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Strategic Search & Recommendation Meetup #1 開催報告

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DMMで検索レコメンドの PdM を務めている西潟と主にDMMTVにおける検索レコメンド開発の戦略策定において連携させていただいている半熟仮想株式会社の齋藤(@usait0)です。本記事では、我々の連携における取り組みの一つとして2025年6月2日(月)に開催した勉強会「Strategic Search & Recommendation Meetup #1」について、簡単にご報告します。

開催経緯

「Strategic Search & Recommendation Meetup」は、検索レコメンド開発におけるKGI/KPI設計、事業貢献戦略、評価設計(オフライン/オンラインテスト)といったテーマに関する、実践的な情報や事例の共有を目的とした勉強会です。

検索・レコメンドの開発現場では、以下のような悩みを抱えている方が少なくありません。

  • 検索レコメンドの「成功」をどう定義すべきかわからない
  • チューニングや改善施策の効果が正しく測れているか不安だ
  • 評価指標(オフライン/オンライン)の設計が適切か分からない
  • アルゴリズムを刷新しDCGなど手元の指標は改善したが、事業への貢献が実感できない
  • KPIの合意形成等に関するビジネスサイドとのコミュニケーションに課題を感じている

しかしながら、こうした課題に正面から向き合い、積極的に発信している文献や企業、勉強会はまだ多くないのが現状です。そこで、DMMにおける取り組みを紹介しつつ、他企業の方々とも課題や解決策の共有ができる場をつくりたいと考えたのが、本イベント発足のきっかけです。

上記の課題は、多くの開発・マネジメント現場で「心の底で感じてはいるけれども、日々の業務の中で後回しになってしまっている」ことが多いのではないでしょうか。だからこそ、検索レコメンド開発の戦略や周囲とのコミュニケーションに焦点を当てた勉強会を明示的に設けることで、これらをあらためて見直すきっかけを提供できればと考えました。今回は、30分の発表を2本、続いて約1時間の懇親会という構成で開催しました。発表はあくまで話題提供のための導入であり、ざっくばらんな交流や情報共有を懇親会で行うことがより重要であると考えていました。実際、懇親会の場ではさまざまな現場の悩みや工夫が飛び交い、約100名の方にご参加いただいたこともあり、大変な盛り上がりでした。第一回の開催として、手応えのあるスタートを切れたのではないかと感じています。

発表①『DMM が目指す検索レコメンドの世界観と事業インパクトに対する戦略』

最初の発表は西潟から、『DMM が目指す検索レコメンドの世界観と事業インパクトに対する戦略』という題でお話ししました。以下、当日用いた発表資料です。

https://speakerdeck.com/issei2029/dmm-gamu-zhi-sujian-suo-rekomendonoshi-jie-guan-toshi-ye-inpakutonidui-suruzhan-lue

発表の内容は、下記に示すブログ記事をベースにしつつ、現場で実際に取り組んできたことを自分の言葉で再構成し、血の通ったストーリーとしてお伝えすることを意識しました。すでに他所で語られている内容であっても、自社の文脈に即して体験として言語化することで、よりリアリティのあるナレッジとして共有できたのではないかと思います。

https://zenn.dev/dmmdata/articles/a7e0bc517f356d

本セッションではテクニックやアルゴリズムの話は大きく語らず、検索レコメンドがどのようなサービスに対して、どのような課題意識を持ち、どういう組織的な壁に直面してきたかといった背景をお話ししました。検索レコメンドが改善すべき KPI と、その KPI をどのような方向性でチューニングすべきか、そしてそれを組織としてどう実現していくか、さらに成果を適切に主張するにあたって、ビジネスサイドとのコミュニケーションで直面する難しさなどを共有しました。

今回のセッションでは、問題提起に留めた部分も多かったのですが、懇親会では多くの方から「わかりみが深かった」と共感の声をいただき、この課題への関心や共通する悩みが業界全体にあることを改めて実感しました。イベントを主催して本当に良かったと感じた瞬間でもあります。

