QAコミュニケーションアンチパターン 2章 話題久闊 メビウスの輪から
話題久闊 メビウスの輪から
香椎さんが「メビウスくーん、リーダーとして新しい業務をお願いできないかな?」と言ってきた。
「なんでしょう?」
「専属のQAがいないじゃない?この会社にもQAが少なくて、外部の会社から提案をもらっているんだ。」
「なるほど。」
「今日、QAエンジニアの面談があるんだよ。そこに同席してくれないかな?」
「わかりました。」
会議室に入り、しばらくすると二人が入ってきた。紫色のスーツを着た営業と、どこかで見たことがある人だ。
「あ、誤三さん。」
「へ?」
「おや、お二人は知り合いなんですか?」
「はい、前にプロジェクトで一緒に仕事をしていました。」
「じゃあ気心が知れているわけだ。これはお互いにウィンウィンですね〜。」
「へー、そうなんだ。」
誤三さんは冷や汗をかいている。
「じゃあ余裕っしょ、このミーティングも不要ですかね?」
確かに、絶対に契約しないと思った。
「まぁ、話だけでもしましょう。」
「弊社は、あの第三者検証会社から独立しました。ナレッジはばっちり持ってるし、優秀なQAエンジニアを引き抜いています。あの会社はだいぶぼったくっていますが、こちらは低料金で提供しますよ。優秀なQAを。」
ところどころに悪口が混じっていて不快だ。
「で、誤三さんはどうでしたか?」
誤三さんとのやり取りをできるだけ悪口にならないように話したが、どうしてもマイナスな内容になってしまう。
「う、嘘でしょ?そんなこと。」
「嘘と言われましても…」
会議室は地獄のような空気に包まれていた。香椎さんも引きつった笑顔を浮かべている。誤三さんはさらに引きつっている。この場にいる全員のためにも、この会を早く終わらせた方がいい。しかし、
「今はそんなことない。な、なぁ。」
「そ、そうです。」
おそらく、何も変わっていないだろう。
「頼みます!契約してください!そうしないとこいつの給料が払えないんです!」
「は?何それ?本当ですか?」
誤三さんが怒り始めた。無理もない。
「嘘に決まってん…」
嘘なのかよ、と僕も香椎さんも顔で語っていたと思う。
「嘘じゃない。本当に資金繰りが危ないんです!」
泣き落としにかかっているようだが、そんな会社と契約するのは危険すぎる。確か、契約ルールにも抵触している気がするし、そんな危ない橋を渡りたくない。
それから、紫色のスーツの泣き落としが続き、会議時間ギリギリ、次の人を待たせるほどだった。
誤三さんも気が気でないらしい。ようやく会議が終わった。
「なんかすまねぇな。でも、俺が謝ることでもないのか。」
「こちらこそ、すみません。」
変な緊張感があり、疲れたので気分転換を兼ねて外のコンビニに飲み物を買いに行った。すると、
「資金繰りが危ないって本当ですか?」
「嘘に決まってんだろ、ウルセェな。」
「でも、今日給料日なのに振り込まれていないじゃないですか!」
「今から振り込むよ。」
「本当ですか?」
「うるせぇったらうるせぇよ。それよりよ、前のプロジェクトの成功事例ってなんだったんだ?嘘じゃねぇかよ。」
「それは、その…」
「そんな奴に給料は払いたくねぇな。まぁ、人出しだから、どっか適当に入れれば金入ってくるんだけどさ。」
「くぅ、メビウスめ、余計な…」
思いっきり目が合った。きっと彼はずっと誤算を繰り返すのだろう。
「誤三さんが誤算を繰り返す。」
心の声が漏れてしまった。しかも語呂が悪いので噛んでしまった。
「きぇぇぇぇ!」
誤三さんが叫び始めた。するとちょうど警察が来て連れて行かれてしまった。紫のスーツの男はすでにいなくなっていた。
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