QAコミュニケーションアンチパターン 2章 黒々 vs 大榊
黒々 vs 大榊
「まずですね、アジャイルでやること自体が間違っています。」
「それはなぜですか?」
「この規模ですよ?無理に決まっているじゃないですか?アジャイルでうまくいったプロジェクトなんてありませんよ。」
「規模が大きいのは確かなので、機能を切り出して細分化しました。」
「マイクロサービスとかいうやつですね。」
「そうです、マイクロサービスアーキテクチャです。」
「また、バズワードを持ち出して。新しいことが好きなのはわかりますが、新しいことだけではうまくいきません。」
「新しいことというより、単純に機能を切り出して接続する方がリスクが少ないです。」
「机上の空論というものです。」
「これは概要設計ですからね。」
「はぁ、私は現場に20年いるエンジニアですよ。」
「それはすごい、尊敬します。」
「その20年の経験からこのやり方はダメだと言っているんです。」
「うーん、僕も20年エンジニアをやっていますが。」
「え、え?」
「こう見えて、エンジニアなんですよ。前の案件で似たような開発をしていて、成功事例もあります。まずは機能を切り出します。今回は通知機能です。この機能にAPIを実装します。通知機能を使っているプロダクトを一つずつ切り替えます。『通知機能』として品質が担保されているので、チームはその部分に集中できます。また、ビッグバンリリースではなく、少しずつリリースできるので、リバートもしやすいです。」
「…」
「どうですか?」
「話を戻すと、アジャイルは失敗事例が多い。」
「具体的には?」
「以前、失敗しました。」
「振り返りはしましたか?」
「そんなこと、忘れましたよ。」
「困りましたね、事実がないと。」
「大体、ドキュメントはしっかり作らないと、時間がかかるものです。」
「今回の開発のドキュメントはどのくらい時間がかかりますか?」
「まぁ、3ヶ月はかかりますね。最低でも。」
「この設計書を見てください。」
「どれどれ、情報が少ないな。この機能はどんな働きをするんだ?」
「それはこのリンク先のユーザーストーリーに書いています。きちんと論理性が担保されています。」
「ユーザーストーリー…要件ですか?その要件は誰が書いたんですか?」
「私です。」
「要件はですね、我々が書くものです。」
「そう、黒々さんの要件定義を見たのですが…言いにくいのですが、全然我々の業務理解がなくてですね。」
「なんですと!失敬な!そもそもその業務が問題だから私がコンサルしてあげますと言っているんです。」
「いや、それだと業務が回らなくてですね。営業がこういう動きをして、こういう決済が必要なんです。」
「そっちを変えればいいでしょ!その前提です!」
「必要に応じて変えますが、現時点で問題が起こっていませんから。」
「ふーん。」
「少なくとも我々の観点では、黒々さんの進め方には課題があります。それに、先ほど見せた設計書は1週間で作成されたんですよ。3ヶ月もかかりません。」
「どれだけ御社の優秀なエンジニアを使ったんですか?ふん。」
「いや、優秀な有路さんが作ってくれました。」
「はひ?」
「この数ヶ月で我々の業務を把握していたようです。黒々さんが答えてくれなかったので、私の部下に問い合わせをしていたようで、吸収も早くて驚きました。私は指示を与えて、新システム前提でナレッジシェアしました。」
「私にはそんなこと一言も…」
「そんなことないと思いますよ。彼も報告していたと言っていましたので。」
「グゥ…」
「このスプリントでどのくらいできるか見てみようと思います。」
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