React CompilerをannotationモードとOxlintで漸進的に導入する

React CompilerをannotationモードとOxlintで漸進的に導入する
はじめに
こんにちは。ぷーじ(@yug1224)です。
約7,500ファイルのTypeScriptプロジェクトにReact Compilerを導入しました。本記事では、annotationモードとOxlintで、all モードの一括適用ではなく、段階的に Compiler を広げた進め方を紹介します。
導入の背景
最初は "all" モードをローカルで気軽に試してみたのですが、TanStack Table v8を使ったテーブルが軒並み壊れ、react-hook-formのフォームが無限ループに突入し、画面が真っ白になるページも出てきました。全ファイル一括は早々に諦め、compilationMode: "annotation"(annotationモード)でファイル単位のオプトインに切り替えることにしました。
さらに、Oxlintの組み込みhooksルールと eslint-plugin-react-hooks v7をjsPluginとして読み込むことで、Compilerが想定しない書き方をlint段階で検知できるようにしています。OxlintのCompiler由来ルールで検出された非互換コードは約290件に上りましたが、大半は自前コードのパターン修正で解消できるものでした。
annotationモードとは
React Compilerはデフォルトで全コンポーネントを最適化対象にしますが、大規模プロジェクトではそれが問題になることがあります。そこで3つの compilationMode が用意されています。
| モード | 挙動 |
|---|---|
"all"(デフォルト) |
すべてのコンポーネント・フックをコンパイル対象にする |
"annotation" |
"use memo" ディレクティブがあるファイル・コンポーネント・フックのみコンパイル対象にする |
"infer" |
Compiler が安全と推論したものだけコンパイルする |
"infer" モードはCompilerの推論に任せる形になりますが、特定ファイルをオプトアウトする手段が "use no memo" しかなく、「まだ検証していないファイルをデフォルトで対象外にする」ことができません。7,500ファイルの大半が未検証の状態でスタートする今回のケースでは、「明示的にオプトインしたものだけ対象にする」annotationモードの方が安全側に倒せるため、inferは採用しませんでした。
annotationモードでは、"use memo"; ディレクティブを書いたコンポーネントやフックだけがCompilerの最適化対象になります。ファイル先頭に書けばファイル内の全コンポーネント・フックが対象に、関数の先頭に書けばその関数だけが対象になります。逆に "use no memo"; を書くと、明示的にコンパイル対象から除外できます。
// react-compiler.config.ts
// babel-plugin-react-compiler 0.x.x 時点の設定
export const ReactCompilerConfig = {
target: "18",
compilationMode: "annotation",
} as const;
React Compilerは React 19 で最適に動作しますが、React 17 および 18 もサポートしています。target にはプロジェクトの React バージョンを指定します。React 19 未満の環境でも Compiler の恩恵を受けられるのは嬉しいですね。
Viteへの組み込み
Viteプロジェクトでは vite-plugin-babel を経由して babel-plugin-react-compiler を適用します。React公式ドキュメントでは @vitejs/plugin-react の babel オプションを使う方法が第一に紹介されていますが、Dress Codeでは @vitejs/plugin-react-swc を使っているため、Babelプラグインを別途読み込む vite-plugin-babel を採用しています。
// vite.config.ts(該当部分の抜粋)
import babel from "vite-plugin-babel";
import { ReactCompilerConfig } from "./react-compiler.config";
export default defineConfig({
plugins: [
babel({
filter: /\.[jt]sx?$/,
babelConfig: {
plugins: [["babel-plugin-react-compiler", ReactCompilerConfig]],
},
}),
// ... other plugins
],
});
ポイントは filter で .tsx だけでなく .ts も対象にしている点です。カスタムフックは .ts で書かれることもあるため、拡張子で漏れないようにしています。
"use memo" / "use no memo" の判断基準
annotationモードの運用で最も重要なのは、どのファイルにどのディレクティブを付けるかの判断基準を明確にすることです。
"use memo"; を付けるファイル