本イベントの質疑応答では、「組織やプロダクトが立ち上がって間もない状況での第一歩がわからない」や「セッションで述べられた理想的な KPI 設計は難しく、問題を簡単にしたり開発コストを抑えるために敢えて汎用的な実装にしている企業も多いのでは?」といった声がありました。こうした課題意識は極めて現実的で、プロダクト開発の現場では理想と現実のギャップに悩む場面が少なくありません。だからこそ、DMM としてこの領域における KPI マネジメントの「型」をある程度言語化し、他社に共有していくことには意味があると改めて感じました。

懇親会で各社の方々とお話しする中で、プロダクトの成果が会社の KPI ツリーにしっかり組み込まれ、評価されている企業は、意外なほど少ないという印象を受けました。多くの企業では、機能開発や研究開発のための体制構築が精一杯で、プロダクト開発が達成されれば自然とビジネスに貢献している、という暗黙の前提で動いているように感じます。しかし実際には、PdM をはじめとしたマネジメント層が、ビジネス貢献や予算に対するコミットメントに悩むケースも多いと感じました。

良いプロダクトを作ればビジネス貢献に直結する、という考えは、齋藤さんのセッションでも語られたような「雰囲気ドリブン」な仮説であることが多く、定量的な裏付けがないまま語られがちです。一般に「デスバレー」や「ダーウィンの海」といった言葉で語られるプロダクト開発の難所は、技術的な完成度や競合との機能比較に焦点が当たりがちです。しかし、プロダクトの価値とビジネス貢献を組織全体で整合させるという視点は、資源の集中、経営の意思決定、事業成長の加速といった観点で、実は極めて大きな突破力を持っています。この構造を押さえることができれば、必ずしも SOTA なプロダクトでなくとも、人とお金の流れを加速させ、競合を一気に引き離すようなインパクトを生み出せると感じました。

DMM に入社して以来、ずっとこのテーマについて悩み続けてきましたが、今回のセミナーを通じて、改めてこの領域に取り組む意義を強く実感しました。この課題に正面から向き合い、実践し、発信していくことが、我々のような現場のチームにこそ求められていると感じた次第です。

発表②『検索レコメンド開発における戦略思考とDMMTVにおける事例紹介』

2つ目の発表は齋藤から、『検索レコメンド開発における戦略思考とDMMTVにおける事例紹介』という題でお話ししました。以下、当日用いた発表資料(一部公開不可の内容を削除しています)になります。

https://speakerdeck.com/usaito/12dffc908cf7a979555e0a29f70ec028

発表の前半では、5月に公開した以下のブログ記事の内容を、口頭で補足しながらご紹介しました。

https://zenn.dev/dmmdata/articles/bc1a7f4c6d848f

特に、記事で紹介した以下のフレームワークについて、各ステップの意義や背景を改めて解説しました。

中でも①〜③のいわゆる上流の工程は、日常で私たちがGoogle Mapなどを使って目的地までの効率的な経路を割り出してから移動を開始するという当たり前の手順と非常によく似ている、という話をしてみました。

「① KGIと貢献目標を定める」は、目的地を定めることに相当します。目的地がなければ、そもそも移動を始めようとも思いません(もちろん散歩やぶらり旅のように、移動自体が目的になることもありますが、報酬や予算が発生する業務においては、過程が楽しければOKという姿勢が許容される場面は極めて稀でしょう)。検索レコメンドの開発においても同様で、「検索レコメンドチームの役割や存在意義は何か」「なぜ検索レコメンドの機能改善が必要なのか」といった目的が明確でなければ、何も身動きがとれないはずなのです。

