QAコミュニケーションアンチパターン 1章 話題久闊 メビウスの輪から
話題久闊 メビウスの輪から
ある日、会社帰りに突然声をかけられた。
「君!エンジニアだろ!」
なぜか、相手にはエンジニアだと見抜かれてしまったようだ。なんとなく不安を感じる。
「ちょっと話を聞かせてくれないか?」
その人の目は異様にギラギラしている。どこかで見たことがある気がするが、どうしても思い出せない。
「いや、知らない人についていくのはちょっと…」
「いいから、いいから、そこに高級ホテルがあるだろ?そこのラウンジなら安心だろう」
「はーひー」
半ば強引に連れていかれ、何か怪しい勧誘かもしれないと思いつつ、渋々ついていくことにした。最悪の場合は逃げようと心に決める。
「ほらほら、注文して」
メニューを見ると、コーヒーが1,500円もする。さすが高級ラウンジだ。一応注文する。
「僕さ、スタートアップで社長していたんだよ」
「そうなんですね」
「なんと、20億円も調達したんだ」
「すごいですね」
「IPOを目指してたんだよ」
「じゃあ、今も…」と言いかけると、相手が突然怖い顔をして、
「それ以上言うな」
「はーひー」
話が途切れてしまう。しばらくすると、
「昔のことはいいじゃないか」と、再びニヤニヤし始めた。
「今のビジネスは人出しをしているんだ。人を集めて売るってことさ」
「売る?」
「あぁ、人材をシェアするって意味だよ」
話が雑だ。自分の会社も同様の業務形態だが、しっかり法律やコンプライアンスを守りながら契約をしている。
「ってことで、君もぜひうちに」
「はーひー。今の職場で満足しています」
「給料教えて」
「いやいやいや」
「仕事内容は?ブラックなんだろ?不満は?」
「あんまりないですし、残業もありませんし」
「じゃあ、給料が少ないんだな」
「平均くらいかと」
「一発逆転しよう!」
会話が全く噛み合わない。相手はこちらの話をまるで聞いていない。
「じゃあ、これで」と言って席を立とうとすると、
「忘れ物だぞ!」
と言って伝票を渡された。
(奢ってくれない…それどころか、こちら持ちにする気か?)
振り返ると、不機嫌そうにこちらを睨みつけている。この光景がどこかで見たことがある気がするが、やはり思い出せない。
とにかく、一目散に逃げ出した。
Discussion