| 対象 | 理由 |
|---|---|
React コンポーネント(.tsx) |
Compiler のメモ化最適化の主要ターゲット |
| JSX を返す / React の状態・副作用を扱うカスタムフック |
useMemo / useCallback 相当の最適化が効く |
ディレクティブを付けないファイル
| 対象 | 理由 |
|---|---|
| 型定義のみのファイル | コンパイル対象になるコードがない |
| 純粋関数ユーティリティ | Reactのフックを使わないためCompilerの対象外 |
Queryフックの薄いラッパー(useQuery / useSuspenseQuery) |
TanStack Queryがメモ化を管理しておりCompilerの介入は不要 |
| 定数・設定ファイル | ランタイムでReactの仕組みを使わない |
"use no memo"; を付けるファイル
一部のライブラリは React Compiler と互換性がありません。これらを使うファイルでは "use no memo"; で明示的にオプトアウトします。
| ライブラリ | 理由 |
|---|---|
useReactTable(TanStack Table v8) |
カラム定義の変更がテーブルに反映されず、ソートやフィルタが無応答になる(TanStack/table#5567) |
react-hook-form |
バリデーション発火時に無限ループが発生する(react-hook-form#12298) |
"use no memo"; を付けたファイルでも、Compiler由来のlintルールは引き続き発火します。違反箇所には 違反行の直前に // oxlint-disable-next-line react-hooks-js/<rule> を付けて抑制します。ファイル先頭でルールを列挙する方式は禁止しています。
Oxlintでのlint戦略
annotation 運用と "use no memo" の切り分けだけでは、従来の rules-of-hooks / exhaustive-deps では Compiler 非互換を拾いきれません。本節では、Oxlint の2系統運用で CI 段階で Compiler 非互換を先に潰す構成を説明します。
Compiler導入の初期に痛い目を見ました。CIは通っているのに、実際に動かすとテーブルのソートが効かない。前述のlintだけでは、この手の不具合を事前に検知できませんでした。React公式の eslint-plugin-react-hooks v7にはCompiler由来の検出ルール(incompatible-library / unsupported-syntax 等)が統合されており、OxlintにはESLintプラグインをそのまま読み込めるjsPluginという仕組みがあるので、これを活用して、CI 上で主要な非互換を先に検知し、既知パターンのランタイム不具合を減らしています。
具体的には、Oxlintで2系統のhooksルールを運用しています。組み込みルールで従来のhooks違反を、jsPluginでCompiler固有の違反を検知する構成です。
アーキテクチャ
実際の検出例
jsPluginで検出される incompatible-library のエラー出力例です。
× eslint-plugin-react-hooks(react-hooks-js/incompatible-library):
│ React Compiler has skipped optimizing this component because
│ one or more React ESLint rules were disabled.
╭─[src/features/users/UserTable.tsx:12:1]
│
12 │ const table = useReactTable(options);
│ ─────────────────────
╰─
このエラーが出るファイルは "use no memo"; の付与対象です。
役割分担
| 系統 | プレフィックス | 役割 |
|---|---|---|
| Oxlint 組み込み | react-hooks/* |
rules-of-hooks と exhaustive-deps — 従来どおりのhooksルール違反を検知 |
| jsPlugin | react-hooks-js/* |
eslint-plugin-react-hooks v7のrecommendedルールのうち、組み込みと重複しないもの。Compiler由来の incompatible-library / unsupported-syntax を含む |
oxlint.config.ts の実装
eslint-plugin-react-hooks v7のrecommendedルールは17個に増えており、個別に定義するのは煩雑です。そこで、recommendedの設定オブジェクトからルールを動的に取得し、Oxlint組み込みと重複する rules-of-hooks / exhaustive-deps を除外したうえで react-hooks-js/* プレフィックスに付け替えるテクニックを使っています。プラグインのバージョンアップでルールが追加された場合にも自動追従できるメリットがあります。
import reactHooks from "eslint-plugin-react-hooks";
