「職種ラベル」で自分の限界を決めるのはもうやめよう
少しだけ、直感で答えてみてください。
「あなたの仕事は何ですか?」
ある技術系コミュニティでこの質問を投げかけてみたところ、30件ほどの回答がすぐに見事な2つのパターンに分かれました。
- 「〇〇専攻です」「アルゴリズムをやっています」
- 「経理や税務の自動化に取り組んでいます」「動画制作チーム向けの社内ツールを作っています」
表面上はどちらも自分の仕事について語っているだけです。しかしよく見ると、前者は自分をスキルで定義しているのに対し、後者は自分を具体的なビジネス課題で定義しています。
この現象を見て、最近SNSで見かけた2つの対照的なポストを思い出しました。
1つ目は、某大手テック企業で8年働くシニアフロントエンドエンジニアの投稿です。
社内のコンポーネントライブラリは、彼がイチから構築したものでした。
しかし最近、彼は強い焦りを感じていると綴っていました。AIによるコード生成の能力があまりにも高くなり、自分のチームの若手がCursorを使って書いたコードが、品質でもスピードでも自分に引けを取らなくなってきたからです。
「8年かけて築き上げた自分の感覚や経験が、以前ほど価値のないものに思えてきた」と彼は語っていました。
彼のアイデンティティは「シニアフロントエンドエンジニア」というラベルにありました。そのラベルの価値が下がっているように見えるため、自分自身の価値まで下がっているように感じてしまうのです。
2つ目は、まったく別の世界の話です。
あるアパレルECの経営者が、見よう見まねでいくつものAIエージェントを作ってしまいました。取引データを処理するもの、在庫を分析するもの、商品のキャッチコピーを書くもの、プロモーションを自動化するものなどです。
彼はコードなんて一切書けません。しかし、それらのエージェントが出力した結果が正しいかどうかは、一瞬で見抜くことができます。
なぜなら、その出力がビジネスとして正解かどうかを判断できるのは、長年現場で泥臭く商売を回してきた彼のような人間だけだからです。
同じAIの波を前にして、一方は自分の経験が陳腐化していくと怯え、もう一方は自分の経験をようやくフル活用できると歓喜しているのです。
この違いは、技術に詳しいかどうかではありません。「自分は何者か」という問いに対する答えを、どこに置いているかの差なのです。
スキルは「何ができるか」を決め、課題は「何をすべきか」を決める
自分のスキルしか見えていない人は、立派な職務経歴書を書けるし、面接も難なく突破できるでしょう。しかし、その得意なことをAIが習得してしまった途端、足元が揺らぎ始めます。
一方、自分の解決すべき課題が明確な人は、履歴書に書けるような華やかなスキルは持っていないかもしれません。しかし彼らは、なぜ今のシステムがこういう形になっているのかを深く理解しています。その経験とビジネスへの理解をAIと掛け合わせることで、以前なら想像もできなかった成果を叩き出します。
これは逆の視点からも言えることです。
最近ネットで「文系からのエンジニア転職」や「未経験からAI人材へ」といった言葉をよく見かけます。これらのラベルは、自分のアイデンティティを自分に欠けているスキルに縛り付けてしまっています。
例えば教育学を専攻した人なら、人間はどうやって物事を学習するのかについて深い知見を持っているはずです。それ自体が非常に価値のある課題です。しかし、自ら「文系からのエンジニア転職」というラベルを貼った瞬間、自分の価値はコードが書けるかどうかにかかっていると宣言しているようなものです。
自分が本来持っていた強みを忘れ、わざわざ自分が不利な戦場を選んでしまっているのです。
実はこれ、キャリアチェンジをする人に限った話ではありません。私自身、知らないうちにラベルで自分の限界を決めていた時期がありました。
昔は仕事を聞かれると「プログラマーです」と答えていました。
その後、担当する役割が何度か変わりました。責任の範囲が大きく変わるたびに、「自分は本来技術に専念すべき人間なのに」とモヤモヤし、まるで不本意なキャリアチェンジを迫られているような違和感を覚えていました。
しかし後になって気づきました。私はずっと同じことをやっていたのです。ビジネスが何を求めているかを徹底的に考え抜き、それを実現するためのあらゆる手段を講じる。使う言語が変わり、役割が変わっても、この本質は一度も変わっていませんでした。
ここで、数分だけ時間を使って小さなテストをしてみましょう。
メモ帳を開いて、まず自分が持っているスキルを書き出します。次に自分が解決している課題を書き出してみてください。
スキル欄には、Python、Rust、データ分析、SQL、システム設計などが並ぶでしょう。
では、課題欄はどうでしょうか。もし何も書けなかったり、「Pythonでデータを処理する」のようにスキル欄と似たようなことしか書けないのであれば、あなたはまだ自分が解決すべき課題を見つけられていないのかもしれません。
書けなくても焦る必要はありません。何年も働いて、ようやく「自分はずっと同じ種類の課題を解決してきたんだ」と気づく人も多いからです。
課題志向なんて、日々の業務に余裕がある人間だから言えることだ。こっちは目の前のタスクをこなすだけで精一杯なんだよ、と思う人もいるかもしれません。
私は全く逆だと思っています。現場の最前線で泥臭く手を動かしている時こそ、今やっているタスクがそもそもどんな課題を解決するためのものかを理解しておくべきなのです。
今日あなたがやったその仕事は、ビジネスのどんな場面で使われるのか。顧客はなぜそれを求めているのか。彼らが本当に求めているのは、あなたが提供するその「ドリル」なのか、それとも「壁の穴」なのか。
こうした問いは、自分から意識しない限り誰も教えてくれません。しかし、日々の業務でこの問いを持ち続けている人とそうでない人とでは、AIというレバレッジによって、やがて絶望的なまでの格差が開いていきます。
ただしそれは、何を作るのか、なぜそうするのか、どうなっていれば正解かを明確な言葉で定義できる人だけが使える魔法です。それが言語化できない人に対して、AIは「何かを生み出している」という錯覚と気休めを与えてくれるだけで、本当の課題は一つも解決してくれません。
結局のところ、AIはあなたの職種ラベルなんて一切気にしません。
AIが唯一気にしているのは、あなたが解決したい課題を明確に言語化できるかどうかだけなのです。
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