AI前提で設計できているか? ― Microsoft本社で突きつけられたCTOの現在地
AI前提で設計できているか?
こんにちは!ディップ株式会社 執行役員 CTOの長島です。
2026/2/12 - 2026/2/13にマイクロソフト米国本社にて、AI Startup Executive Briefing Tourに参加させて頂きました。
そこで学んだこと、感じたことを整理しておきます。

技術そのものよりも、「使い方」と「迷いのなさ」が印象に残るツアーでした。
参加したセッション
今回参加した全セッションは以下です。
- Innovate with Azure AI Apps and Agents
- Unify Your Data Platform
- Microsoft Foundry Models & Azure OpenAI
- Partnering with Microsoft - Executive Discussion
- Agentic DevOps with GitHub(GitHub Bellevue Office Tour and Briefing)
- Introducing Agent 365: the control plane for Agents
- Copilots and Agents - Microsoft PoV
- Secure and govern AI
- AI Ecosystem Market Insights & Partnering with Microsoft
どのセッションも濃い内容でしたが、今回一番考えさせられたのは「技術」そのものよりも「設計前提」という点でした。
先に結論
今回の訪問で持ち帰ったのは以下の点です。
- AIを導入しているかどうかは、もはや当然の前提であり論点ではない
- AIを前提に設計できているかどうかが差になる
- そしてその差は、おそらく CTOの現在地 に依存する
構造的には、そのように感じました。
何が刺さったのか
MicrosoftのYさんのデモが象徴的でした。
刺さったのは「デモ中の迷いのなさ」でした。
- Copilotを補完ツールとして扱っていない
- Agentにタスクを渡す前提で会話している
- 人がどこで止めるかが明確
自分はChatGPTで思考整理は普通にやっています(今もまさに)。
Copilotも使っていました。
仕様駆動開発も含めて自分では「設計からAIを使っているつもり」でした。
ただし、それは 「使っている」状態 に過ぎません。
見たのは、AIを前提に設計している人 でした。
AI時代のActive Directory

Agent 365 の話を聞いていて、不意に Active Directory を思い出しました。
Agent 365の構造は以下の通りです。
- Entra Agent ID による AgentのID化
- Conditional Access(Agent向けポリシー)
- Agent Registry による inventory
- Defenderとの統合によるリスク可視化
- PurviewによるDLP / ラベル継承
つまり、
Agentを「人やアプリと同じ管理対象」にする設計
かつて人とデバイスをADで管理したように、AgentをID基盤で統治する。
これは単なる機能追加ではなく、組織統治レイヤーの拡張だと感じました。
もちろん未完成な部分もあると理解しています。
- Shadow AgentのDiscoverはまだ強くない
- Microsoftエコシステム優先設計
それでも、方向性は明確でした。
SoR / SoE の境界
自分たちは今、こういう前提で設計しています。
- SoR(System of Record)は堅牢に維持している
- AgentはSoRを直接更新しない
- Agentはオーケストレーション/提案/実行補助に限定している
今回の議論で見えたのは、
この境界は永遠ではない
という点です。
AgentがSoRを書き換える瞬間は必ず来るでしょう。
そのとき、
- 誰が責任を持つのか
- どのログが監査対象か
- 例外を誰が拾うのか
ここまで含めて設計しなければなりません。
これはPoCの話ではなく、組織設計の話です。
1 Agent = 1 SLM の世界観
SLM(Small Language Model)の話も重要でした。
Fara-7Bのような小型モデル。
- 約7Bパラメータ
- Observe → Plan → Act → Reflect のループ
- スクリーンショット知覚(CUA)
- ローカル実行可能
ここで見えたのは、
「クラウド前提」の崩れ
将来的には、
- 部門単位の専用SLM
- 役割単位のAgent
- オーケストレーション前提の分散構造
が現実味を帯びてくるでしょう。
計算コストが1桁落ちると、設計思想は確実に変わります。
関連:
- Fara-7B
https://www.microsoft.com/en-us/research/blog/fara-7b-an-efficient-agentic-model-for-computer-use/ - Magentic UI
https://github.com/microsoft/magentic-ui
Agentic DevOps
GitHubのセッションも印象的でした。
Copilotは補完ではなく、
- PR生成
- テスト生成
- セキュリティチェック
- 設計補助
の前提へと完全に移りつつあります。
ここで起きているのは、
人がコードを書く
→ 人がAgentの成果物をレビューする
への移行です。
DevOpsの責任設計も変わっていくと感じました。
Evaluationは別問題
実務的に最も難しいのはここです。
- 精度90%では足りない業務
- 10%のエラーが致命傷になる
- セマンティック評価とクリティカルエラーの違い
AI導入の問題ではなく、
- 業務分解
- 責任分解
- 例外設計
の問題です。
そしてもう一つ。
AI支援からAI依存へ越えるラインは、気づかないうちにやってくる。
一番怖いのは、「便利だから」と任せ続けてしまうことだと感じています。
自分の現在地
今の自分はこうです。
- ChatGPT / Gemini → 思考整理
- Claude / Codex → 開発中心
- Agent → 個人実験レベル
- 組織設計 → まだAI前提ではない
つまり、
AIを使っている
でも AI前提で設計していない
そしてCTOなので、
組織の現在地は、自分の現在地とほぼ一致する
ここが一番重いと感じました。
つまり、組織がAI前提に変われていないとすれば、
それはCTOである自分の責任だと感じています。
まとめ
今回の訪問は単なる視察ではありませんでした。
- Agent 365 はAI時代の統治基盤
- SoR境界は揺らぐ
- SLMは設計前提を変える
- DevOpsも再設計対象
- そして一番の差は「迷いのなさ」
現時点では何かを宣言するつもりはありません。
ただ、延長線では足りないことは分かりました。

マウントレーニアが本当に綺麗でした。
この時期にここまで見えるのは運がいいらしく、現地の方も興奮していました。
こういうのは素直に嬉しいですね。
お礼
今回のExecutive Briefingをアテンドし、登壇し、議論してくださったMicrosoftの皆さん、本当にありがとうございました。
またご一緒させて頂いた各社のCTO、エンジニアの皆様もありがとうございました。
皆様がいらしたお陰でレベルの高い質問をして頂いたり、深掘りした議論になったなと感じております。
単なる製品紹介ではなく、
- どこまでAIに任せるか
- 責任をどう設計するか
- 組織は追いついているか
という問いに向き合えたのは大きかったです。
もし今回の対話がMicrosoftの皆さんにとっても価値あるものだったと評価いただけるなら、ぜひまた次回も参加させて頂きたいと思います。
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