import { defineConfig } from "oxlint";
const BUILTIN_RULES = new Set(["rules-of-hooks", "exhaustive-deps"]);
const reactHooksJsRules = Object.fromEntries(
Object.entries(reactHooks.configs.recommended.rules)
// 組み込みと重複する rules-of-hooks / exhaustive-deps を除外
.filter(([key]) => !BUILTIN_RULES.has(key.replace("react-hooks/", "")))
// プレフィックスを react-hooks-js/* に付け替え
.map(([key, severity]) => [key.replace("react-hooks/", "react-hooks-js/"), severity]),
);
export default defineConfig({
options: {
reportUnusedDisableDirectives: "error",
},
jsPlugins: [{ name: "react-hooks-js", specifier: "eslint-plugin-react-hooks" }],
rules: {
"react-hooks/rules-of-hooks": "error",
"react-hooks/exhaustive-deps": "error",
...reactHooksJsRules,
},
});
組み込みの rules-of-hooks / exhaustive-deps は BUILTIN_RULES として除外し、jsPlugin側では react-hooks-js/* プレフィックスに付け替えています。これにより、同じルールが二重に発火することを避けつつ、Compiler固有のルールだけをjsPlugin側で捕捉できます。
reportUnusedDisableDirectives: "error" により、不要になった oxlint-disable コメントが残っているとerrorになります。Compiler対応が進んで抑制が不要になったとき、コメントの消し忘れを防げるのは地味にありがたいですね。
7,000+ファイルへの段階適用戦略
Phase 1: 準備(安全な境界の確立)
最初にやったのは "use memo"; を付けることではなく、付けてはいけないファイルを明確にすることでした。
Compiler由来ルールで検出された非互換コードは約290件。そのうちライブラリ由来(TanStack Table v8)は15ファイル程度で、残りは自前コードのパターンでした。非互換ライブラリを使うファイルを rg 'useReactTable|useForm' --files-with-matches などで洗い出すと75ファイル。「思ったより多いな…」というのが正直な感想です。
これらに "use no memo"; を一括付与してCompilerの対象外であることを明示し、並行して非互換パターンをユーティリティ関数に抽出するリファクタリングも進めました。
さらに、OxlintのCompiler由来ルールをerror化し、CIで非互換コードを確実に検知する体制を整えました。この準備があることで、以降のPhaseで "use memo"; を付けたときに、Compiler由来ルールがカバーする範囲では、CIで主要な非互換を先に潰せるようになります。ただし、ランタイム固有の状態遷移やタイミング依存の問題はlintでは検出できないため、「lintが通った=本番でも問題ない」とは限らず、ランタイムの確認(ステージングや手動確認など)は別途必要です。
Phase 2: 漸進的対応("use memo" の拡大)
新規ファイルへの適用
新規ファイルは影響範囲が読みやすいため、7,000超の既存ファイルより先に "use memo"; の運用ルールを固めることから始めました。新規作成するコンポーネント・フックにはすべて "use memo"; を付ける運用をチームで合意しました。AGENTS.mdにルールを明記し、AIエージェント(Cursor / Claude Code)も同じ基準で自動付与するようにしています。エージェントがディレクティブを付与しても、マージ前の lint と PR レビューが最終ゲート になるよう CI では従来どおり error 運用にしています。
最初の2週間で新規ファイル約140件に適用しました。開発〜CIの段階では、TanStack Tableやreact-hook-formのような既知の非互換パターンに当たる事象は出ませんでした。annotationモードとlint体制のおかげで、大きな手戻りなくチームに運用が浸透し始めた段階でした。
既存ファイルへのボーイスカウト運用
加えて、リファクタリングや機能追加で既存ファイルを触ったら「ついでに "use memo"; も付けておくか」というノリで付与しています。ボーイスカウトルール(触ったコードは見つけた時より綺麗にして返す)的な運用です。既存ファイルへの適用手順は以下のとおりです。
- 対象ファイルに
"use memo";を追加 -
pnpm run lintを実行 - Compiler由来のlintエラーが出たら修正
