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QAコミュニケーションアンチパターン 1章 話題久闊 メビウスの輪から

2024/08/27に公開

話題久闊 メビウスの輪から

ある日、会社帰りに突然声をかけられた。

「君!エンジニアだろ!」

なぜか、相手にはエンジニアだと見抜かれてしまったようだ。なんとなく不安を感じる。

「ちょっと話を聞かせてくれないか?」

その人の目は異様にギラギラしている。どこかで見たことがある気がするが、どうしても思い出せない。

「いや、知らない人についていくのはちょっと…」

「いいから、いいから、そこに高級ホテルがあるだろ?そこのラウンジなら安心だろう」

「はーひー」

半ば強引に連れていかれ、何か怪しい勧誘かもしれないと思いつつ、渋々ついていくことにした。最悪の場合は逃げようと心に決める。

「ほらほら、注文して」

メニューを見ると、コーヒーが1,500円もする。さすが高級ラウンジだ。一応注文する。

「僕さ、スタートアップで社長していたんだよ」

「そうなんですね」

「なんと、20億円も調達したんだ」

「すごいですね」

「IPOを目指してたんだよ」

「じゃあ、今も…」と言いかけると、相手が突然怖い顔をして、

「それ以上言うな」

「はーひー」

話が途切れてしまう。しばらくすると、

「昔のことはいいじゃないか」と、再びニヤニヤし始めた。

「今のビジネスは人出しをしているんだ。人を集めて売るってことさ」

「売る?」

「あぁ、人材をシェアするって意味だよ」

話が雑だ。自分の会社も同様の業務形態だが、しっかり法律やコンプライアンスを守りながら契約をしている。

「ってことで、君もぜひうちに」

「はーひー。今の職場で満足しています」

「給料教えて」

「いやいやいや」

「仕事内容は?ブラックなんだろ?不満は?」

「あんまりないですし、残業もありませんし」

「じゃあ、給料が少ないんだな」

「平均くらいかと」

「一発逆転しよう!」

会話が全く噛み合わない。相手はこちらの話をまるで聞いていない。

「じゃあ、これで」と言って席を立とうとすると、

「忘れ物だぞ!」

と言って伝票を渡された。

(奢ってくれない…それどころか、こちら持ちにする気か?)

振り返ると、不機嫌そうにこちらを睨みつけている。この光景がどこかで見たことがある気がするが、やはり思い出せない。

とにかく、一目散に逃げ出した。

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