし,クランプで固定した.
  • 吊り具を3Dプリントし,洋灯吊金具を取り付け,ワイヤーロープをぶら下げられるようにした.

使った感想として,煩わしい固定作業がなくなったので楽に計測に取り掛かれるようになりました.

回転周期の計測

回転周期の計測方法として,ストップウォッチなどを使って測定することもできますが,正確性に欠けるのと,ドローンにはIMU(加速度・角速度を計測するセンサ)が載っているので,それを利用して計測したいと思います.

実際にドローンのロール,ピッチ,ヨー軸周りに少しだけ回転させたときのグラフを以下に示します.


Fig. 2 ロール軸周りに回転


Fig. 3 ピッチ軸周りに回転


Fig. 4 ヨー軸周りに回転

計測する際には以下の点に注意しました.

  • 回転させたときに回転軸からずれて並進方向に動いていないか.
  • 慣性モーメントの算出の過程で近似が行われているので振幅が3deg/s以内に収まるまで待った.

以上の結果から,周期は次のように求まりました.なお,周期はグラフの後方二つの山と山の時間差から求めました.

T_x = 1.1 {\rm s}\\ T_y = 1.1 {\rm s}\\ T_z = 1.06 {\rm s}

実際に計算すると,各軸周りの慣性モーメントは以下のようになりました.

I_x = 9.22 \times 10^{-4} ~ {\rm kgm^2}\\ I_y = 9.22 \times 10^{-4} ~ {\rm kgm^2}\\ I_z = 1.71 \times 10^{-3} ~ {\rm kgm^2}

実は機体のフレームは3DCADで設計しており,CADで得られた慣性モーメントの値と同じオーダーの値になっていたことから,計測値は概ね合っていると考えられます.

今後の課題

回転周期から慣性モーメント(1)式を導出する過程で,空気抵抗が無視でき,回転角度が非常に小さいという仮定があります.したがって,より高精度に慣性モーメントを求めるには出力波形(おそらく角速度ではなく角度データが好ましい)をインパルス応答とみなしてシステム同定を行う手法がありますが,これは今後の課題としたいと思います.