QAコミュニケーションアンチパターン 3章 居心地の良さと成長への葛藤
独黒統吾(どくろとうご)
スタートアップのCEOで、独裁的なリーダーシップを取る人物です。指示命令型で他者の意見を無視し、自分の判断のみで行動します。自己中心的で感情を抑え、部下に対しては冷淡な態度を取りますが、外面が非常に良く、投資家にはへこへこと媚びを売る二面性を持っています。その結果、チーム内では萎縮が生じ、創造性や協力が生まれにくく、プロジェクト全体に悪影響を及ぼします。
居心地の良さと成長への葛藤
大榊さんのプロジェクトが始まってから、3年が経っていた。彼がプロジェクトを軌道に乗せた後、別の炎上案件にアサインされたと聞いたが、あまり話す機会がなかったのが残念だ。
黒々さんが抜けてからは、開発は順調に進み、ストレスなく色々な技術的チャレンジもできるようになった。さらに、さまざまなイベントで発表する機会も増えた。
僕はリーダーとしての役割を果たしつつ、QAの師匠である来世さんから、QAのナレッジも教えてもらっている。来世さんと僕のように、開発技術を持ったエンジニアをSDETというらしい。開発部長の香椎さんも、このSDETというロールの導入に前向きなようだ。
来世さんは、「SDETって響きかっこいいな」という香椎さんの独り言を聞き、「いかにも香椎さんらしい」と笑っていた。僕もSDETとして登壇したり、イベントに参加する機会が増え、SNSのフォロワーも増えてきた。
イベント会場では「メビウスさんですか!」と知らない人に声をかけられることも多くなった。自分の発表では「有路玲夢」と名乗っているのだが、龍井先輩がその会場で「メビウス君」のネタを披露するので、業界内にその名前が広まってしまっている。いつまで中二病でいなければならないのだろう。
さまざまな人と会話するうちに、一つの欲求が芽生え始めた。
スタートアップに興味が湧いてきたのだ。僕のいる会社は大きく、様々な人に守られた環境だ。リスクも少なく、もし何かあれば香椎さんたちがフォローしてくれる。この環境に甘えているような気がして、自分の力だけでどこまで技術力で貢献できるのか、試してみたくなった。
仕事は順調すぎるくらい順調だ。龍井さんもリーダーを希望し、別のチームへ移動した。たまたま同じプロジェクトの別チームへ移動となり、よく連携することになったので、みんな寂しがってはいなかったが、お別れ会の時は号泣していた。次の日も会う予定なのに。
新卒メンバーも加わり、オンボーディングや育成で忙しくも充実した日々を送っている。それでも、何かが足りない気がしている。来世さんもそれを察しているようで、「最近、もどかしそうねぇ」と言われた。
「そうなんです、この環境が居心地良すぎて、エンジニアとしてこのままでいいのかなって思うことがありまして」
「あぁ、わかる。私もそんな時期があったわ」
「そうなんですか?」
「それで今の第三者検証会社に移ったのよ」
「そうなんですね」
「今では管理職もやってるわ」
来世さんは週3日だけこちらで働いていて、残りの2日は自身の会社で後進の育成をしているそうだ。イベントで来世さんを師事しているエンジニアに会ったことがあるが、みんな知見が深く、さすがだと感心した。
「このチームには思い入れがあるんですよ」
「そうでしょうね。いいチームだし」
「だからこそ悩んでいるんです」
「チームのことも大事だけど、自分の気持ちも大事にしないとね」
「自分の気持ちがどこに向かっているのか、まだよくわからなくて」
「それもわかるわ。気持ちばかりわかるって言って申し訳ないけど」
「いやいや、いつも1 on 1ありがとうございます。話すことで気持ちが整理できて、気づきも得られて助かっています」
「あら、嬉しいわ」
「もう少し考えますね」
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