- 修正が難しい場合は
"use no memo";にフォールバック
たとえば、ステップ3で頻出したのは exhaustive-deps 違反です。依存配列にオブジェクトをそのまま渡しているケースで、Compilerのメモ化と噛み合わずに警告が出ます。これはCompiler適用前の準備段階で必要な修正で、まずlintを通る状態にしてから "use memo"; を付与する流れになります。
- const options = { page, sortKey };
- useEffect(() => { fetchData(options); }, [options]);
+ const options = useMemo(() => ({ page, sortKey }), [page, sortKey]);
+ useEffect(() => { fetchData(options); }, [options]);
この useMemo はあくまでlintを通すための一時的な修正です。"use memo"; を付与してCompilerの最適化対象になれば、Compilerが同等のメモ化を自動で行うため、最終的にはこの手動 useMemo を削除できる見込みです。
"use no memo" から "use memo" への切り替え
実際には、まず機械的に対応できるファイルに "use no memo"; を一括付与し、その後コードを修正しながら "use no memo"; を "use memo"; に切り替えていく流れで進めています。react-hook-form周りは対象ファイルが多く、地道な作業になりました。
Phase 3: 将来("all" モードへの移行)
非互換ライブラリのCompiler対応が進み "use no memo"; が不要になってきたタイミングで compilationMode を "all" に切り替え、ディレクティブの管理自体をなくしていく予定です。
ハマりどころとTips
抑制はnext-lineのみ
"use no memo"; を付けたファイルでCompilerルールが発火した場合、抑制コメントは 違反行の直前の1行 にのみ書きます。
"use no memo";
// oxlint-disable-next-line react-hooks-js/incompatible-library
const table = useReactTable(options);
行単位の oxlint-disable-next-line にすることで修正対象が明確になり、Compiler対応が進んで抑制が不要になったときもすぐに気づけます。
不要になった抑制コメントの検出
前述の reportUnusedDisableDirectives: "error" を設定しておけば、Compiler対応が進んで不要になった oxlint-disable-next-line をCIが自動で教えてくれます。設定方法は「Oxlintでのlint戦略」セクションを参照してください。
AGENTS.md への記載例
AIエージェント(Cursor / Claude Code)にも同じ基準でディレクティブを付与させるため、AGENTS.md に以下のように記載しています。
## React Compiler ディレクティブ
- 新規の `.tsx` コンポーネントファイルにはファイル先頭に `"use memo";` を付与する
- `useReactTable` または `useForm` を使うファイルには `"use memo";` を付けない(`"use no memo";` を付与)
- 1ファイル内に Compiler 互換/非互換が混在する場合は、互換な関数の先頭に `"use memo";` を、非互換な関数の先頭に `"use no memo";` を個別に付与する
- 型定義のみ・定数・Queryフックの薄いラッパーにはディレクティブ不要
まとめ
振り返ると、最初にローカルで "all" モードを試して盛大に壊したのが結果的によい出発点でした。壊れ方を観察したことで「何を守るべきか」が明確になり、以降の戦略が決まっていきました。
- annotation モード でファイル単位のオプトインにすることで、全適用時のリスクを回避する
-
"use memo"/"use no memo"の判断基準 を明文化し、チーム全体(AIエージェント含む)で一貫した運用を実現する -
Oxlint の2系統運用(組み込み
react-hooks/*+ jsPluginreact-hooks-js/*)で、従来のhooks違反とCompiler非互換の両方をlint段階で検知する - 段階適用(準備→漸進的対応→全適用)で、7,000超ファイルへの展開を安全に進める
最終的なゴールは compilationMode: "all" への移行ですが、annotationモードでの漸進的導入により、大規模一括適用のリスクを抑えつつ、対象を絞りながらCompilerの恩恵を取り込めています。lintと段階適用で守りながら、対象範囲を広げていくのが当面の運用です。
同じように大規模プロジェクトでReact Compilerの導入を検討している方の参考になれば嬉しいです。「うちではこうハマった」「この構成でうまくいった」みたいな話、X(@yug1224)で聞けるととても助かります。
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