その次に位置する「② KGIを重要KPIに分解する」「③ ボトルネックを特定する」は、目的地が決まった上でGoogle Map等のアプリを開き、複数の経路を候補として比較検討した上で、最適ルートを選ぶという普段から何気なく行っている作業に対応します。発表では「北海道のある田舎の町をゴールとした賞金付きレースに参加するのに、いきなり東の方角に向かって歩き始めたり、自己流の勘だけで突き進む人はいませんよね」というメタファーを提示しました(ここでは「賞金がかかっている」という点がポイントです。業務においても、何かしらの事業貢献が求められている以上、目的地に辿り着けなくても楽しければ良いとはなりません)。しかし実際の現場では、「どのユーザーの、どの指標を、どれほど改善することが効率的な事業貢献につながるか」といった作戦を練ることなく、ある種雰囲気で開発が進んでしまうケースが少なくありません。KPI分解やボトルネックの特定といったステップを飛ばしても、事業貢献につながるモデルや評価方法を設計できてしまう天才がいれば話は別ですが、そうでない限り、日常で当たり前のように行っているのと同様に「まず効率的なルートを割り出すことから始める」ことが、事業貢献の達成確率を高め、たとえ失敗したとしても軌道修正に踏み切りやすい状態を生み出すのです。

発表の前半でお話しした内容に対して、懇親会では「検索レコメンド開発においてもGoogle Mapがあれば開きたいのだけれど、手元に無いので開けない」というコメントをいただきました。その通りだなと感じると同時に、だからこそ個人的には検索レコメンド開発におけるGoogle Mapのような立ち位置を確立できるよう、連携先の企業様との取り組みをより一層加速したいと思いました。また、現場ごとにこのGoogle Map的な視座を持つ人が増えていくためには、各々が主体的に戦略を練る姿勢を見せ、それを実行に移す経験を積むことが何より重要なのだろうと改めて感じました。類似事例や明確な正解がなく困難に感じるからといって、思考を止めてしまえば、戦略策定の勘所はいつまでもつかめないままです。

発表の後半では、ブログで紹介したフレームワークや思考回路が机上の空論ではないということを示すべく、DMMTVのレコメンドモデル開発における活用事例を簡単にご紹介しました。具体的な数値は伏せつつ、あるいは数値例を交えながらではありましたが、「収益貢献を果たすためにどのように戦略を策定し、それをABテスト設計やモデル学習にどうフィードバックしているか」という実践の一例をお伝えできたのではないかと思っています。なお、発表中でも注を入れましたが、ご紹介した事例は決して正解ではありません。あくまで、DMMTVにおける問題構造やステークホルダーの意向、制約条件などを踏まえて、現時点で我々が有効と考えたアプローチをご紹介したものに過ぎません。他の企業やプロダクトにおいては、検索レコメンドに期待される役割や周辺環境が大きく異なることもあります。その点をぜひご留意いただいた上で、本発表の内容が、各々の現場にとって有効な戦略を練るきっかけやヒントになれば幸いです。

懇親会の様子および次回以降の開催予定

上記の2本の発表の後には、立食形式で約1時間の懇親会を行いました。運営側で軽食と飲み物を用意していたのですが、ほとんど手をつける余裕がないほど、各テーブルでは活発な議論や意見交換が繰り広げられており、我々にとっては嬉しい誤算となりました。

開催経緯でも触れましたが、検索レコメンドをはじめとする機械学習開発をいかに事業貢献につなげるか、あるいは事業部門等との円滑な連携をどのように達成すべきかといったテーマは、多くの方にとって「社内では声にしづらいけれど、実は非常に大きな悩み」になっているのだと、改めて実感しました。1時間の懇親会では時間が足りないほど、あちこちで白熱した議論や共感の声が飛び交い、終始盛り上がりを見せていました。次回以降は、懇親会こそがメインコンテンツなのだという意識をより強く持ち、スケジューリングや運営面にもさらなる工夫を加えたいと思います(発表者として、発表が予定より少し長引いてしまったのは反省点です…)。

さて、無事に第一回を終えた「Strategic Search & Recommendation Meetup」ですが、今後も2ヶ月に1回のペースで継続開催する予定です。構成は今回同様、発表2本+懇親会の形を考えています。発表に関しては、1枠はDMMの検索レコメンドチームから、もう1枠は社外からの有志発表を募集することを想定しています。本イベントでの発表にご興味のある方は、ぜひこちらのフォームからご応募ください。引き続き、多くの方のご参加をお待ちしております。

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