QAコミュニケーションアンチパターン 終章
終章
「そんなことがあったのかぁ」
「はい…」
「ってかさ、俺のこと覚えていないの?」
「はひ?」
「今が大変すぎて、わからんよな」
彼は笑っている。
「あ」
「思い出した?」
「大榊さん?」
「そう、なんか俺の話をされている時、全身が痒かった」
「す、すいません」
「まぁ、褒められてたし、嬉しかったよ」
「まさか気が付かないとは」
「それだけ疲れてるってことじゃない?」
「そうかもしれません」
なんとなく元気が出てきた。
「いやさ、最初電車で見た時、どっかで見たことあるなって思ってさ」
「そうなんですね」
「でっかいため息ついてたし」
「はい」
「でさ、『はーひー』って言ってたから、そこでメビウス君って思い出したわけ」
「そこですか」
「でも、あからさまに悩んでいるようだったから、なんか名乗りにくくてさ」
「そうだったんですね」
「でも、ライブに行っていたって聞いて、その話もしたかったから、声をかけてみたんだよ」
「ありがとうございます」
「あのさ、うちの会社に来ない?」
名刺を差し出された。
「あれ?この会社って、あのテックジャイアントの…」
「そう、そこで部長をしてる」
「はーひー」
「怪しい会社じゃないから安心して」
「それは分かりますが、なんで自分が?」
「ちょっと仕事をした時に、たまたまメビウス君のソースコードを見たんだよ」
「はぁ」
「これがすごいんだ。読みやすいし、コメントも適切だし、テストコードもしっかりしてる。それに早い。プルリクエストの数とか見ても圧倒的だったよ。あれは本当にすごい」
「皆さんのサポートのおかげです」
「そう、それ。それに全然驕りがないんだよね」
「いやぁ…照れます」
「あと、うちの嫁さんからもいい評判しか聞いてないよ」
「へ?嫁さん?」
「そう、旧姓は『来世』」
「ふぁ〜ヒィ〜」
「まぁ、こういう失敗もあるけど、日頃の行いが良いと助けてくれる人がいるってことさ」
「はぁ、ですね」
「メビウスの輪から抜け出せない人もいるしね」
その言葉に驚いた後、自然と口をついて出た。
「そうですね」
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