QAコミュニケーションアンチパターン 3章 絶望への足音
絶望への足音
「独黒さん、よろしいでしょうか?」
「なんだ」
この会社に入って3ヶ月になるが、独黒さんの態度はだいぶ変わっていた。3ヶ月後にオフィスを移転すると言っていた話も、いつの間にか消えていた。
「今日は提案資料を作って持ってきました」
「ほぉ、提案か。元コンサルの俺に提案するとは、いい度胸だな。クックック。見せてみろよ」
独黒さんは資料を紙でしか見ないため、ペラペラと紙をめくっていた。
「説明させていただいてもよろしいでしょうか?」
「説明?なんだこの資料は?クソだな」
そう言うと、独黒さんは説明資料をシュレッダーにかけてしまった。唖然としていると、
「改善したいなら、自分でどこかから金を引っ張ってきて、その金でやれよ。なんで俺にその話をするんだ?意味ねぇだろ」
何も言い返せなかった。というか、言う気力がなかった。それから2時間近く、昔のコンサル時代の自慢話や、昨日の夜の出来事など、どうでもいい話を延々と聞かされた。何一つ頭に入ってこない。
しばらくすると、社員の女性がすごい剣幕で部屋に入ってきた。
「メビウス、ちょっと出てろ」
部屋を追い出された。部屋からは、
「ちょっと、これどういうこと?」
「なんだろうな?」
「借金の取り立てじゃない?」
「ば、バカか、聞こえるだろ」
「資金の調達って、借金じゃないでしょうね?」
「そんなわけないだろ。金は入るってばよ」
「もう、信じられるわけないでしょ」
僕は、何をしているのだろう。
「だいたい、この詐欺みたいなマッチングアプリは何よ。ついに訴状も来ているわよ」
「そんなの放っておけよ。払わなければいいんだ。やばくなったら海外に逃げればいいさ」
「もう、ついていけないよ」
女性が部屋から出てきて、そのまま会社を出て行ってしまった。
「なんだ、聞いていたのか?」
「よく聞こえませんでした」
「なら、いいよ」
僕は放心したまま、会社を出た。今週末は楽しみにしていたライブがある。
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